応答の人類学
応答の人類学
“いま学問や科学は、社会と本当に向き合っているだろうか?社会を解釈するに止まってはいないだろうか?”
本書で“フィールドワーカー”として取り上げられている10人の先人たちは、いわゆる「文化人類学者」にとどまらず、医師やジャーナリスト、作家まで多様です。そして、それぞれが異なる現場に向き合い、フィールドワークを通じて得られた体験や知見にもとづいた「自前の思想」を紡ぎあげています。
「自前の思想」はいかにして生まれるのか。「時代と社会に応答する」ことはいかにして可能なのか──人文・社会科学分野において「概念の社会化」を目指すデサイロとしても道標としている「自前の思想」(「自前の思想」が立ち現れていく学際的な場を目指して──2023年、デサイロの展望)。その可能性に迫るべく、本記事では『自前の思想: 時代と社会に応答するフィールドワーク』の編著者であり、自身も文化人類学者としてフィールドワークを基盤とした研究を重ねてきた飯嶋秀治さんと清水展さんにインタビューします。
本書の背景に込められた問題意識、そして「自前の思想」を編み上げるために必要な“フィールドワーカー”としての姿勢や信条とは?
──そもそも『自前の思想』はどのような経緯で生まれた本なのでしょうか?
飯嶋 元を辿れば、2012年頃から約5年間にわたって日本文化人類学会の中で課題研究懇談会として開催していた「応答の人類学」という研究会が発端です。そこでは「社会の喫緊の課題に応える人類学を構築できないか」という議論をしていて、2016年から「応答の人類学 フィールド、ホーム、エデュケーションにおける学理と技法の探求」という科研のプロジェクトになりました。当時「応答の人類学」シリーズとして数冊に分けて書籍化する構想があり、『自前の思想』は、そのいわば「思想篇・歴史篇」として位置付けられていた企画が結実したものです。 ──「時代と社会に応答するフィールドワーク」という副題は、「応答の人類学」から来ていたのですね。ここで言う「応答」には、どのような意味が込められているのでしょう?
清水 人類学者には、現場から「呼びかけられている」と感じる時があると思うんです。「もしもし」「はいどうぞ」「応答せよ、応答せよ」といった、トランシーバーを使ったやり取りの際の呼びかけをイメージするとわかりやすいでしょうか。あるいはゴスペルの歌唱や演奏などにおける掛け合い、いわゆる“Call and Responce”にもたとえることができるでしょう、呼びかけられたら応えるという意味で。