コンピューターと認知を理解するー人工知能の限界と新しい設計理念
テリー・ウィノグラード、フェルナンド・フローレス、「コンピューターと認知を理解するー人工知能の限界と新しい設計理念」(平賀譲訳、産業図書、1989 (原著:Winograd, Terry; Flores, Fernando, "Understanding computers and cognition: A new foundation for design", Ablex Publishing, 1986).
2009年か2010年ごろに須永先生のお話にウィノグラードが出てきて驚いたのでした(認知科学の方法)。本書以降のウィノグラードを知ったのはそれからのことです。 やや余談ですが、フローレスは本書に挙げられているオントロジカル・デザインの初期の例として Cybersyn を挙げています。Cybersyn(サイバーシン。チリのマルクス主義政権下でのサイバネティクスに基づく計画経済。全国の工場に500 台のテレックス端末を配備し、政府の制御室と接続した。)はフローレスがサイバネティクス研究者のスタッフォード・ビーアを英国からチリへ招聘することで実施されました。
別途サーバーシンのことを調べていた友人と思いもよらぬところで繋がって盛り上がった思い出があります。
デザインで最も重要なのは,存在観を確立するという側面である.ものごとの存在をどう解釈するかという存在観をデザインする(訳注:以後これを「存在観的デザイン(ontological designing)」と呼ぶ)というのは,我々が受け継いできた背景とのつながりを保ちながら,すでに(世界的存在として)存在している我々のあり方から芽生えてくるもので,我々がどのような存在であるかに深い影響を及ぼす.存在観的デザインは,新しい製品・器具・建物・組織構造などを作り出すにあたって,我々が日常的実践や道具使用において,どこでどのようなブレイクダウンが生じるかを前もって解明することによって,我々が働き,遊ぶ空間を新しく開くことを目指すものである.したがって,存在観を確立することを志向したデザインは,必然的に内省的かつ政治的である.我々を形成してきた伝統を振り返りつつも,一方では,未だ存在しない我々の生活の変容も見据えているからである.新しい道具の登場とともに,人間の本性や行動に対する我々の意識は絶え間なく変化し,それがまた,新しい技術的発展に繋がる.デザインの過程は,我々の可能性の構造を生成する「ダンス」の一部なのである.(「コンピュータと認知を理解する」p.265-266)"
意志決定支援システムの設計でも,第一に考えなければならないのは潜在的ブレイクダウンを予期することである.Cybersynは,そのようなシステムの初期の例である." (「コンピュータと認知を理解する」p.271)
このシステムでは,ローカルなグループが経済指標(例えばある工場の生産高)の通常時の正常範囲を記述し,そこから潜在的ブレイクダウンを示唆する特徴的な変動パターンを知らせる機能をもつ. (「コンピュータと認知を理解する」p.271)
Cybersyn はピノチェトの軍事クーデターに伴い破壊されました。その際、フローレスも投獄されましたが、謝辞にあるよう同書の執筆に先立って解放されました。
「コンピュータと認知を理解する」謝辞より
またスタンフォードとアムネスティ・インターナショナルの人々には特別の謝意を表したい.彼らの努力によって,フェルナンド・フローレスの解放が成し遂げられたからである.