イギリスによるスエズ運河株式買収
ショートストーリー
1875年11月14日。首相のディズレーリは、ロスチャイルド家にて当主のライオネルと会食を共にしていた。その時伝えられた電報により、エジプト政府が、スエズ運河の株式を売りに出すことを知った。
ディズレーリは、即座に購入を決めた。とはいえ400万ポンドは、いかに英国首相であってもすぐ出せる金額ではなかった。
しかし、ディズレーリはロスチャイルドからの融資を受けることで、資金は調達できるとふんでいた。
休会中の議会の承認を待ってはいられなかったが、閣僚や主要な議員に諮ることで合意を得た。
ロスチャイルドはすぐに融資を行い、イギリスはスエズ運河の株式買収に成功した。
その融資の際、ロスチャイルドに示されたイギリス側の担保は、大英帝国。
スエズ運河株式の買収に成功したディズレーリが、ヴィクトリア女王に伝えた言葉はただ一言。「世界は、あなたのものです」
しかし、この話には伝えられていないこともある。ロンドン・ロスチャイルド家の当主ライオネルがディズレーリの言葉を聞き、それに対する答えである。
「大英帝国。いいでしょう。400万ポンドでは少ないくらいだ。それに少々持て余し気味でもある。もう少し小さくてもいい。そう、アルバートホール。いや、その前にあるアルバート記念碑。それだけでも十分です。勿論、中身も含めてね。」
ディズレーリに戦慄が走った。
アルバート記念碑は、アルバートホールとともに、故アルバート公を偲んで作られたものであるが、そこに隠された秘密を知る者はごく僅かであった。
アルバート公の仮想人格が密かに作成され、アルバート記念碑に隠されている。この事実を知る者は少ない。ディズレーリ自身も、アルバート記念碑の発案者として、知る事が許されたに過ぎない。
アルバート公の仮想人格、その存在をヴィクトリア女王に知られてはならない。女王がそれをしれば、疾風となってアルバート記念碑を求めるであろう。世界を手にした女王が、最後に望むもの。それが、アルバート公の仮想人格である。
ライオネルは、ホールワース財団の出資者として、その事実を知る一人であった。ロスチャイルド家が、王族貴顕に対する融資に、仮想人格を担保とする噂も聞いたことがある。
その事を知っていて当然であった。ディズレーリはただ、そこに思い至らなかったのが悔やまれた。
しかし、今回は、そこまで深刻にならなくてもいいだろう。
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