2023-02-09のセッションより
私はスライドを續けて見て行く事を躊躇ふ。
周圍を見廻して、黃色く光るランタンと赤い圓筒形がゐるのを確かめる。
其れから、思ひ直して、改めてダイヤルを囘す。
九枚目のスライド。
薄灰色のぼんやりした背景に、黑く細いくっきりした垂直の線/帶が長短2本あり、長い方が画面の左右中央、短い方は其の左上にある。
===此處迄前回===
スライドを見るに當って、ランタン(青い金屬で出來てをり、黃色く光る圓筒形が入ってゐる。)の視界を遮ってゐる事に氣付いた。
ランタンにも、此れ等のスライドを一緒に見て貰はなくては成らない樣に感ぜられた。
ランタンには失禮な事をしたなと感ぜられた。
私は、左囘りに振り返り、ランタンを恭しく手に取り、右(畫面に向って左)のテーブルの方に向き直り、ランタンの正面が畫面を向く樣に叮嚀に置いた。
ランタンを置いた時、ランタンの中から、熱い藥罐の壁面に水が當った時の樣な、内部が熱せられた樣な、ジリッと云ふ樣な音がするのを聞いた。
ランタンは少しく明るさを増した樣だった。
赤い圓筒形にも、此れ等のスライドを一緒に見て貰はなくては成らない樣に感ぜられた。
赤い圓筒形は、後ろ側の方で不安げに搖れ動いてゐる。
私は、赤い圓筒形を宥めてあげなくては成らない樣に感ぜられた。
私は後ろ側の方に步いて行き、著てゐる綠のローブの左の袖で、圓筒形の背中(?)をさすって上げた。
赤い圓筒形は、少し落ち著きを取り戾した樣だった。
赤い圓筒形を立たせた儘では良くない、坐らせて上げようと云ふ氣持ちに成った。
私は、部屋の中に幾つも打ち棄てられてゐる椅子の一つを取りに行き、持ち上げて、ランタンの左隣に置いた。
椅子の埃を拂った。
もう一度赤い圓筒形の所に行き、今度は綠のローブの右袖で赤い圓筒形の背中(?)をさすり、著座を促した。
赤い圓筒形は靜かに滑る樣に動き、緩やかに折れ曲がって椅子に腰掛けた。
私が映寫機に戾らうとすると、赤い圓筒形は引力の樣な力を働かせて、私を引き留めようとした。
私は、赤い圓筒形に「私達は、此れを、一緒に見なくては行けない。」と話した。
すると、赤い圓筒形の引力は少しく弱まった。
私は、ゆっくりと步いて映寫機の左後ろに戾った。
此處で私は、次に何をするか迷って、映寫機に就て思ひを馳せた。
此處で、映寫機も亦た《人物》、いと高き存在であらうと云ふ事が思はれた。
默って操作するべきではなく、叮嚀に聲を掛けて敎へを請はなくては成らない、と云ふ氣持ちに成った。
私は映寫機に「どうか、此處での成果を私達に見せて下さい。」と聲を掛けた。
すると、ところが、映寫機は、何だか悲しさうな雰圍氣を發した。
此れ等を見せる事は、悲しく、悔しい事なのだと云ふ氣持ちが、映寫機から感ぜられた。
《此處で成し遂げようとせられてゐた事は、何一つ成し遂げられはしなかったのだ》と云ふ事が、非音聲的に傳はって來た。
畫面を見ると、九枚目のスライドの灰色の背景の中に、朧氣な文字が幾つも浮かんでは消え浮かんでは消えしてゐた。
其れは、此處で何も成し遂げられなかった事に對して言ひ訣を試みては言ひ淀んでゐるかの樣だった。
此の映寫機は、此處で何も成し遂げられなかった話を我々に傳へる爲に、研究者がゐなく成った後もずっと我々を待ってゐたのだった。
そして、其の傳へるべき内容に就ては、映寫機に取っても本意ではなかったと云ふ事なのだらうと思はれた。
本當は《遂に素晴らしい事が成し遂げられた。其の成果によって、あなたは救はれるのだ。》と傳へたかったのだらうかと思はれた。
私は、映寫機に、此處で待ってゐて呉れた事への感謝を傳へねば成らない樣に感ぜられた。
見ると、九枚目のスライドの左中程の邊りから、右に向って引っ張って滲ませた樣に映像が亂れてゐた。
《成果》と云ふ言葉を聞いて、映寫機は悲しみ、悔しんでゐる。
私は、言葉を掛け直す事にした。
「此處に殘された物を、私達に見せて下さい。」と聲を掛けた。
すると、映像の亂れは少しく穩やかに成った。
私は「ありがたう」と話し掛け、綠のローブの袖で映寫機の埃を拂って上げた。
今迄映寫機が何色をしてゐるかをは意識してゐなかったが、其の時、映寫機は綠色の金屬で出來てゐる事に氣付かれた。
私は、叮嚀に綠色の有線リモコンを左手に取り、右手をダイヤルに添へた。