導引機械
概要
19世紀初頭、英国を席捲した『知性革命(Inteligence Revolution)』を経て、さらに前世紀からの産業革命の流れを受けて造り出された機械が『導引機械』です。導引機械は、その別称を『解析機械(Analytic Machine)』といい、基本的には機能的に拡大された計算機械です。 導引機械は、動力に蒸気機関と発条を用いた精密計算機械です。導引機械内の全ての計算は、物理的な過程を経ることで行われています。その構造は無数のギアと歯車、発条、クランクなどが複雑に組み合わされた。
多くの導引機械には、パンチカード(『プログラム=カルテと呼ばれています)によるプログラム機構が組み込まれています。現在の導引機械のほとんどは、導引機械協会によって統一された専用言語によるプログラム機構を備えており、様々な用途に用いられています。このようなプログラムを行うことの出来る人間は、導引機械技師達に限られています。彼らは修理やメンテナンスなども行います。 導引機械は、巨大な外観と超精密な内部機構を備えているという、複雑極まりない機械なのです。
導引機械史
歴史的に見ると、導引機械の祖先はドイツの哲学者であったライプニッツ(1646-1716)の考案した歯車式計算機『計算機軸』にあると考えられています。また、それ以前の歴史を調べてみると、レオナルド・ダ・ビンチの草稿の中に『計算機械』の設計図が記載されていたことも伝えられています。ただ、ダ・ビンチの草稿は失われてしまったものも多く、その伝説が真実かどうかを確認することはできない状態です。
実際的には1822年からのチャールズ・バベッジ卿(1792-1871)による汎用歯車式計算機『解析機関』の開発の経過が反映されているとされています。バベッジ卿は実際には機械を開発することは出来ませんでしたが、後半生を解析機関の理論的研究を行い、オーガスタ・エイダ・バイロン・ラヴレイス伯爵夫人(1815-1852)の協力を得て導引機械の基本的な概念を完成させました。しかし完全主義者であったバベッジ卿と王立数学協会との間で解析機関における様々な規格面で対立があり、1840年代にはバベッジ卿は解析機関の研究を中止せざるを得ませんでした。事実、1846年に『導引機械協会』が発足した時点では、バベッジ卿は無視される形であり、名誉会長にはジョナサン・ハックマン氏が就任しました。しかし1860年代にはバベッジ卿とレイディ・エイダによる汎用導引機械のためのプログラムのための言語についての研究が再評価され、現行の導引機械プログラム言語は、ほとんどがこの『バベッジ=エイダ式機械記述法(Babbage & Adas System Interpreting Code)』で記されています。現在ではバベッジ卿の名はエリアン・ポットマンと共に、『導引機械の父』として知られています。
現在の形の導引機械は1831年のエリアン・ポットマンによる設計図の発表からその歴史が始まったと考えられます。しかし発表当時、その重要性については理解されませんでした。彼はマイナーな研究者であり、バベッジ卿と異なり、政治的な力も持っていなかったのです。エリアン・ポットマン自身は設計したシステムに『ギガント・マセマティカ』と命名を行いました。ポットマンは翌年死亡し、社会的な評価が下されることもなく研究結果は散逸しました。
1842年にバベッジ卿への政府からの援助の打ち切りが行われました。その同年、ジョナサン・ハックマンによるエリアン・ポットマンの再評価が行われました。バベッジ卿の解析機関に代わる自動計算機械を求めていたハックマンは、偶然ポットマンの設計図を入手したと伝えられています。ポットマンの設計図に基づいて計算機械が組み上がり、発表されました。同時にこの機械による計算結果を人間に分かるように表示するために、技師ジョンソン・スミスによって『エンゲージシステム』の開発が着手されました。これ以降、現在に至るまでジョンソン・スミス他の手によって、エンゲージシステムの断続的なバージョンアップが行われ続けています。翌年1843年 『ギガント・マセマティカ』と『エンゲージシステム』の複合体が『導引機械』と初めて呼ばれることになります。
