人格売り
概要
『人格売り』は、『仮想人格販売免許』を持つ商店を指していう言葉です。しかし、同じ人格売りでも、ウェストエンドとイーストエンドでは性質が異なっています。
基本的にウェストエンドにおける人格売りは、仮想人格諮問会の認可を受けた安全な人格ソフトのみを取り扱っています。販売免許さえ持っていれば、クラブの一角でも仮想人格を販売することができるため、書店や薬局などが販売している場合もあります。
一方イーストエンドの人格売りにおいては人格プログラムカルテは(免許を持っているものはウェストエンドの人格売りと同様の販売をしていますが)基本的に「自己開発による直接販売」が主流になっています。つまり、イーストエンドの人格売りは自らが『人格設計者』を兼ねているのです。人格の設計には、専門の導引機械と専門の記述言語があり、それを用いて記述された『人格プログラム=カルテ』が個人なりグループなりによって作成されているのです。そのように製作される自家製人格ソフトには、当局の認可が降りている仮想人格並の質を持つものもありますが、その多くはテストを繰り返すことが出来ないため、多くの問題を抱えている場合がほとんどです。しかしイーストエンドのスラムに住まざるを得ないような人々は、このような安全性の低い、質が良いとは言い難い仮想人格ソフトを購入するしかありません。
導入屋
仮想人格プログラム=カルテを手に入れたとしても、それを導入せねば用いることは出来ません。そのために、『導入屋』と呼ばれる職業があります。導入屋は仮想人格を導入することを専門とする技術者です。
人格売りと同様に、導入屋も倫敦の地域的な特徴を反映しています。ウェストエンドの裕福な地域における設備のよく整ったものと、イーストエンドのスラムにおける違法かつ格安なものです。前者は中流階級以上によって、そして後者は主にスラムに住む売春婦によって使用されています。
ウェストエンドの導入屋は、導引機械協会にも加盟しており、安全な方法と確認されている方法でしか、仮想人格の導入を行いません。使用者はたとえ導入が失敗に終わったとしても物理的な障害を受けることはありません(ただ基本料金をとられるだけです)。しかし違法の導入屋においては(良心的なところにおいても)何らかの障害を被る可能性があります。
違法の導入屋を経営しているのは、人格設計者と人格販売店を兼ねる人格技師の場合もありますが、そのほとんどが心理学者くずれや医者くずれ、全くの詐欺師、その他の得体の知れない人々です。
仮想人格の利用コスト
仮想人格を利用するのに必要となるコストは、導入しようとする対象の仮想人格に依存します。
通常、制式のプログラム=カルテは一回の導入によって再利用不可能な状態になるように設計されています。これは品質の劣化を防ぐための工夫です。このような制式のプログラム=カルテを購入するならば、安いもので5ポンド程度を支払うことで入手することができます。高価なものであれば、数ギニーを支払う必要があります。 一方、イーストエンドなどで見ることのできる、人格売り自らが人格設計者を兼ねる店では、自家製の(つまり制式ではない)仮想人格プログラムカルテをレンタルし、提携しているもぐりの導入屋で20シリング程度で導入することが出来ます。