非場所
そこで目についたのが、フランスの人類学者マルク・オジェの「非‐場所(non-place)」という概念だ。「場所」には本来、そこに暮らす人々との有機的な繋がりを通じて、その場所特有の記憶が堆積する。そしてその記憶は、気候、環境などから影響を受けて日々変化していく。それに対して「非−場所」とは、文字通り場所ではない場所。アイデンティティに乏しく、歴史が意味を持たないような没個性的な空間のことを意味する。「非−場所」の具体例として挙げられるのは、高速道路、ショッピングモール、空港など。生活空間を見まわせば、コンビニやドラッグストア、病院、シネマコンプレックス、マクドナルドやスターバックスなどが「非−場所」として思いつく。その時乗っていた新幹線もある意味「非−場所」とも言えるかもしれない。 オジェは1992年の著作『非–場所』の冒頭でフランス人ビジネスマンがホテルを後にし、シャルル・ド・ゴール空港に車で向かい、セキュリティーチェックを通過し、免税店で買い物をした後、シームレスに飛行機に乗り込む様子の感覚的体験を描写した。「非‐場所」は独立して存在する。しかし、私たちはこんなふうに「非−場所」を連続的に経験しながら生活を送ることもできることを示唆する描写だ。