社会思想としてのクラシック音楽
社会思想としてのクラシック音楽
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近代の歩みは音楽が雄弁に語っている。バッハは誰に向けて曲を書き、どうやって収入を得たのか。ハイドンの曲が徐々にオペラ化し、モーツァルトがパトロンを失ってから傑作を連発したのはなぜか。ショスタコーヴィチは独裁体制下でいかにして名曲を生み出したのか。音楽と政治経済の深い結びつきを、社会科学の視点で描く。
目次
音楽は「生の根幹」に結びついている
クラシック音楽の社会的意味付け
音楽はなぜリベラル・アーツに含まれたのか
「発明は必要の母」でもある
第一章 芸術の「送り手」は誰を意識したか
1 芸術からレジームを読む
芸術と社会体制
合理性の行き過ぎと反社会性
平等と「多数者の支配」
技術革新と政治的自由の問題
2 ハイドンのミサ曲はなぜオペラ化したのか
定義の議論は避ける
匿名から個人の名前へ
教会から劇場へ
3 モーツァルトの「抵抗の精神」
一八世紀末の音楽家の地位
使用人としてのモーツァルトとハイドン
絵画の場合でも
第二章 自意識と流行
1 バッハは祈り、ロマン派は自己を語る
デモクラシーが生み出す人間類型
天に垂直に向かう祈り、横へ広がる陶酔
ロマン派初期にバッハは復活したのか?
バッハとその後の音楽
2 シューベルトの〈死〉の意識
ロマンティックな古典派?
シューベルトの対位法
ヘーゲルはバッハの美をどう表現したか
3 芸術の評価の基準は何か
少数派であることの誇り
世評や流行を気に掛ける
職人集団の行動様式
優れた芸術家は自分の作品に満足しない
第三章 ナショナリズムの現れ方
1 郷愁と民族意識
国民劇場の誕生
ショパンの愛国心
郷愁と平等思想
思考の器官としての言語
2 ドヴォルザークとチャイコフスキーを結びつけた絶対音楽
ふるさとは遠きにありて思ふもの
「ロシア五人組」のナショナリズム
チャイコフスキーの伝統的な立場
3 ヤナーチェクが追求した普遍性
ヤナーチェクが注目した「発話旋律」
マックス・ブロートのチェコ・ナショナリズム
「懐かしさ」という共通感覚
第四章 体制と芸術における「規模」
1 一〇〇〇人超の大音響
なぜ「規模」は重要か
ジャンルや形式の分類は難しい
小編成オーケストラ――ハイドンのミニマリズム
マーラー『交響曲第八番』(「千人」)のスペクタクル
2 弦楽四重奏曲と「共存」の精神
正しい音があるはずだ!――クレンペラーとの対話から
演奏家の集団としてのオーケストラ
「通奏低音」の役割とその後退
演奏者の自律性と対等な立場
自律的な演奏家が「全体に合わせる」
3 指揮者に必要な能力は何か
指揮者は専制君主か調整役か
オーケストラと指揮者という関係の成立
指揮者の仕事は何なのか
伝統と合理性を体現するカリスマか
教育する力を持ったリーダー
自由と秩序をどう両立させるか――朝比奈隆の感慨
第五章 技術進歩がもたらす平等化
1 技術進歩は音楽の何を変えたのか
技術革新の影響
楽器の性能の向上
複製技術の問題
絵画の場合
音楽における録音と再生
2 グールドが夢想した「平等性のユートピア」
オリジナルの持つアウラ
演奏芸術におけるデモクラシー――グールドの問題
「芸術家としての聴き手」の自由
いつ、誰によって制作されたのかは重要か
3 自律した聴き手としての中間層――グールドとアドルノの見方
所得の上昇が需要増加を生み、新技術が需要を開拓した
複製技術が拡大させた芸術家の所得格差
才能のわずかの差は報酬では拡大される
複製技術は芸術鑑賞を散漫にする
アドルノのエリート意識
第六章 パトロンと批評家の応援
1 芸術家にパトロンは必要か――バッハとモーツァルトの悩み
公の援助の限界
世界最初の民営オーケストラ
領主の権力は教会のそれを上回る
公務員バッハの所得を推計する
晩年のモーツァルトにパトロンはいなかった
2 金銭と多数から芸術を救えるか――批評家シューマンの闘い
革命期のパトロン貴族たち
契約をめぐるトラブルは何を示すか
批評家というパトロン
仮想の批評空間「ダヴィッド同盟」
批評家の役割と「セクト」の機能
3 大衆を酔わせるワーグナーの「毒」
ワーグナーは大衆を興奮させる、とニーチェは見た
バイエルン国王ルートヴィヒ二世
自己中心の芸術家にとってのパトロン
「大衆」の音楽としてのワーグナー――フルトヴェングラーの見方
第七章 政治体制と音楽家
1 ショスタコーヴィチの内省的抵抗
経済生活と文化の伝承
性格は政治体制に影響される
ショスタコーヴィチの曖昧さと一貫性
ショスタコーヴィチにとっての対位法
「抵抗の精神」の強靱さと柔軟さ
対立を避け、沈黙し、皮肉る
2 『交響曲第九番』はスターリンを激怒させた
「大祖国戦争」への愛国的反応
ソ連軍の反攻とスターリングラードの勝利
スターリンは神格化を望んだ
「ジダーノフ批判」を諷刺する“ラヨーク”
形式主義と社会主義リアリズム
ゴーリキーの運命
3 国家は文化芸術を主導すべきか
西欧の「ヒューマニスト」たちへの怒り
『証言』の中のプロコフィエフ
プロコフィエフの奇妙な亡命
フー・ツォンの芸術――体制の犠牲者
国家主導による「文化十字軍的」政策
第八章 言葉、音楽、デモクラシー
1 言葉が先か、音楽が先か――音楽の二面性
言葉と音楽
音楽が秘める二面性
音楽は言葉の「しもべ」だった?
ワーグナーの目指したもの
音楽は宗教と袂を分かったのか
音楽は政治を動かすことがある
2 魂を揺さぶる芸術の条件は何か
デモクラシーにおける人間の精神
職人の行動規範――幸田露伴の「私益公益」論
デモクラシーと個人主義
「個人」は「社会」のあとに発見された
感動の源泉――自己を越えるものを求める
3 「調性を失った音楽」が意味するもの――デモクラシーと芸術の運命
想像力と「不一致」の自由
社会主義リアリズムは不一致を許容しない
感覚と想像力
美を感じる力としての想像力
多数の専制から自由になるには
祈りとしての音楽の終焉
あとがき
世界最大のクラシック・レーベル「NAXOS」(ナクソス・ジャパン)が運営するストリーミング・サービス「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(NML)のご協力により、当サイトで、ほぼすべての楽曲を聴けます。
以下、リンク切れ
2021/8月