LtVPickUp~Japan's reusable rocket startup ISC eyes US test launch in December
▼ケース記事
▼記事の要約
日本の宇宙スタートアップ Innovative Space Carrier (ISC)は、自社開発の再使用型単段式ロケット「ASCA」の技術実証を進めており、2025年12月に米国ニューメキシコ州の Spaceport Americaで初の試験打ち上げを予定しています。米 Ursa Major製エンジンや英 WAAM3D の金属3Dプリント技術を活用し、迅速な開発と低コスト化を図っています。将来は小型衛星市場だけでなく、サブオービタル輸送などの新市場開拓も視野に入れており、国内外の競合と差別化を図っています。 ▼会社概要
設立時期: 2022年5月頃
設立場所: 東京(日本)
創業者: Kojiro Hatada(元政府官僚)
事業内容: 高頻度・単段式の再使用型ロケット「ASCA」シリーズの開発を手がける、有人・貨物用小型宇宙輸送プラットフォーム構築企業
ターゲット市場: 100kgクラス小型衛星メーカー、日本と米国間の有人・貨物輸送ニーズ、地球間のポイント・ツー・ポイント輸送市場
製品/サービス
詳細:
ASCA 1.0(100 mフライト&垂直着陸プロトタイプ)を2025年12月に米国Spaceport Americaにてテスト予定
開発ロードマップ:2027年ASCA 1.1(亜軌道)、2028年ASCA 1.2(軌道投入)を計画
独自性:
SSTO(単段再使用)アーキテクチャによる高頻度・低コストランチャー
P4SD開発プラットフォームでのクラウド上開発・迅速試作
英WAAM3D社との3Dプリント連携、Ursa Major製“Hadley”液体メタンエンジンを米国輸入
財務情報
累計資金調達額: 360百万円
最新の調達ラウンド: シードラウンド
顧客基盤と市場シェア
パートナー提携等(時系列順):
2024年4月:Ursa Majorと協業開始、ASCA 1プロジェクト始動
2024年4月:米国法人Sirius設立、Hadleyエンジン10基調達
2025年5月27日:Spaceport Americaと2年のリース契約契約締結
2025年5月28日:ASCA 1ミッション発表(米国で垂直離着陸テスト計画)
競合環境
競合他社:
競合環境:
日本国内では低コスト・頻回打ち上げの再使用型小型ロケットが不足しており、アドバンテージを持つが、国外勢による波状攻撃に直面
エコシステム都市
東京(日本・東京都)
アクセラレーター・グラント・アカデミア・KOL
文科省SBIRフェーズ3:助成対象プロジェクトに選定
アカデミア連携:Letara(北海道大発のハイブリッドエンジン開発企業)と2025年4月から協業、2028年目標
KOL:Ursa Major C‑Suite(Ben Nicholson 他)の参画およびコメントあり
▼ドメインキーワード
Reusable Rocket(再使用型ロケット)とは、打ち上げ後に機体を回収・再整備し、複数回利用可能な宇宙輸送技術である。従来の使い捨て型ロケットと比較して、1回あたりの打ち上げコストを大幅に削減でき、発射頻度の増加と宇宙輸送の持続可能性を両立させる鍵技術とされる。
市場セグメンテーション(Market Segmentation)
小型再使用ロケット(Small Reusable Launch Vehicles)
重量級でなく、100kg〜500kgクラスの小型衛星向けに設計される。
大型再使用ロケット(Heavy Reusable Launch Vehicles)
Falcon 9、Starshipなど、数トンから数百トン級の大型衛星輸送向け。
サブオービタル再使用ロケット(Suborbital Reusable Launch Vehicles)
亜軌道飛行で宇宙旅行・科学実験に特化。
技術トレンド(Technology Trends)
空力ブースター回収
Falcon 9のようにブースター部分を逆噴射で垂直着陸させる方式が主流。
着陸脚、格納式フィンなどの制御システムが鍵。
SSTO(単段式軌道投入)
機体全体を1段構造で軌道投入し、帰還する高度技術。
ISCがASCAで挑戦している次世代構想。
再使用耐熱素材
複数回の大気圏突入に耐える断熱タイルや耐熱コーティングが必要。
Starshipはステンレス鋼と耐熱タイルの組み合わせで開発。
スマート整備プラットフォーム
IoT/AIを活用した機体状態モニタリングと迅速整備が求められる。
ISCはP4SDでクラウド連携開発を実施。
顧客ニーズと消費者行動(Customer Needs and Behavior)
低コスト・高頻度の打上げ
小型衛星メーカーが高頻度・短納期を求める。
数百万ドル/回以下の価格競争力が勝負。
サステナビリティとCO₂削減
再使用型による製造資源の節約と廃棄物削減が投資家に支持される。
フレキシブルな射場利用
多頻度打上げには迅速な発射許可と複数射場の確保が重要。
規制と法制度(Regulations and Legal Framework)
米国
FAAの再使用型ロケット運航許可(Reusable Launch Vehicle License)を取得必須。
射場との複数年リース契約が一般化(Spaceport Americaなど)。
欧州
ESAのプロジェクト内で再使用型実証進行中(Prometheusエンジンなど)。
日本
JAXA・経産省がSpace One、ISC等の民間打上げ支援を政策化。
新宇宙基本計画で再使用型技術への助成含む。
▼初期仮説
初期仮説(個人的にはこういう点が起業家にとっても価値だと思うので深掘りたいッス、な論点)
