教養学部の小論文対策
一般入試の小論文は読解力に足切りがある
日本最難関である東京大学の現代文は、高い読解力が求められる。つまり一流の筆者が書いた難解な文章を読み解く能力が求められる。センター試験や国立二次の現代文を対策しているのならば、読解力にはある程度の自信を持っているのではないだろうか。
現代文に限らず一般入試にある各大学の小論文の試験においても、課題文をきちんと読めるかどうかに合否のハードルが敷かれがちである。最も難解な文章を課題文に課す大学は慶應義塾大学法学部や名古屋大学法学部などであり、さらに複数の文章を構造的に読み解く能力が求められるのは慶應義塾大学SFC(総合政策学部・環境情報学部)の小論文である。推薦入試が始まる前の東京大学の後期試験も特に読解力が求められる試験であった。こうした試験では受験生自身が題意を理解して、きちんと対話できることが難関大学の小論文試験の最低ラインであった。ところが東京大学推薦入試の教養学部の小論文はどうであろうか。
教養学部の課題文は簡単である
学科ごとに問題が分かれているが、与えられる課題文はそこまで難解ではない。東大の現代文を解く訓練をしている受験生諸君にとっては拍子抜けするほど課題文自体は容易である。統合自然科学科などにおいては、課題文どころか設問しか与えられていない。少し考えれば、東大志願かどうかに限らず、受験勉強をしていない普通の高校生であっても答えを出せてしまう。この課題の容易さから「東大推薦の教養学部の小論文は簡単である」という評価を下す者もいるだろう。
だが少し待って欲しい。小論文の試験において「課題の容易さ=合格の容易さ」と言えるのだろうか。そもそも東大はこうした問題を受験生に課して、どのような能力を測りたいと考えているのか。そうした背景に思いを馳せることは、対策する上では肝心である。
前提として「課題文が簡単である=合格の難易度が低い」という論理関係は成り立たない。
課題文が難解である場合、評価できる答案を書ける受験生割合は必然的に少なくなる。100人の受験生で10人を定員とする試験を考えてみよう。与えられた題意に的確に押さえることができない受験生が80人程度いれば、残りの20人の中での合格者争いになる。ところが課題文を読み解ける、題意を押さえられる受験生の人数が下がれば下がるほど、試験の合否水準は必然的に「読解力」とは違うポイントでの争いとなる。つまり答案の中身の勝負であり、どれだけ試験官を唸らせる答案を書くことができるかが重要となる。
ほぼ全員が題意を押さえられる→記述内容勝負
さて東大の教養学部は難解な課題文を出していない。そうなると受験生のほぼ全員が題意を押さえて解答を書くことができるため、読解力ではない「中身勝負」の試験となるだろう。
教養学部の小論文試験のもう一つの大きな特徴は解答を書きつくることのできる自由度の高さである。受験生が100人いれば100人とも違う解答を書いてくるような解答の選択肢は多様性があり、自分の持っている知識や経験をフル活用することによって、いくらでも陳腐な答案でも、良質な答案でも書けてしまう。
誰でも解答を書くだけは簡単であるが、採点者側に立つと、答案のレベルの差が露呈してしまう。そういう狙いを持っている試験ともいえよう。教養学部としては「どうだ、お前の出来る能力を全部出してみろ」という試験である。
「思慮深さ」が合否のポイント
さてこうした試験で求められる能力は「思慮の深さ」である。与えられた設問に陳腐に答えて収束させるのではなく、自分の今まで読んできた文献や経験などから具体例や根拠を持ちこみ、思慮深く議論を展開することによって、ようやく評価される答案となる。東大推薦の2期では受験生24人に対して合格者はたった1名であった。それほどに教養学部が想定している「思慮」とは限りなく深い。
「思慮深さ」が求められていることから、自由度を活かして自分の得意とするフィールドに持ち込むこともできるし、東大が考えてほしい論点と真っ向勝負することもできる。事前に自分の過去の経験を整理して議論してみたいネタを考えておくことや、慶應義塾大学SFCや東京大学の後期試験の小論文試験の問題と格闘し、思いついた論点などを文章にまとめておくことで「思慮深く」考える能力を鍛えておくことをお勧めしたい。
著者と対決できるほどの思慮深さを
「思慮深さ」を鍛錬するために、前期日程試験の現代文を読み込んでおくことも良いだろう。東大の現代文(特に評論)は毎年良質な問題が出題されており、学問の中心議題となっている事柄が押さえられている評論文が出題されている。そういう意味では「思慮深い」文章に触れる経験は多く行ってきたものと推察できる。だがやり方を少し変えてみよう。前期日程試験で高い点数を取るために読むだけでなく、筆者の考えと討論し、より深い結論を得ることも「思慮深さ」を鍛える上では効果的なのだ。
またその「思慮深い」考えを文字にして表現する訓練もしてみよう。教養学部の試験は事前に必要とされる”知識”は殆どない。過去問を見る限りでは数学的なリテラシーも、政治学や法学などの理論の体系的理解も求められているわけではない。前述の通り「その分野の知識がなかったから1文字も書けなかった」という試験にはなってはいない。誰でも答案はとりあえず書けてしまうのである。
こうした試験においてテクニック面で差がつくとするならば、展開する意見の論理的整合性であろうか。意見と理由が説得的で、首尾一貫した文章が書けているかどうかで評価が大きく分かれるであろう。そうした点においては日頃からの言語運用能力がモノを言う試験になっている。「思慮深い」内容は小難しくなりがちであり、なかなか万人に分かってもらえる文章にまとめるのは骨が折れる。だがその労苦に向き合いながら、より洗練された文章を書く訓練は「長い文章で評価される試験」を受験する君たちは是非とも行ってみてほしい。
健闘を期待する。
対策として有効な問題について
●京都大学特色入試総合人間学部 文系総合問題
●東京大学大学院学際情報学府修士課程 文化人間情報学プログラム 専門試験 問L1
●慶應義塾大学総合政策学部・環境情報学部一般入試 小論文
問題は赤本に記載されています。
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