イギリスのEU離脱について
public.icon
from EU
イギリスのEU離脱について
EU構想の起源は16世紀のルネサンス期に誕生した「文芸共和国」に遡る
──
そうして形成されたクロスボーダーな「人文主義者のネットワーク」はそれから後も形態を変えながらヨーロッパにつねに存在し続けいる。
クーデンホーフ=カレルギー伯爵の「汎ヨーロッパ主義」
オルテガ・イ・ガセットの「ヨーロッパ合衆国」構想
ピエール・ド・クーベルタン男爵の「近代五輪」構想
いずれも「文芸共和国」のアイディアに由来している。共通するのは、「そういうこと」を考え出す人たちがみな「貴族」だったということである。
──
17世紀ウェストファリア条約を契機に国民国家システムが始まってからは、それぞれの国民国家は「自国益を最優先する立場と(本音)」と「ヨーロッパ全体の生き残りを優先する立場(建て前)」を二極として、その間のどこかに「おとしどころ」を求めるという仕方で国家運営をしてきた。
──
英国のEUをめぐる国民投票では、富裕層・高学歴層が「残留」を求め、労働者階級や低学歴層が「離脱」を求めたという統計が公開されている。
ヨーロッパ諸国の共生という「理想主義」と「自分さえよければそれでいい」という「現実主義」を対比させての国民投票なら、あるいは結果は違ったかも知れない。だが、残留派はEUに残ることのもたらす経済的「実利」を表に出して、EUに制約されない主権国家でありたいという政治的「幻想」に屈服した。これは国民投票を仕掛けたキャメロンの失着だったと思う。
転換期において統治者に求められるのは、見晴らしのよいヴィジョンであって、目先の銭金の話ではない。そのことを日本人も「他山の石」として学ぶべきだろう。
ただ、「ヨーロッパ共同体」と「国民国家」の葛藤は今に始まった話ではない。だから、これで終わるわけでもない。
英国のEU離脱について - 内田樹の研究室