仮想人格
概要
『仮想人格』は19世紀末倫敦で一般的に利用されている科学技術であり、文化であり、社会風俗です。この『人工的な多重人格』という奇妙な技術は、倫敦市民に容易に各種の技術の習得をもたらしています。一方この技術は、前世紀では想像も出来なかったような悲惨な犯罪の温床ともなっています。議会では未だこの技術に関する議論が続いていますし、特に最近では強硬に全面禁止を訴える議員もいるようです。しかし、既に社会では多くの仮想人格が利用され、日々新しい人格プログラムが流通しているのです。 簡単に言えば仮想人格は『行動を変容させるための技術』です。意識に対して強制的にパッチを当て、各種の場面場面に対応した相応しい技能を出力するというものです。あえて言うならば、極めて強力な催眠術のようなものです。この催眠術は導引機械の利用によって自動化されており、市民にとって比較的手軽に利用できるものになっています。
基本情報
歴史とは過去のものです。ここでは仮想人格の歴史的な背景はとりあえず置いておいて、現在の倫敦での仮想人格の状況を説明しましょう。
最初は発展する産業に技術の習得が追いつかないことで、職を失いがちな産業難民のために用いられていた仮想人格も、そのバリエーションが増えるに従って中産階級へと浸透しています。その結果仮想人格は既に社会的に認知されています。しかし、導引機械と異なり、表向きは認められていても、一部の人々には道徳的にはどうかと思われています。特に人格のスイッチングを行う際に薬物を利用する点や、特にオリジナルの仮想人格の安全性に疑問があることなどが問題になっています。
最近は自家製の仮想人格プログラムにおいて多くの問題が発生しています。それを受けて政府側も政府制製のカルテ以外を取り締まろうという動きに出始めています。人格屋には政府の認定した技術レベルを持つ者にだけ発行される免許が必要で、人格導入も指定された店でしか行うことが出来ないという対処も、その一環で行われています。それにより、人格導入などのコストが跳ね上がったという問題もあります。しかし、『闇人格売り』や『闇導入屋』では以前と同様に低いコストでオリジナルの人格を販売しているようです。同時に政府制製のものに似せかけたまがい物が流通している場合もあるようです。
仮想人格を利用する
仮想人格を利用するには、人格を記述した『仮想人格プログラム=カルテ』を入手し、実際にそのカルテに記載された人格を導入する必要があります。導入にはドラッグの使用と、特殊な図形の回転によって得られる、視覚的睡眠誘導作用が利用されています。この手段を用いて使用者の意識の奥に空白部を作り、そこに一時的な人格の記憶(データ)を入れ、適宜元の人格と切り替えることで、別人格として振る舞うことが出来るようになるというシステムです。この処理のためには導引機械の利用が欠かせません。
記憶の挿入には2~3時間程度が必要です。また、その人格を表面に出すためには、スイッチとして、ある種の覚醒系の薬物を使用しなくてはなりません。
覚醒系薬物を利用して仮想人格が覚醒した後は、一人の人間の体の中に二人以上の人格が同居することになります。また、仮想人格の消去は、仮想人格の導入されている意識上の場所に『空白の人格』を上書きすることによって成立します。
挿入されている仮想人格と本来の『真の人格』では、真の人格の方が優勢の状態になることが出来るように設計されており、仮想人格の働きを監視することができます。また、仮想人格から真の人格へと移行するためには(これを『自分に帰ってくる』といいます)、再び薬物を使用する必要があります。
仮想人格プログラム=カルテ
仮想人格プログラムは『仮想人格プログラム=カルテ』と呼ばれる形式で流通しています。これらは特殊な導引機械用連続紙にパンチ穴を穿ったものです。このパンチ穴が導引機械のプログラムとなっており、汎用人格導入用導引機械を、目的の人格の導入用機械へと変化させ、同時に人格を導入するために調整するのです。
仮想人格プログラム=カルテは政府制製のものを除くと、人格小路(Identities Low)で作られているものがほとんどです。人格小路は仮想人格を組む専門の職人が集まった街です。ここで作られる各種の仮想人格プログラム=カルテは、品質もピンきりであり、政府の工場から卸された人格プログラムを改造する者、自分でマニュアルと首っ引きでオリジナルの人格プログラムを組み上げる者と様々です。このような作業に従事している者を、『人格設計者』と呼びます。人格設計者は導引機械協会に属している導引機械技師の場合もありますし、独力で技術を習得した職人の場合もあります。
オリジナルな設計が施され、カルテ化された仮想人格を販売するためには、『仮想人格販売免許』が必要です。この免許を持っている者であれば、誰でも『人格売り』として、合法的な仮想人格を販売することが出来ます。 /icons/hr.icon