2024-05-30に進んだ部分
私は意を決して振り返り、赤い圓筒形を抱擁して宣言した:「私は、此れを在るべき所に御返しする事を定めて旅を始めた。屹度、赤い圓筒形が何物なのかを明らかにし、此れを在るべき所に返す迄、旅を續けよう。」
すると、中空でポンと不思議な音がして、氣付くと左手には一輪の赤い花があった。
===此處迄前囘===
===註釋===
此の進行迄の閒に物理界で長い空隙があった。
物理界の私は病を得、死が近付いてゐる事を考へてゐた。
職場から歸る歸り道で、赤い花の事が思はれた。
===此處迄註釋===
赤い花を眺めてゐると、何處からともなく晚鐘若しくは梵鐘の樣な、大きな金屬の鐘の鳴る音が聞こえて來た。
空は夕暮れて赤紫色に成ってをり、薄暗く成り始めてゐた。
庭師のをぢさんが發話した。
「あなたはどうも此處に長く留まり過ぎた樣だ。」
空を見ると、此の庭園に來る時に見た五つの大きな圓盤の樣な星が、天頂と四方を指す樣に竝んで見えた。
圓盤の樣な星は移動して、或る方角を指す矢の形を成した。
二つの星が、白色から紫と黃色に色を變じた。
「典禮都市に向ふ列車がもう直ぐ此の近くの驛を通過します。あなたは其れに乘り、典禮都市に向はなくては成りません。」
庭師のをぢさんは、黑い擔ぎ袋から透明の圓筒形のカプセルを取り出した。
「其の花は、此れに藏って持って行くと良いでせう。此の袋も一緒に御渡しします。」
赤い花は、圓筒形のカプセルの中で中空に留まる樣に浮かんでゐた。
其れを黑い擔ぎ袋に藏った。
氣が付くと、私は赤い圓筒形と庭師のをぢさんと共に、赤い砂漠の中の停車場にゐた。
黃色い圓筒形を納めた青い金屬のランタンで足元を照らして來た樣に思ふ。
地平線の向ふから、列車の樣な物がやって來て、停車場に停まった。
列車は白と黃色と紫のストライプ模樣をしてゐた。
表示板に、「典禮都市××××」と書かれてゐる。一部讀めない。
「私は此處に殘らねば成りません。」
をぢさんは乘客と閒違はれない樣に一步引いた。
「ですが、必ず戻って來て下さいね。あなたの旅程には未だ續きがある筈だ。」
私が列車に乘って振り返ると、銀色のドアが滑らかに閉まり、列車は音も無く移動し始めた。
典禮都市は葬祭の爲の都市であり、此の世界では紫色と黃色は葬送の喪色である。
===今囘は此處迄===