破壊的イノベーション
イノベーションモデルの1つで、確立された技術やビジネスモデルによって形成された既存市場の秩序を乱し、業界構造を劇的に変化させてしまうイノベーションのこと。
ハーバード・ビジネススクールのクレイトン・M・クリステンセン(Clayton M. Christensen)が提唱した。
競争市場では一般に製品は技術進化を続け、新製品になるごとに性能を向上させていく。そうした中で既存製品に比べて性能が低いながら、低価格・単純・小型・使い勝手がよいなどの特徴を持ち、既存市場の顧客とは別の顧客から支持される技術革新が行われることがある。これが破壊的イノベーションである。
※ ここでいう「技術」は、労働力・資本・原材料・情報などの経営資源を投入して、より価値の高い 製品・サービスを生み出すプロセス全般を意味する クリステンセンは、著書『The Innovator's Dilemma』(1997年)においてイノベーションには「持続的イノベーション」と「破壊的イノベーション」の2つがあるとし、市場のリーダーであるような優良企業は前者に最適化された組織やプロセスを持つがゆえに、後者を見落とし、失敗する場合があることを示唆した。 クリステンセンは、特に繰り返し業界リーダーが入れ替わったHDD業界を取り上げ、この現象を説明している。1980年代の8インチドライブから 5.25インチドライブへのアーキテクチャの移行についていえば、1981年の時点で8インチドライブの容量は60MBであるのに対して、5.25インチ ドライブの容量は10MBしかなかった。8インチドライブの主要顧客であるミニコンメーカーにとって、5.25インチドライブの記憶容量は性能的に不足し ていたのである。しかし、別市場(このときはデスクトップPC市場)で5.25インチドライブは受け入れられ、その結果として5.25インチドライブの継 続的な技術改良が始まり、数年のうちに主要指標でも8インチドライブの性能を凌駕(りょうが)し、8インチドライブ市場は縮小することになった。 すなわち「破壊的イノベーション」とは、狭義には一時的に主要性能を下げながら異なる価値を提供する“技術イノベーション”をいうが、広義には別 市場で根付いた後に持続的な改良によって性能向上を果たし、既存の主要市場をも浸食してしまう“産業イノベーション”のモデルを意味している。
このモデルでは、狭義の破壊的イノベーションを生み出す破壊的技術に加えて、競争市場で日夜続けられる持続的技術が 重要な役割を果たす。破壊的技術が生み出した新市場での性能向上が、既存市場におけるそれよりも早いペースで行われると、市場のありようを変容する「破壊的イノベーション」が発生する。“破壊的”と訳されているdisruptiveには「混乱を起こさせる」「秩序を乱す」といった意味がある。 いい換えれると、持続的技術による性能向上が繰り返され、製品性能が市場ニーズを超えて過剰になると、低性能/低価格の製品を受け入れる素地が整うことになるといえる。こうした既存市場よりも下位に当たる市場を狙う破壊的イノベーションを、クリステンセンは前掲書の続編に当たる『The Innovator' s Solution』(2003年)で「ローエンド型破壊」と呼んだ。これに対して、価格以外の価値基準で評価される破壊的イノベーションを「新市場型破壊」という。