単段再使用型に必要な高耐久軽量構造が、金属3Dプリント技術で現実的になった今こそチャンス。
単段設計により機体構造をシンプル化できれば、多段型より整備コストとダウンタイムを大幅に下げられるのではないか。
小型衛星の顧客にとっては打上げ性能より「待たずに何度でも飛ばせる速さ」が最重要価値になると考える。
▼事前リサーチ
Q. 金属3Dプリント技術(WAAMなど)は従来のロケット構造に比べてどの程度の軽量化・製造コスト削減を実現できるのか?
既存技術との比較
WAAM技術の軽量化効果
WAAM (Wire Arc Additive Manufacturing) は、従来の鍛造・機械加工に比べて材料歩留まりを 70〜80% 改善 できると報告されている。
例えば英国 WAAM3D社の事例では、ロケット燃料タンクの大型部材で約15%の軽量化+切削廃材80%削減。
製造リードタイム短縮
WAAM3Dは同等サイズの鍛造品が 3〜4ヶ月かかるのに対し、1〜2週間でプリント完了し、後処理含めても1ヶ月で納品可能としている。
ISCがWAAM3Dと提携しているのは、この高出力ロボットアーム型プリンターをロケット大型構造物に直接応用するため。
コスト構造
コスト低減の具体値
大型金属構造物では、材料費だけでなく「金型費用」が不要になるのが大きい。金型設計に通常数千万〜数億円かかるのをゼロ化。
WAAMの機材と操作員を自社内導入する場合、初期投資は数千万円だが、量産期には単位コストが従来比で20〜40%安いとされる。
ISCの場合
ISCは金属パーツだけでなく燃料タンクの一体構造にWAAMを適用することで、溶接点の数を減らし整備性と耐久性を両立させる計画。
これによりSSTOの構造重量比を従来より5〜10%向上させる見込み。
Q.単段再使用型は多段型に比べて、どの程度整備工数と時間を削減できるのか?
既存再使用ロケットの整備負担
Falcon 9 の場合
Falcon 9 は1段目のみ再使用で、2段目は使い捨て。
1段目の回収後の整備は 1機あたり数週間~1ヶ月 が平均とされ、特に着陸脚・推力構造・熱遮蔽材の検査に多くの人手と時間が必要。
SpaceX の公開情報では、Block 5(改良型)では整備サイクルを10回以上に引き伸ばしたが、それでも機体の分解点検が必須。
単段式の潜在的メリット
構造簡素化
単段式(SSTO)では多段分離用の接続構造、分離爆薬、点火シーケンス用の補機が不要。
結果として、点検項目そのものが 30% 以上削減できるとされる。
整備時間の短縮ポテンシャル
ISCは、単段構造に加えてP4SD(クラウドベース整備管理)で状態監視をリアルタイム化し、点検→修理の人手判断を自動化する計画。
これにより、1回の点検時間を Falcon 9 の半分以下(= 数日~1週間程度) に短縮する可能性がある。
ISCの追加要素
機体構造:単段+3Dプリント一体化で溶接箇所を最小化 → クラック検査コストを削減
P4SD:各部位の残寿命予測をAIで可視化 → 不要な分解整備を避ける
Q. 小型衛星市場では、打上げ性能よりも高頻度化のニーズがどの程度強いのか?
顧客ニーズの現状
小型衛星市場の急増
2023–2032 年に小型衛星(500 kg 以下)は26,104 基が打ち上げ予定で、これは毎日 1.5 t 分の衛星が打ち上がるペースに相当
市場規模は 2024 年約 69 億ドル、2025–2034 年の CAGR は16.4%
混載打上げの課題
ライドシェアのタイムリスク
CubeSat プログラムでは、相乗り輸送時に6 ヶ月〜1 年のずれが一般的
つまり、「時期が確定して飛べること」は顧客にとって大きな安心材料
高頻度打上げの価値
Rocket Lab は Electron を月間 1 発運用にまで高頻度化(2018 年時点)を明言
顧客 BlackSky とは複数回打上げ契約を締結しており、高頻度サービスを明示したポジショニング
▼結論
結論(リサーチの結果、個人的にはやっぱりこういう点が起業家にとっても価値だと思うッス、な論点)
単段再使用型ロケットは、技術の難易度そのものが注目されがちだが、実際に重要なのは「構造をどれだけシンプルにし、どれだけ早く回せるか」という設計思想と運用体制だと感じた。特に、金属3Dプリント技術(WAAMなど)の成熟とエンジン外部調達が整った今だからこそ、小規模チームでも単段式を現実化できるチャンスが生まれているのは大きな非連続性だ。
また、Falcon 9型の多段再使用と違い、構造が一体であることで整備コストを削減し、年間打上げ回数を極限まで高めるというターンアラウンドの思想は、小型衛星の「いつでも飛ばせる」ニーズに直結する強い武器になると考える。
加えて、単なる高性能ではなく、整備データをP4SDで可視化し、現場作業を最小化する実装力こそが、資金効率を高める本質だ。総じて、技術スペック競争だけに陥らず、「頻度 × コスト × スピード」をデータで証明できる仕組み作りが、ISCのような新規プレイヤーがSpaceXやRocket Labに真正面から挑むための鍵になると感じた。
だからこそ、起業家としては 「技術的に可能か」ではなく「どうやって最速で回して顧客に使わせるか」を最優先 すべきだと感じた。また、全てを自前で作ろうとせず、エンジン外販・3Dプリント外注など 外部資源をフル活用して時間を買う設計思想 を組み込むのも重要だ。