月光派について
■月光派について
月光派は、科学秘密結社の一つです。この組織はその目指すものが通常の科学者達と著しく異なるために、一般的な組織とは見なされていません。科学者達の間には噂程度の情報は流れていますが、科学によって生計を営むものであれば、月光派と関わることはなるべく避けています。この組織は危険ですし、異端の科学を認めようとしているからです(しかしその反面、著名な科学者が入会していると言う噂−−もちろん本人は否定しますが−−が絶えることはありません)。
この組織は、現在の科学を遥かに越えた技術を、すでに自らのものとしています。例えば、物理学方面では『重力遮断装置』を完成させているという噂が立っていますし、生命科学分野では、ダーウィンの『種の起源』が刊行される以前から、進化論について論じて来ているという話もあります。ただ、これらの噂がどの程度まで真実なのかは判りません。なぜならば、これらの噂を立てているのも、『月光派構成員』だと考えられるからです。
月光派の各種の発明品は、実用に耐えますが、正統派科学からは全面否定の立場を取られています。このことに対して、月光派は何の感情も持っていない様子です。
■月光派とエセ科学者
世に多くいるエセ科学者とレッテルを貼られている科学者の中には、月光派と強く結び付いていると噂されている人々がいます。彼らは正統派科学とは異なった体系の科学を実践しており、時として正統派科学とは相容れない発明を行なう事があります。これが月光派と結び付いている証拠とされています。月光派もまた超科学を用いているからです。
例えば飛行船や気球を用いる事なしに黒鉄製の機械が空を飛ぶなどという事は、明らかに当時の科学力を無視した技術ですし、それが悪魔の発明とされても仕方がない事です。月光派ではこのような機械が数多く発明され、実用化されているようです。
■月光派による犯罪について
月光派について一般の人々が知ろうと思ったとしてもその望みが叶えられる事はないでしょう。いや、月光派について知ろうと思ったその時点で、一般人としての道から逸脱しているに相違ありません。そのような歴史の裏に暗躍している秘密組織が月光派なのです。
表向き、月光派の活動は過激なテロリズムに立脚した世界改革のための集団に見えます。自分勝手な正義を振りかざし、他人の迷惑を省みない恐るべき暴力結社であるといえます。1890年代に入り、月光派の活動は規模の大きいものになってきています。新聞社などで資料を漁れば、様々な事件の裏に一連の組織的犯行が見て取れるといいます。
月光派が主に行なう犯罪は、一般的な富を狙った犯罪とはいい難いものです。重要建築物の破損や、美術館を襲撃したりということを行っていますが、その目的は今ひとつはっきりしません。何か大がかりな計画の一部として細かい犯罪を組み合わせている、そんな印象すら与えます。
■月光派の行った主な犯罪
月光派の名が表に出ている犯罪はほとんど知られていません。警察の上層部に属しているものすら知らないものがあるといわれています。傾向としては、街中の建造物やモニュメントなどに対する犯罪と導引機械に対する犯罪の2種類が多く、次いで要人誘拐、書物強奪、美術品強盗、無差別殺人などとなっています。
なぜ月光派が導引機械に対して興味を持っているのかは誰にも解りません。しかし、その目的が明らかになった時点で、何か恐ろしい事が起きるのではないかと考えられています。
■謎が謎を呼ぶ
月光派は謎めいた組織です。しかもヴィクトリア朝時代の科学技術を大幅に超えた機械を自在に用い、目的のはっきりとしない犯罪を繰り返しています。彼らの目的が何であるか、それは大きな謎になっています。構成している人々の素性も明らかになっていませんし、どのような内部組織であるかも知られていません。彼らの秘密が明らかになる時は来るのでしょうか?
