2023-02-14のセッションより
十一枚目のスライド。
スライドが消えた樣に眞っ暗に成る。
何が寫ってゐるのか良く判らない。
良く見ると、畫面の緣に沿って、電球色のグラデーションが掛ってゐる。
===此處迄前回===
十一枚目のスライドは、どうやら元々此の樣なスライドだった訣ではなく、誰かが何か黑色の物で汚損して讀めない樣にした物ではないかと氣付く。
映寫機から取り出して、汚れを拭はなくては成らない樣に思ふ。
勝手に取り出すのは良くないと思ひ、映寫機に「此れを取り出しても良いですか」と聲を掛けた。
映寫機は、映寫を中斷する事を不安がってゐる樣だが、何が不安なのか判らない。
「何が不安ですか」と聲を掛けた。
スライドが破損したり、映寫機の仕掛が破損するのを恐れてゐる樣だった。
「此のスライドは、どうにも見る必要があるのです」と聲を掛けた。
映寫機は納得した樣だった。
私は綠色の箱形の有線リモコンの、映寫を中斷するボタンを押下した。
畫面が明るくなり、十一枚目のスライドはホルダーの中に戾った。
私は右手の人差し指と親指で十一枚目のスライドの角を持ち、そっと引き拔いた。
果たして、十一枚目のスライドの裏側は、煤の樣な物が黑く塗り付けられてゐた。
濕った左手なら、此れを拭ひ去れる樣な氣がした。
私は左手に持った箱形のリモコンを机の上に置き、濕った左手の親指で煤をそっと左右に拭った。
親指に黑い煤がべったりと付著した。
スライドは簡單に孔が空きさうだったので、力を入れない樣氣を付けて拭った。
煤を拭ひ去った十一枚目のスライドを、映寫機に再び差し込み、映寫を開始するボタンを押下する。
十一枚目のスライド。
白い背景に、細く大きな黑い明朝體で、
橘榛名
の
製作に就て
と書かれてゐる。
十二枚目のスライド。
存在の中から割れ缺けて散逸し結晶した橘榛名は非物質的に存在し影響を及ぼしてゐるが、此れを再び完全な狀態として復活する爲に、新たな憑代を製作する必要がある。橘榛名を單に割れ缺ける前の元の物質に降ろすのでは不完全に成って了ひ、却って良くない。
「橘榛名」は白い圓形の中に何かの圖形的アイコンで示されてゐるが、其の圖形を視認する事は出來なかった。眩しくて良く見えない。
https://gyazo.com/e1deb4b2572782d79b8e0b5f4c488732
十三枚目のスライド。
橘榛名の憑代と成る物質を精製する爲に必要な要素が列擧された圖。
幾つかの意圖不明なアイコンと別に、「貓性」を表すアイコンが描かれ、其處から更に圖が引き出されてゐる。
「貓性」と云ふ精神的物質は、雜多な不純物を多分に含んでをり、其の中から清い成分を抽出し結晶化する必要がある事、亦、此の結晶が云はばホムンクルスとしての橘榛名の製作に必要な精神的物質である事、其の「清い貓性」及び沈澱不純物としての「穢れた貓性」なる物質の性質が理解される必要があると書かれてゐる。
「橘榛名」は左上の白い圓形の中に何かの圖形的アイコンで示されてゐるが、其の圖形を視認する事は出來なかった。
眩しくて良く見えない。
https://gyazo.com/695e56d3a0544d493a863a35f41ed786
【講評】
橘榛名といふ人物が記述された。
思念の中の人物が思念の中に登場してをり、實在の人物や場所が實在する儘に出現してゐる訣ではないので問題無い。
「貓性」は惡い物の樣に思はれてゐたが、其の一部分がホムンクルス橘榛名の製作に必要と云ふのは意外な樣に思はれる。
十二枚目のスライドは十枚目のスライドと形が似てゐる樣だ。