『正義論』読み飛ばしガイド
『正義論』読み飛ばしガイド
「序文」にてジョン・ロールズ自身が、この本は膨大なのでココとココを読むとイイ、と「手引き」を紹介している https://gyazo.com/b05fcdb5502e50342a10f3f06a8587d4
「訳者あとがき —— 『正義論』の宇宙、探訪」 Ⅰ より
ロールズその人は「道徳心理学」を繰り広げた『正義論』第三部「諸目的」をいちばん気に入っており、その自説をさらに彫琢(ちょうたく)する計画を立てていた。ところが公刊の論争点は、もっぱら第一部「理論」と第二部「諸制度」に集中してしまう。
日本のロールズ研究の大半も、こうした偏りから自由ではない。だが『正義論』はあくまで第三部まで通して読まれるべき体系の書であって、ひとつの《宇宙》を形成している。
読者にあっては、初版序文の読み飛ばしガイドに従い、各部・各章・各節冒頭の段落をつなげて略読するなどして、ぜひ『正義論』という《宇宙》の全貌を把握するように努めていただきたい。
(訳者代表 : 川本隆史)
目次
本理論の最も基本的な部分
本書は頁数だけではなく内容も膨大である。 そこで、読者の便宜のために簡単な手引きを紹介したい。
第一部
正義論についての基本的で直観的な考え方は、第一章の §1~4 に提示されている。ここから制度のための正義の二原理が論じられている第二章の §11~17 へ、そして原初状態 (original position) を説明している第三章全部へと読み進むことも一つの方法である。
なお第一章の §8 「優先順位の問題」をよく知らない方は、 この節に目を通すことも必要であろう。
第一部 第一章 §1~4
正義論についての基本的で直観的な考え方
1 正義の役割
2 正義の主題
3 正義の理論の中心理念
4 原初状態と正当化
第一部 第二章 §11~17
制度のための正義の二原理
11 正義の二原理
12 第二原理の複数の解釈
13 デモクラティックな平等と格差原理
14 公正な機会均等と純粋な手続き上の正義
15 予期の基礎としての社会的基本財
16 関連する社会的地位
17 平等を求める傾向
第一部 第三章 全部
原初状態 (original position)
20 正義の諸構想の擁護論の性質
21 複数の選択候補の提示
22 正義の情況
2つの条件がある
「人間の協働を可能かつ必要にする客観的・客体的な情況」
「協働の諸主体、すなわち一致協力している人々に関する側面に相当する、主観的・主体的な情況」
「(客観的な情況のううちの)〈適度な希少性〉という条件と(主観的な情況のうちの)〈利害関心の衝突〉という条件を強調する」
23 正の概念の形式的諸制約
一般的( general )、普遍的( universal )、公示性( publicity )、最終性( finality )
24 無知のヴェール
「定言命法の手続き上の基準が定義される仕方と、カントがそれを利用する仕方の両方を見れば、それがわかる」 25 当事者たちの合理性
「互いの利害に関心を持たないこと」と「無知のベール」という2つの想定の組み合わせ
26 正義の二原理にいたる推論
マキシミン・ルール
最大の最小値
ウィリアム・ボーモル『経済分析と OR 』
27 平均効用原理にいたる推論
2つの効用原理
古典的な原理(総効用の最大化)
功利主義との関係
平均効用原理
効用とは欲求の充足のこと
28 平均原理にまつわるいくつかの難点
29 正義の二原理を支持するいくつかの主要根拠
30 古典的功利主義、不偏性、そして厚意
古典的功利主義は正義の二原理、平均原理とは異なる起源を持つ
古典的見解における〈不偏・公平で共感能力のある観察者〉という概念の直感的基礎
第一部 第一章 §8
優先順位の問題
8 優先順序の問題
(理解するのに §5~§7 を読む必要があった)
(結局その次の §9 も読んだ)
(第一章は全部読むべき)
第二部
次に、第四章の §33~35 の平等な自由と §39~40 の自由の優先性の意味およびカント的解釈を読めば、第三部の 概要が得られる。ここまででおよそ三分の一に当り、本理論の最も基本的な部分を構成している。
第二部 第四章 §33~35
平等な自由
33 良心の自由の平等
(これもその前の §30~§32 を読んだ方が良かった)
34 寛容および共通の利益
35 不寛容派に対する寛容
第二部 第四章 §39~40
39 自由の優先権の定義
40 <公正としての正義>に関するカント的解釈
正義論を誤解なく理解するために
第三部
しかしながら、第三部を考慮しないと正義論を誤解するおそれがある。特に第七章の §66~67 の道徳的価値、自尊心、および関連諸概念、第八章の §77 の平等の基盤、第九章の §78~79 の自律と社会連合 (social union) §82 の自由の優先順位、 §85~86 の自我の統一および適合性の諸節を強調したい。これらの節を加えても、まだ半分に遠く及ばない。
第三部 第七章 §66~67
道徳的価値、自尊心、および関連諸概念
66 善の定義を人びとに適用する
67 自尊、卓越および恥辱
第三部 第八章 §77
平等の基盤
77 平等の基礎
第三部 第九章 §78~79
自律と社会連合 (social union)
78 自律と客観性
79 社会連合という理念
第三部 第九章 §82
自由の優先順位
82 自由の優先権の諸根拠
第三部 第九章 §85~86
自我の統一 および 適合性の諸節
85 自我の統一性
86 正義感覚の善
補足
各節の見出しと各章の前文
各節の見出しと各章の前文、そして索引などが本書の内容の方向を示している。筆者は長々とした方法論的な議論を避けたということを述べておく以外に、このことについて注釈を加えること余分であるように思う。
§9 では道徳論の本質について、§4 と §84 では正当化について簡単な考察を試みた。また、「善」の意味について §62 に短い余談を記した。
第一部 第一章 §9
道徳論の本質について
9 道徳理論に関するいくつかの所見
第一部 第一章 §4
正当化について簡単な考察
4 原初状態と正当化
第三部 第九章 §84
正当化について簡単な考察
84 選択の一方法としての快楽主義
第三部 第七章 §62
「善」の意味について
62 意味に関する覚え書き
その他
時に方法論的注釈を述べたり、本論から外れたりしたところもあるが、大部分は正義の実質理論を樹立するように努めた。他の理論との比較や対照、また時おりその批判、特に功利主義に対する批判を行なったが、この比較対照・批判はこの目的に対する手段なのである。
本書の基礎的部分に第四章から第八章の大半を含めなかったからといって、これらの章が末梢的あるいは単なる適用であるというわけではない。それよりむしろ正義論の重要な試練は、その理論が広範囲のさまざまな問題にわたるわれわれの慎重な判断に、 どれくらいうまく秩序とシステムを導入できるかということにある。したがって、これらの章の話題は取り上げられる必要があったのであり、その結論は、順次、提示された説を修正することになる。しかしこの点については、読者は自由に好みに応じて、関心の強い問題を考察してほしい。
基礎的部分に第四章から第八章の大半を含めなかった
第二部 諸制度
第四章 平等な自由
第五章 分配上の取り分
第六章 義務と責務
第三部 諸目的
第七章 合理性としての善さ
第八章 正義感覚
読者は自由に好みに応じて、関心の強い問題を考察するべし