Kolmogorov複雑度的な乱数の無限存在定理からGödelの不完全性定理を導く
参考文献
菊池誠; "不完全性定理"
Kolmogorov複雑度などに関する記法はChaitinの不完全性定理を参照.
Def. Kolmogorov複雑度的な乱数
$ a \in \Nとする.
$ \mathrm{len}(a) \leq K_\mathcal{U}(a)のとき,$ aは($ \mathcal{U}において)Kolmogorov複雑度的な乱数である.以降は単に乱数であると呼ぶ.
直感的には,$ aは自分の長さ未満のプログラムで記述出来ないような数である.
もっと直感的に言えば,圧縮不能な数である.
Thm. Kolmogorov複雑度的な乱数の無限存在定理
$ \mathcal{U}における乱数は無数に存在する.
証明
$ 1 \leq aとする.
1. $ \mathcal{U}での長さが$ a未満のTuringマシンは高々$ 2^a個しか存在しない.
そのTuringマシンを全部集めた集合を$ \{f_0,f_1,\dots,f_{n}\}とする.$ n + 1 < 2^a.
2. $ \N \setminus \{\lbrack f_0 \rbrack,\lbrack f_1 \rbrack,\dots,\lbrack f_n \rbrack\}の最小値を$ bとする.
明らかに,$ b \leq n + 1である.SnO2WMaN.icon?
3. 1,2より$ b < 2^a.
したがって,$ \left\lceil \log_2(b)\right\rceil < a.
$ \left\lceil \log_2 2^a \right\rceilは自明に$ aである.
4. $ \{f_0,f_1,\dots,f_{n}\}の中に$ bを出力するTuringマシンは存在しない.
なぜなら$ \{f_0,f_1,\dots,f_{n}\}が出力しない自然数の最小値が$ bだから
したがって,$ a \leq K_\mathcal{U}(b).
$ bは長さが$ a未満の全てのTuringマシンで定義不能.
5. ところで,$ \left\lceil \log_2(x)\right\rceilとは$ \mathrm{len}(b)のことであった.
6. 3,4,5より$ \mathrm{len}(b) \leq K_\mathcal{U}(b).
7. したがって定義より,$ bは$ \mathcal{U}において乱数である.
8. $ aに依って$ bが決まるので,乱数は無数に存在することが示される.❏
例
Chaitinの不完全性定理#64b0d12013a1580000ad85fbの例を借りる.
$ a = 4とする.高々Turingマシンは$ 2^3 = 8個しか存在しない.
$ \N \setminus \{0,1,2,3,4\} = \{5,6,7,\dots\}
したがって$ b = 5である.
$ 4 \leq K_\mathcal{U}(5)
以上より,$ \mathcal{U}においては$ 5は乱数.
Cor: Kolmogorov複雑度的な乱数の集合は再帰的可算だが再帰的ではない集合
Kolmogorov複雑度的な乱数の集合は再帰的可算だが再帰的ではない集合である.
proof
$ \mathcal{U}における乱数の集合$ R_\mathcal{U} \coloneqq \ \{ r \in \N \mid \mathrm{len}(r) \leq K_\mathcal{U}(r) \}とする.
$ \bar{R_\mathcal{U}} \coloneqq \N \setminus R_\mathcal{U}とする.
すると$ \bar{R_\mathcal{U}} = \{ a \in \N \mid K_\mathcal{U}(a) < a \}となる.
$ \{ a \in \N \mid K_\mathcal{U}(a) < \mathrm{len}(a) \}だが,$ \mathrm{len}(a)は適当な$ bとしてもよいことに注意.
$ K_\mathcal{U}(x) < yが$ \Sigma_1定義可能なので,$ \bar{R_\mathcal{U}}も$ \Sigma_1定義可能.
よって$ \bar{R_\mathcal{U}}は再帰的可算集合である.
他方,$ \bar{R_\mathcal{U}}は再帰的集合ではない.
この証明は篠田寿一『帰納的関数と述語』などを参照.
Cor. 第1不完全性定理
再帰的可算だが再帰的ではない集合から第1不完全性定理を導くより,直ちに第1不完全性定理が得られる.
Cor. 第2不完全性定理
$ \bar{R_\mathcal{U}}から第2不完全性定理を導くことも出来る.
詳しくはM. Kikuchi, T. Kurahashi, H. Sakai, "On proofs of the incompleteness theorems based on Berry's paradox by Vopěnka, Chaitin, Boolos"参照.