達成としての知識
達成としての知識
ゲティア問題以降、現代認識論は認識的正当化をめぐる基礎付け主義と整合主義の論争や外在主義と内在主義の対立などを経て、多様な展開を見せてきた。本書は外在主義・信頼性主義の流れを汲む現在最も有力な立場の一つである徳認識論を擁護し、対立する立場へと応答しながら明快にその理論を主張。現代認識論の到達点を示す。
21 世紀の認識論は、知識の価値についての問題に向かっている。その意味で現在の西洋の認識論は、プラトンの『メノン』で提示された問題に戻っている。たとえば、なぜ、そしてどのような意味で、知識に価値があるのか。なぜ私たちは、たんに真である意見よりも知識を選好するのか。知識は、たんに実践的な理由で価値があるのか、それともそれ自体で価値があるのか。もしそうならば、どうしてなのか。現代認識論はまた、認識的規範性と認識的評価の目的についても興味をもち続けている。たとえば、認識的規範性と認識的評価は、道徳的な規範性や評価と同種のものなのか。このどちらかは、あるいは両方とも、結果主義的に理解されるべきか、あるいは義務論的に理解されるべきか。エリザベス・アンスコムの1958 年の論文「現代の道徳哲学」[3]に端を発する道徳理論における重要な発展は、道徳的規範性と道徳的価値に対する徳理論的なアプローチの利点の開拓にあった。認識論は今や、主にアーネスト・ソウザとリンダ・ザグゼブスキの影響のもとで同じ道を進んでいる[4]。 [3]Anscombe (1958).
[4]とくに重要なのはSosa (1991) とZagzebski (1996) の二書である。
目次
日本語版へのまえがき
序
第Ⅰ部 認識的規範性
第1章 能力からの成功としての知識
1.1 中心となる主張
1.2 三つの主題
1.3 本書の構成
第2章 義務論への反論
2.1 強弱二つの義務論的美点
2.2 弱い義務論的理論への反論
2.3 強い義務論的理論への反論
2.4 認識的規範性の徳理論的説明
第3章 内在主義への反論
3.1 内在主義とは何か
3.2 内在主義批判
3.3 この議論に対応する内在主義のいくつかの方策
第4章 証拠主義への反論
4.1 知識にかんする証拠主義の二つの問題点
4.2 K証拠主義のジレンマ
4.3 K証拠主義に向かう別の動機はあるか?
4.4 結論
第Ⅱ部 すべての人にとっての問題
第5章 知識の本性
5.1 達成としての知識
5.2 ゲティア問題
5.3 張りぼての小屋の事例
5.4 証言による知識
5.5 生得的知識
5.6 KSAに対するその他の反論
5.7 クワンヴィックのグラビットの事例
第6章 知識の価値
6.1 なぜ問題があるのか?
6.2 とくに信頼性主義に対する問題か?
6.3 すべての人にとっての問題
6.4 変化する問題
6.5 価値問題への解答
6.6 クワンヴィックの要求
第7章 知識と文脈
7.1 文脈主義とは何か
7.2 文脈主義のどこが問題か
7.3 文脈主義vs.関心依存不変主義
第8章 ピュロン的問題
8.1 アグリッパのトリレンマ
8.2 信頼性主義者の答え
8.3 ピュロン的反論
8.4 ピュロン主義者と信頼性主義者の論争を裁定する戦略
8.5 道徳的運の問題
8.6 問題を一般化する
8.7 道徳的運の問題に対する解答
8.8 知識帰属への応用
8.9 ピュロン的比喩は適切か
8.10 比喩以上のものがあるか
8.11 調停の試み
第Ⅲ部 信頼性主義の問題
第9章 奇妙な一過性のプロセスの問題
9.1 奇妙な一過性のプロセスの問題
9.2 千里眼の問題
第10章 弾劾証拠の問題
10.1 問題の素描
10.2 クワンヴィックの議論
10.3 内在主義と原理D
10.4 原理Dへの反論
10.5 主観的正当化の必要性
10.6 生きている懐疑論
10.7 自然主義と阻却
第11章 簡単な知識の問題
11.1 ムーアの「外的世界の証明」
11.2 リードにおける認識論的原理
11.3 リードにおける方法論的原理
11.4 いくつかの反論
11.5 簡単な知識の問題
参考文献
訳者解説
訳者あとがき
索 引
現代認識論入門
上枝美典