『リヴァイアサンと空気ポンプ』 監訳者あとがき
リヴァイアサンと空気ポンプ
吉本秀之
2016年
『リヴァイアサンと空気ポンプ』 監訳者あとがき
pp.331-
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リヴァイアサンと空気ポンプ、この不思議な対比はなんであろう?
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リヴァイアサンは、政治思想家として有名なホッブズの主著と目されるものだ
空気ポンプは、アリストテレスの自然学ではそもそもこの世にはありえないとされた真空を作り出すためにゲーリケが発明し、ボイルとフックが改良版を作り、ホイヘンスがさらに別の改良版をつくった、17世紀実験科学の勃興を象徴する装置だ。製造にかかる高額のコストゆえに「17世紀のサイクロトロン」と呼ばれるこの装置が一体、何を生みだしているのか、ポンプの容器のなかにあるのは何か、それはどうして知りうるのか、
リヴァイアサンに比して、空気ポンプの説明が濃厚で、この監訳者が、ボイル側の立ち位置の研究者だとわかる
この実験科学の根本に関して、ボイルを中心とする王立協会のメンバーと、ホッブズは真正面から議論を戦わせた。
実験科学者ボイルと政治思想家ホッブズの、最先端の実験装置に関わる論争。伝統的な科学史は、議論に分け入ることなく、ボイルに勝利の旗を上げていた
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それは歴史研究としてはおかしいのではないか。この疑問に基づき、シェイピンとシャッファーは、ホッブズとボイルの科学論争に分け入って正面から分析しようとした
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『リヴァイアサンと空気ポンプ』は、装置そのものの細部に関わる物理的テクノロジーだけではなく、実験科学者の側からすれば、この新しい装置による新しい事実や現象をどういうふうに表すかという言語表現上のテクノロジー、
そして、論争の背景で働く自然哲学的概念や、社会秩序に関する政治的イデオロギーにまでも、はじめて、分析の光を投げかけようとした。
まさに、挑戦的な歴史研究書と言ってよいだろう。
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こうして1985年、トマス・クーン『科学革命の構造』(1962)以降、もっとも大きな影響力をもった書物が世に出た
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二人の著者についての紹介
スティーブン・シェイピン
サイモン・シャッファー
〈詳細は、略〉
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初版から26年後に出版されたペーバーバック版の序文「2011年版への序文」にシェイピンとシャッファーは、この書が当初どのように受容されたのか、すなわち『リヴァイアサンと空気ポンプ』の受容史を書いた。
それ自体、この四半世紀の科学史学の展開の重要な局面を描き出すことに成功している。
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日本における『リヴァイアサンと空気ポンプ』の受容のアウトラインについて
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彼らの序文は冷静の終結を科学史記述の重要な転回点と捉えている
1989 ベルリンの壁が崩壊
1990 湾岸戦争勃発
1991 ソビエト連邦解体
日本では 1989 昭和から平成へ、冷戦の終了プロセスとまるで同調するようにバブルが崩壊。経済だけでなく社会の様相が大きく変化
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冷戦終結前後で時代を分けて、日本における『リヴァイアサンと空気ポンプ』の受容を描く
冷戦終結以前:
冷戦終結以前に『リヴァイアサンと空気ポンプ』を使っている研究は二点にとどまる
最初の一点は、エンゲルハルト・ヴァイグル「17世紀のサイクロトロン —— 空気ポンプの発見者オットー・ファン・ゲーリケ」である。
ヴァイグルはドイツのマックス・プランク高等学術研究所の職を辞し、1983年から1988年まで東京大学の外国人講師を務めた
1988年、雑誌『現代思想』で一年間にわたり「近代の小道具」に関する連載をもった
1988年3月号に上記の「空気ポンプ」をテーマとする論文を発表した
この『現代思想』の連載はのちに『近代の小道具たち』(三島憲一 訳、青土社 1990)にまとめられる
エンゲルハルト・ヴァイグル『近代の小道具たち』
青土社 ||科学/数学/生物:近代の小道具たち
近代の小道具たち | NDLサーチ | 国立国会図書館
近代の小道具たち / ヴァイグル,エンゲルハルト〈Weigl,Engelhard〉【著】/三島 憲一【訳】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア
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もう一点は、私の解説論文「ロバート・ボイル、人と仕事」である
これは、朝日出版社『科学の名著』シリーズ第2期 第8巻(1989)に収録された。
これは、ボイルの研究プロジェクトがどういったものであったかを、理論的前提と具体的実践の両面において記述した
朝日出版社『科学の名著 第Ⅱ期8 ボイル : 形相と質の起源』
科学の名著 第Ⅱ期8 ボイル : 形相と質の起源 | 書籍 | 朝日出版社
科学の名著 第2期 8 (ボイル) | NDLサーチ | 国立国会図書館
科学の名著 (第2期8) | ボイル, 伊東 俊太郎, 村上 陽一郎 |本 | 通販 | Amazon
冷戦終結以前の日本では、『リヴァイアサンと空気ポンプ』は、空気ポンプの発明と普及をめぐる基本的文献としてだけ利用されていた
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冷戦終結以降:
『リヴァイアサンと空気ポンプ』言及する中心分野は科学史から科学論に移った
〈以下、略〉
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日本のホッブズ研究に対して『リヴァイアサンと空気ポンプ』は、私の調べ得た範囲では、なんの痕跡も残していない。
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訳者の訳出の分担について
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謝辞