易経
経(えききょう、I Ching)とは、古代中国で成立した占いと哲学の書である。もともとは「物事の変化の法則」を読み解くために使われ、王や賢者が政治や人生の判断を行う際に用いた。紀元前の周王朝の時代に体系化され、後に儒教や道教の根幹をなす思想にも発展した。
易経では、陰(⚋)と陽(⚊)の二つの線を組み合わせて六本の線=**六爻(ろくこう)を作り、これを卦(け)**と呼ぶ。全部で六十四種類の卦があり、それぞれに象徴的な意味と解釈が記されている。占いでは、竹の棒やサイコロなどを使って無作為に卦を得て、その卦が示す意味から現在の状況や未来の方向性を読み取る。
フィリップ・K・ディックが『高い城の男』で行ったのもまさにこの方法である。彼は「コインを六回投げて陰陽を決め、得られた卦を易経の本文で読む」という伝統的手順を用いた。そしてその占い結果をもとに、登場人物ジュリアナの行動――つまり物語の展開――を決定したのである。
物語論