スレッドニードル街で知られた物乞が姿を消す
TDL.icon どんなに有名な物乞だろうと、やはり人々の関心は強くないのかも知れない。
とても目につく赤毛や、顔の大きな傷にやりめくれあがった唇。スレッドニードル街の外れで、マッチを並べながら道行く人々の興味を引いている。どんなにからかわれてもすぐにていの良い言葉を返す才気もある。そのためか、脇に置かれたくたびれた革の帽子には、わずかな時間で多くの慈悲が注がれていく。倫敦広しといえどもこれだけ稼ぐ者はいないだろう。 ヒュー・ブーンという名で知られるその物乞はいつの頃からあらわれたか定かではないが、その来歴などを知る者はいない。昼頃から夕方まで、ほぼ毎日姿を見ることができる。 どこで寝起きしているのか、同様の商売をしている者でさえわからず、パブで見た者さえいない。彼ほど稼ぐことの出来ない者でさえ、週末はその所持金をアルコールや一時の享楽にかえる。しかし、寡聞にしてブーン氏にはその様な噂もない。 そんなブーン氏の姿が見えないと周辺で囁かれ始めたのは11日の火曜日からである。そんなこともあるかもしれないが、3日も姿を見せないのは初めてだ。
ある人の話では、同業者間の争いではとの噂もある。ブーン氏に関心を持つものは少なくないだろう。時々は、警察の世話にもなっている模様だ。
ブーン氏の姿が確認されている月曜日の夕方に、テムズ川沿いのスワンダムレーンの阿片窟で、大勢の警官がインド人と争う声が聞かれている。一人の物乞が逮捕されたという話もあり、ブーン氏の姿が見えないことと関連もうかがえる。本紙記者は警察に問い合わせをしたが、事件に関しては情報は得られていない。 関連記事
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