読書オブジイヤー歴代受賞作品(2014年〜2019年)
年間を通じた読書でもっとも印象深かった本を毎年末に選出している。2014年より開始。
出版年ではなく、その年に読んだ本を基準に選んでいるので、本人の記録用であり公共性はほぼ無い。
2014年
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51pOlm9XYEL._SX342_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4794218788
ジャレド・ダイアモンド『銃・病原菌・鉄』
1532年、ヨーロッパからアメリカ大陸に渡ったフランシスコ・ピサロはインカ皇帝アタワルパを捕虜としたが、なぜその逆のこと、すなわちインカ帝国軍がヨーロッパを席巻するようなことが起こらなかったのかについて、人類がおよそ全ての大陸に到達した紀元前一万三千年の時点から理由を探る名著中の名著。
ユーラシア大陸が東西に長かったのに対しアフリカとアメリカ大陸が南北に長かったこと、栽培化可能な植物や家畜化可能な動物の分布に地域差があったことにその理由が求められるとする。基本的には上記二つのことしか書いていないので、以上の点さえ理解できれば本書をほぼ読み終わっている。
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2015年
https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51IALJr-FKL.jpg https://amazon.jp/dp/B009VZHTL8
山野井泰史『垂直の記憶』
国際的に活躍する登山家の山野井泰史による自伝。妻とともに登ったヒマラヤのギャチュンカン(7,952m)から下山中に遭難し、夫婦合わせて20本近くの指を凍傷で失いながらも未だに垂壁に固執し続けている狂人。本書にはそのときの遭難記録も綴られる。
眼球が凍結し視力を失った状態で氷壁に3日間宙吊りとなりつつ生還。人類が発揮可能なガッツの最大出力を観測できる貴重な文献である。登山という、社会に対する生産性をほぼもたない分野にこういう人間がいることを忘れずに生きたい。 hr.icon
2016年
https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51ksEFZmC7L.jpg https://amazon.jp/dp/B00DGI72AEhttps://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51Ax0pA6qmL._SX350_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4396430760
金子隆一『アナザー人類興亡史』
二冊同時選出。前者はサイエンスライターによる人類学の概説書で、化石の発掘や分子生物学の進歩により日夜覆りつつある人類学説をアップデートするのにちょうどよい。人類学が『銃・病原菌・鉄』の前史を描いていると考えると人類史をより大きなスパンで捉えられる。
上坂すみれ『Sumipedia』
後者は声優上坂すみれさんの「スタイルブック」。スタイルブックという本のジャンルが存在するのか、存在したとして何なのかは不明。
巻末に記された読者へのメッセージ「おしゃれは常に貴方の味方です」はabout.iconの座右の銘となった。
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2017年
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/41r8h1enuVL._SX351_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4163906576https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51b9Be4CObL._SX361_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4801300812
ルトガー・ブレグマン『隷属なき道』
二冊同時選出。本書はベーシックインカムの導入と週十五時間労働、国境の開放などの政策を訴えるオランダ人ジャーナリストによる本。実現可能かどうかはともかく、希望をもって描かれた未来像が同い年の人間からこういう形で出てきたことに仰天してしまった。
谷口狂至『アジアマリファナ旅行』
カンボジアで「外こもり」をしつつアジア各地に出かけ、ライターとして生活する谷口狂至による旅行記。訪れる先々での「名産品」を賞味する様子がみずみずしい臨場感をもって描かれる(だからといって真似をしてはいけない)。
基本的に引きこもりの谷口が旅先で名産品を手に入れるためにガッツを発揮し、そこで生じたやり取りによって現地の人々と思いがけぬ温かい心の触れ合いを経験したりする。 しかしそうした旅先での経験も彼にとってあくまで「ケ」であり、最終章で語られる「ハレ」の追求が何より重要なのであった……。
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2018年
https://images-fe.ssl-images-amazon.com/images/I/51AAWUulkpL.jpg https://amazon.jp/dp/B079HZ1CB9
古峰文三『「砲兵」から見た世界大戦』
ナポレオン戦争〜第二次世界大戦期までの砲兵に焦点を当てた作品。
WWIでは火力が歩兵>砲兵であったために泥沼の塹壕戦に突入したが、WWIIで目立った塹壕戦の膠着が見られなかった理由を砲兵戦術の進歩に求め、航空偵察や無線通信による連携、敵方野砲の音響・閃光測定による位置特定などの技術がそれを支えたとされる。
戦車と航空機による電撃戦が花形で砲兵は脇役という従来の戦史観における固定観念が覆る良作。
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2019年
https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/511Axo2GNLL._SX332_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4569841376https://images-na.ssl-images-amazon.com/images/I/51hoi2%2BHToL._SX355_BO1,204,203,200_.jpg https://amazon.jp/dp/4062756609
門田隆将『オウム死刑囚 魂の遍歴』
これまで裁判記録以外に客観的な情報が少なく、オウムウォッチャーの間でも評価の分かれていた井上嘉浩に関する貴重な資料であることが評価されて選出。
諜報省元トップとして多くの犯罪に関与しておきながら裁判では保身のため証言を二転三転させた人物という評価でメディアや元信者たちから総バッシング状態だったにも関わらず、最後まで決して井上を見捨てずに獄中の息子と交流を続けた両親の姿が本当に心を抉る。
ユン・チアン『ワイルド・スワン』
清朝崩壊期や国共内戦と日中戦争、文化大革命という中国史上最悪クラスの極限状況を、人間性を決して手放さなずに生き抜いた母子三代を描くノンフィクション。平時は誰でも善人のふりをすることができるが、人間の価値は極限状況におかれたときにどのように行動するかによって決まるということが徹底的に描かれる。
とにかく作中の全期間を通じて役人の腐敗ぶりが凄まじく、賄賂やコネを用意できない人間が次々と粛清されていく中、家族や友人のことを決して裏切らない常軌を逸したガッツの持ち主が山ほど登場し、中華文明の層の厚さを思い知らされる。