□秘密結社マスター用情報
■月光派における集団組成
月光派はその内に二つの大きな流れを含んでいます。その二つは相反する行動原理を持っているのですが、どちらが欠けても月光派を語ることはできません。このふたつは『女王派』『新派』とよばれています。
■女王派について
『女王派』は歴史的にみて月光派の根幹に存在してきた派閥です。長年の間、月光派の歴史や思想は、女王派によって形成されてきたのです。
女王派はその名の通り頂上に『女王』を冠した集団です。女王は通称を『月光の女王』といい、女王派を、ひいては月光派全体を率いています。
女王派では女王の下に『構成員』とよばれる人々が連なっています。
構成員には上位と下位があります。上位構成員は組織の世話役のような存在であり、(現在のところ)10名が挙げられています。下位構成員は(主として科学の)研究サークルを運営します。ひとつの研究サークルは1名から10名程度で構成されています。 これらの研究サークルに属している人々には、世に名を知られた科学者をはじめとして、発明家、錬金術師、歴史家、宗教家などがいます。彼等は世間には内密に月光派の会員としての活動を行っているのです。
研究サークルが研究を通じて求めた結果は論文にまとめられ、上位構成員によって整理されます。整理統合された論文は最終的に女王に提出されその後『月光派図書部』によってファイルされます。
女王派の根底に流れている思想は、穏健かつ自由なものです。これは女王によって公布された思想『The First Impression』に由来しています。
女王派の倫敦における活動は、あるクラブハウスを中心として行われています。そのクラブハウスは、ある貴族(もちろん月光派の会員です)の屋敷を利用したもので、『時間城』という名が付けられています。
■月光騎士団
女王派の上位構成員は、別名を『月光騎士団』といい、様々な分野のエキスパート達で構成されています。ただし彼等は、その才能を社会で役立てようというような考えを持っていません。彼等は月光派(もちろん女王派です)のために生き、女王のためにのみその才能を使用しているのです。月光騎士団の合言葉が『月とともに歩め』である点からも、その事は容易に理解されるでしょう。月光騎士団を構成する者の名は明らかにされていませんが、何名かはすでにこの世を去り、何名かは英国を離れ、何名かは倫敦に居を構えているという噂が流れています。
■月光騎士について
月光騎士は女王派のために尽くす集団です。かつて10名の名が挙げられたことがありますが、現在その構成がどうなっているかのはっきりとした資料はありません。以前に挙げられた名前をここに挙げてみます。
1.アーロン・ゴールドバック
2.ポルト・ローゼンマン
3.チャールズ・スターハート
4.ジョン・ミシェル
5.オメガ・ホワイトロッド
6.リチャード・ロス
7.サミュエル・ジャクソン
8.アリス・レガシー
9.エイハブ・ガーランド
10.アルバトロス・ウィック
データはNPCデータ集を参照して下さい。
■月光の女王について
『月光の女王』がその起源をどこに持っているのかははっきりとは知られていません。諸説紛紛様々な意見が月光派内部でも囁かれています。その噂を統合すると、以下のような姿が見えてきます。
彼女が生まれたのはルネッサンス期にまで遡るといいます。つまり彼女は300年以上の命を保っているという事になります。これは、『月光の女王』という役割(もしくは地位)自体の歴史であるか、それとも一人が300年以上の命を保っているのかは明らかになっていません。
その点については彼女自身も語る事はありませんし、月光騎士もそのことを口にしません。また、彼女は時間についての知識を体得しているといいます。その知識は遥かなる過去から遠い未来にまで及ぶという噂です。それを確かめるには本人に直接コンタクトを取るしかないでしょう。
■月光派図書部について
月光の女王の情報面における代理人が『月光派図書部』です。この月光派の下位組織は女王の直属機関です。この機関は女王派に属する科学者達の論文をすべて保管しており、女王派の会報『月の黙示録(ファチマ・アポカリプス)』を発行しています。この雑誌は完全に純粋な科学技術等の論文によって成立しています。ここには希に「月光の女王」の言葉が署名入りで記載されることもあります。これは月光派の下位構成員であれば月光派図書部から直接郵送されます。発行は通常3カ月に1度の季刊で1890年の時点で通巻200冊を超えています。
図書部には女王派上位構成員の内3名がその他にも情報整理の専門職が数名属しています。ここには全欧でも最大級とされる導引機械が導入されています。その名称は『バビロン(Babylon)』といいます。バビロンによって処理された情報は美しく点彫されたプログラム=カルテの状態で保管されています。
図書部のオフィスは倫敦郊外にあると言われ、その規模は大英博物館の図書室以上の出版物コレクションを持っているという話からも想像がつくことでしょう。月光派内部ではこのオフィスを『バビロニアの図書館』といいならわしています。
■月光派と発明資料について
月光派に属しているキャラクターであれば誰でも、月光派図書部にある月光派会員の手になる論文に、目を通すことができます。月光派の図書部へは、手紙によってアクセスの要請を行うことができます。図書部の検索システムは、完全なものですから、数週間以内に、導引機械タイピングによる論文集が送り届けられます。
