ソーシャル・セクター
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2020/4
インタビューアー:
その一方で、デジタルテクノロジーに対して、それが監視社会につながるのではないかという懸念も強くあります。そのモデルとしてかたや全体主義的な中国本土のようなモデルがあり、かたや巨大テック企業がスーパーパワーをもつアメリカのモデルがあります。
オードリー・タン:
そうですね。一方に、テクノクラシーによる全体主義的監視国家があり、一方にコーポレートキャピタリズムがあります。これが極の両端ですよね。公共セクターと民間セクター、それぞれにおけるエクストリームですが、このように、公共セクター、あるいは民間セクターを肥大化させてしまうと、ソーシャルセクターが無視されることになります。ですから、わたしは、「PPP」(Public Private Partnership)という言葉にアレルギーをもっています。なぜなら「シビルセクターは? ソーシャルセクターは?」と思うからです。「第三セクター」と呼んで、いかにもマイナーなもののように扱うのではなく、わたしたちは正しい言葉でそれを呼びたいと思っています。わたしたちは、ソーシャルセクターがデータを所有すべきだと明確に主張しています。ソーシャルセクターがデータ連携、データ活用の土台を構築し、ソーシャルセクターが設定したアジェンダに対して、公共セクターにそれを社会化することを促し、同時に、民間セクターに対しても彼らの保有する資本資源を提供するように説得していきます。ソーシャルセクター主導のアプローチは、官主導と民間主導の折衷案ではなく、それ自体が独立したあり方なのです。
【註:ソーシャル・セクター】
social sector とは、パブリックセクター(公共セクター|行政府など)、プライベートセクター(民間セクター|企業)とは異なる中間的なセクター。非政府組織や非営利団体が管理する経済活動の分野。日本では「第三セクター」と呼ばれているものがこれに当たるが、本インタビューのなかでオードリー・タンは、この呼称を否定している。
インタビューアー:
それは、興味深いです。台湾のソーシャルセクターが強いのは、歴史的にどのような背景からなのでしょうか。
オードリー・タン:
社会民主主義的なコミュニティづくりは、少なくとも80年代から始まっていますが、それは戒厳令の解除が検討され始めた頃にまで遡ることができるかと思います。ご存知のように台湾では総統選挙は1996年まで行われていませんでしたから、ソーシャルセクターは総統選挙が行われる10年以上も前から、その存在感を高めてきたということになります。それはわたしたちにとっては非常に幸運なことでもあり、それが台湾という国を定義づけているものでもあるのです。わたしたちは自分たちの国を「民国」と呼んでいます。文字通り市民の共和国でという意味です。直接参加型のデモクラシーについて言えば、これは孫文以来の伝統で、彼はその理論を英国のヘンリー・ジョージに学んだのです(*)。ヘンリー・ジョージはソーシャルセクターの思想家で、左翼でも右翼でもなく、ソーシャルなんです。 ここでいうソーシャルという語と、アナーキズムの話の関係