読書オブジイヤー2020年度受賞作品
本記事は2021年8月執筆。だいぶ遅れてしまった。
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小室直樹『信長』
2014年の本賞受賞作『銃・病原菌・鉄』では、文明の発達における格差が生じた要因を、各大陸の形状や家畜化・栽培化が可能な動植物の分布にあるとしているが、欧米諸国と自然・地理的条件が大きく異る日本が明治維新に成功し、資本主義をかなり早い時期から導入できた理由については同書に今ひとつ歯切れのよい説明がなく、about.iconにとっても長年の謎であった。本書『信長』は、この疑問に回答を与えるものである。
資本主義の発生過程ではカルヴァンによる禁欲的プロテスタンティズムが大きな役割を果たしたが、日本では織田信長による様々な改革がプロテスタンティズムと同じ役割を演じていたというのが本書の中心的な主張。
信長の時代には、比叡山焼き討ちによる旧宗教への挑戦、兵農分離が徹底された軍制改革、楽市楽座の市場自由化政策、身分にとらわれない人材抜擢などが行われた。ヨーロッパではカルヴァンやフリードリヒ大王、ナポレオン、ビスマルクらによって行われなければならなかった同様の改革が、日本においては信長によって一挙に行われてしまった。明治維新が可能だったのは、信長がそれを準備したからというのが前述の疑問に対する小室直樹からの回答である。
信長は、目的合理的行動の範例を示し、日本の伝統主義に致命傷を与え、近代資本主義へのハイウェイを築いた。信長なかりせば、(中略)日本人は、今も前近代国家の陋習に呻吟としていたことであろう。
ということらしいです。近代文明の恩恵を受けている各位は信長に感謝しましょう。