すべての資料は、『非常に役に立つ資料』であり、その数量は1D3冊に及びます。もしも全ての資料を用いる場合には、『1D3×3D6』ポイントの『科学技術係数』が与えられる訳です。
ただし月光派に属しているキャラクターは、場合によっては反社会的な集団に属しているとしてスキャンダルにおちいる可能性もあります。
■新派について
新派は月光派の内部から出現した新しい派閥です。この集団は世紀末の接近と共に力をつけ始めました。
新派の出現は女王派の下位構成員に由来しています。『アントニオ・リヴァイアサン』と名乗る人物(たぶん偽名でしょう)が、自分の研究サークルを月光派の中で独立したものとして宣言したのが新派の起こりです。新派は女王派と異なって、非常に急進的な組織です。社会の裏の世界や警察当局によって反社会的危険分子とみなされている、いわゆる『月光派』はこの新派のことを示しています。(社会の表面には女王派の存在はほとんど知られていないのです)
新派は女王派の説く『The First Impression』の一節「世界のすべては月光派の内にある」に目をつけ、現実的な強大な物理力によって世界を征服しようと試みています。
新派の頂点に立っているのは、通称『月光位(lass of Lunar)』と呼ばれる位に位置する5人です。この5人の内の一人がアントニオ・リヴァイアサンであろうと言われています。新派では月光位の下に『会員』と呼ばれる人々が連なっています。
新派は会員の自由意志を何ら制限しません。ただ新派に属するものは有志で、世界をその手に握るための計画を立て実行に移しているのです。
■新派会報について
新派によって発行されている会報は、1カ月に一度のペースで発行が続けられています。この雑誌の名前は『永遠の記号』で、発行元や発行者は一切不明です。これは月光派中の新派会員のもとに自動的に送付されています。この会報には何かサブリミナルメッセージ効果のような処理が施されており、長期間の購読によって次第に狂信的新派会員となるようです(それに気付いている会員はほとんどいないようですが)。
■月光位の5人について
新派を運営している5人の名前は、確認されているだけで以下のリストに挙げられているようになっています。公式の場に彼らが出没することはありません。
1.ハリス・グルーバー
2.メアリ・キーン
3.ジュディ・クィーンズゲート
4.ラック・ジョンソン
5.アルファ・ホワイトロッド
それぞれのデータはNPCデータ集を参照して下さい。
彼らの中に新派を最初に名乗った『アントニオ・リバイアサン』は『エイドリアン・ホワイトロッド』です。しかし、今現在、『アントニオ・リバイアサン』は存在せず、この5人の総意によって決定されたものを指します。
■新派と女王派の関係
アルファ・ホワイトロッドは、現在オメガ・ホワイトロッドと名を変え、月光騎士団の団長を務めています。オメガ・ホワイトロッドは最も忠実な月光の女王の僕です。このように、女王派と新派は表向きは反目し合う存在ですが、裏では提携し合っています。これは月光派の歴史が極めて計画的に進められているという証拠にもなっています。
■月光派と導引機械
31 エリアン・ポットマンの元から『ギガント・マセマティカ』の設計図が盗難に遭う。(犯人は『月光派』の新派に属する科学組織『異邦人の会』会員。ただし、彼の手からなぜか『女王派』の手に渡ったとされる。)1839年にグラスゴーの古書店で再び世に出ることとなる。古書店の主人によれば「こんなものは扱った覚えはない」とのこと。
42 ジョナサン・ハックマンの手によって組み上げられた『ギガント・マセマティカ』は、ある人物(その人物はエリアン・ポットマンを良く知る人物であったが)によると、エリアン・ポットマン自身が設計した機械と、その構造もデザインも大幅に異なっていたという。もしそうならば一体誰が何のために設計図をすり替えたのだろうか?
42 ジョンソン・スミスは『月光派・女王派』の構成員となる。
46 『導引機械協会』発足。名誉会長には『ジョナサン・ハックマン』が就任。
以下断章
グラスに満たされた酒をぐいと一気に燕下すると、ジェイムズ・E・グールズは、慌てた口調で、
「グレシャム・ホッブルスだと?こうしてはおれん。急く帰って調べてみなくては」
と口にした。
「ご心配には及びますまい。ここは『古書店『輝月堂古書店』』。大抵の資料ならば、ここの地下の図書館で間に合いましょう」 トマス・ハッターのその言葉に、グールズはにっと笑って、
「まだまだだよ、トマス。いくら月光派が万能だからといって、集められないものもある。今回はそれが必要なのさ」
続けて、
「もうじき儂の若い友人も帰ってくるはずだ。キングスクロスに出迎えが誰もいないなんて、そんなに寂しい事はないからね。儂一人ででも出向いてやる事にするよ」
「そうですか。ではもう一つ興味深い話題を提供する事にしましょう。それは、ある若者に関して、『女王』が非常に興味をお持ちだそうで」
「若者?」
「女王は既にお見通しなのですよ。今回の事件、一体未来に何が起こるのか、我等が倫敦にどのような厄災がもたらされるのかも。そしてその若者がどのような役割を果たすかも」
「——そうか。やはりそうか」
グールズのその言葉にトマスは無言でうなずいた。