それから10年後の1853年、王立統計学協会で導引機械の使用が開始されると同時に導引機械が一般業務に使用され始めました。1860年代にエンゲージシステムに外部プログラミング機能が付加されるに至り、汎用導引機械は様々な業務に用いられるようになっていきました。このための言語の開発は、遡ること20年、バベッジ卿とレイディ・エイダの手によって行われたものを、ほぼ完全な形で移植したものです。この導引機械プログラム言語、『バベッジ=エイダ式機械記述法』の完成度が高かったことにより、柔軟な導引機械プログラミングが可能になり、導引機械が社会に広がったと言われています。
現在、導引機械は普及の時期に入っており、多くの業務は導引機械無しでは行うことの出来ない状況になっています。社会的にも完全に認知さており、『導引機械技師』は収入も良く、人気のある職業になっています。
導引機械の構造
大部分の導引機械は、『中央歯車樹(Central Cog Tree)』と呼ばれる演算部分をその中心に持ち、それを囲うようにして、いくつかの機械が組み込まれると言った構造をしています。この『歯車樹』は、その名の通り、細かい歯車が複雑に絡み合って構成されています。幹と枝とを形作るかのように部品が配置され、膨大な歯車の群れは、あたかも樹のような姿になっています。フラクタルな形状とも言えるかもしれません。導引機械にとって、この部分は脳に相当するといえましょう。『歯車樹』の回りに配置される機械には、『エンゲージシステム』や、『グラフィックエンジン』、『サウンドエンジン』、『データドックエンジン』、『サーチエンジン』などが挙げられます。
エンゲージシステムについて
『エンゲージシステム(Engage System)』は、導引機械を用いるために、必須かつ最も重要な部品です。その役割は人間と機械との仲立ちです。導引機械は基本的には汎用処理機械です。従って、機能ごとに人間が望む働きを行わせるための『アダプター』と『インターフェイス』が必要になってきます。その二つを兼ねる機械がエンゲージシステムです。簡単な概念に置き換えるならば、無数の歯車の回転を、人間の言葉として打ち出し、逆にアルファベットを歯車語に翻訳するシステムがエンゲージシステムであると考えて良いでしょう。
この人間と機械の仲立ちを行うシステムは、1842年にジョンソン・スミスによって提案され、同年末にプロトタイプが完成されました。この時のシステムは、導引機械に統計機械としての役割を与えるためのものだったと伝えられています。
近年は汎用エンゲージシステムが導引機械に搭載されています。汎用エンゲージシステムは、それが用いられる様々な場面に応じて、『バベッジ=エイダ式機械記述法』を用いて記述されたプログラム=カルテを用い、歯車を調整します。この手続きを用いることで、役割に応じたエンゲージシステムを構築するのです。
導引機械プログラムについて
導引機械を人間の役に立つ機械として働かせようとする場合には、エンゲージシステムに対して運算の命令を与える必要があります。この運算命令は、『導引機械プログラムコード』(もしくは単に『コード』)と呼ばれています。導引機械プログラムは、暗号化されたパンチ・カードに蓄えられています。このカードは、『導引機械プログラム=カルテ』と呼ばれています。 プログラムカルテの枚数は、そのプログラムの複雑さに比例しています。単純なものであれば数十枚程度、複雑なものは数万枚を超えるボリュームとなります。普通の事務所などで使用されているプログラムは、政府及び『導引機械協会』によって定められたプログラミング規格によって記されています。このプログラミング言語は余り複雑でない文法規格であり、機械に悪影響を与えないような設定になっています。この文法は、『バベッジ=エイダ式機械記述法』という文法を元にしたものです。しかし、例えば政府、教会、研究機関などでは自分達で導引機械の構造を解析し、より効率の良いプログラムを組んで、導引機械を利用しています。このような場合には、プログラムの論理構造が間違っていたりすると、歯車を痛めたり、最悪の場合には機械自体を破壊してしまうこともあります。 主な導引機械
ビッグ・ベン/ウェストミンスター宮殿