21世紀世界の不平等を考える
21世紀世界の不平等を考える
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21世紀世界の不平等を考える -アマルティア・センの経済思想とアフリカ-
Considering Inequality in the Twentieth Century World: Some Insights from Amartya Sen's Economic Thought and Africa's Experiences
日本国際経済学会第 62 回全国大会 共通論題「国際的な富および所得分配の不平等」報告1 2003 年 10 月 5-6 日(京都大学)
現代のグローバリゼーションをめぐる特徴的な事態は、このプロセスに対する国境を越えた異 議申し立てが急速に広がっていることである。だが、「反グローバリゼーション」を唱える運動 は、本質的にグローバリゼーションそれ自体を否定するものではありえない。運動の世界的な同 時連結性を可能にしたものこそ、情報と知識の劇的な波及に特徴づけられるグローバリゼーショ ンのプロセスに他ならないからである。現代の私たちは、世界の隅々で起きていることを以前よ りもずっと具体的かつ明確に知ることができる。そして、「反グローバリゼーション」運動を基 底において突き動かしているのは、グローバリゼーションのもとで世界の貧困と格差が急激に拡 大しつつあるのではないかという、重大かつ正当な疑念だと考えられる(Sen 2002)。
Sen, Amartya. 2002. "Globalization, Inequality and Global Protest." Development 45(2): 11-16.
まず、不平等の長期的な流れを検討するところから出発しよう。フランス社会科学高等研究院/世界銀行のフワンソワ・ブルギニョンとパリ大学のクリスチアン・モリソンは、世界の代表的な国々3を所得別の下位グループに十等分し、それぞれのグループを所得比較の独立した単位として扱うことで、1820年から1992年までの長期的な世界の所得不平等の推移を明らかにしようと試みた(Bourguignon and Morrisson 2002)。最近の不平等研究の流れを反映して、ブルギニョン=モリソンは「世界の不平等 world inequality」と「国際的な不平等 international inequality」を区別する。 Bourguignon, François, and Christian Morrisson. 2002. "Inequality Among World Citizens: 1820-1992." The American Economic Review 92: 727-744.
François Bourguignon
Christian Morrisson
ブルギニョン=モリソン と呼称される
ブルギニョン=モリソンは、一人あたり所得と人口についてはMaddison (1995)のデータを利用している
Maddison, Angus. 1995. Monitoring the World Economy, 1820-1992. Paris: OECD (金森久雄監訳・政治経済研究所訳『世界経済の成長史1820~1992年』東洋経済新報社). Maddison, Angus. 2007. Contours of the World Economy 1-2030 AD: Essays in Macro-Economic History ( 『世界経済史概観 紀元1年~2030年』岩波書店). ブルギニョン=モリソンの長期推計は、大まかな観察は誤っていないと思われるが、過去に遡るほど精度が疑わしくなる5。しかし、同時代の不平等を考察する場合は、もっと正確な統計を利用できるはずである。その意味で興味深いのが、世界銀行のブランコ・ミラノヴィッチによる、同時代の「世界の不平等」をめぐる野心的な研究成果である(Milanovic 2002)。 Milanovic, Branko. 2002. "True World Income Distribution, 1988 and 1993: First Calculation Based on Household Surveys Alone." Economic Journal 112: 51-92.
当時、世界銀行の研究者だった
ミラノヴィッチによれば、世界市民のジニ係数は1988年の62.8から1993年には66.0へと上昇した(タイル指数では76.5から87.3へ)。同じ5年間で、世界の所得最下層5パーセントの実質所得は25パーセント減少したが、所得上位20パーセント層の実質所得は12パーセント上昇した。世界住民の25パーセントの少数派が所得の75パーセントを独占している反面、75パーセントの多数派は所得の25パーセントしか受け取っていないというのが、20世紀末の世界の姿である。
ミラノヴィッチによれば、タイル指数を利用して不平等の要素分解を試みると、「世界の不平等」のおよそ75パーセントが国家間不平等、25パーセントが国家内不平等によって説明できる。
ミラノヴィッチとは逆に、「世界は徐々に平等化しつつある」という議論を展開するのが、ペンシルヴァニア州立大学のグレン・ファイアボーである(Firebough 2003) Firebaugh, Glenn. 2003. The New Geography of Global Income Inequality. Cambridge, Mass.: Harvard University Press.
Sen, Amartya. 2002. "Globalization, Inequality and Global Protest." Development 45(2): 11-16.
- 1999. Development As Freedom. New York: Alfred A. Knopf (石塚雅彦訳『自由と経済開発』日本経済新聞社、2000年). - 1997. "From Income Inequality to Economic Inequality." Southern Economic Journal 64: 384-401.
- 1992. Inequality Reexamined. Oxford: Oxford University Press (池本幸生・野上裕生・佐藤仁訳『不平等の再検討-潜在能力と自由』岩波書店、1999年). 岩波現代文庫 2018年
- 1988. "Property and Hunger." Economics and Philosophy 4: 57-68.
- 1981. Poverty and Famines: An Essay on Entitlement and Deprivation. Oxford: Clarendon Press (黒崎卓・山崎幸治訳『貧困と飢饉』岩波書店、2000年). 岩波現代文庫 2017年
- 1973. On Economic Inequality. Oxford: Clarendon Press (鈴村興太郎・須賀晃一訳『不平等の経済学』(1997年の拡大版の翻訳)東洋経済新報社、2000年). このなかでは比較的古い(2014) 21世紀の資本 では、1回だけ言及されていた でも、そんなに重要なトピックスではなかった
訳注でもう1ヶ所あった
重力の話をするときにいちいちニュートンの名前を出さないのと同じ感じ?
こういう基礎的な知識というか、リンクの貼られ具合というか、山脈の繋がり自体を理解することが重要だけど、一見さんには難しいと思う