金利
リスクフリーレートが国債を中心に回っている
より長期の金利を政府が介入してコントロールしようとしている
仮にある経済圏における全ての金利が同じであるとします(預金金利も借入金利も、短期と長期の金利も全て同じです)。この仮定のもとで、金利を2%から0%に引き下げた場合、何が起こるでしょうか?
金利が0%になると、銀行にお金を預けても利息がつかないため、人々は貯蓄を減らし、消費や投資を増やすようになります。例えば、家を買ったり、車を買ったり、ビジネスを始めたりします。企業も借入コストが低くなるため、設備投資や人材採用を積極的に行います。消費と投資の好循環が生まれ経済が活性化されます。
アメリカは2016年から利上げを始めましたが、コロナウイルスのパンデミックによる経済の打撃を受けて、急激に利下げ方向に転じました。日本とヨーロッパに関しては、経済を刺激するために長年ほぼ0%をずっと維持しています。
では、ニュースでよく見る中央銀行の「利下げ」・「利上げ」は何の利率指してるかご存じでしょうか?銀行の定期預金金利では勿論ありません。
例えば、ある企業が銀行から返済期間10年で借入をしたとします。銀行側から5%の金利を求められました。
5%の内訳は大きく3つの要素に分解されます:
② 借入人に係るリスクプレミアム
③ 銀行の利鞘
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③ の利鞘は市場の競争環境や銀行の戦略によって変動します。
② のリスクプレミアムは借入人の事業状況、財務状況や担保等の要素を総合的に加味し、銀行内の複雑な与信モデルによって推計されます。貸倒リスクが高ければ高いほど ② の利率は上昇します。
最後に残った①リスクフリーレート、これが全ての経済の基礎であり、我々が普段見る世の中のあらゆる利息(預金金利、不動産ローン、クレカローン、社債 等)はリスクフリーレートに基づいて計算されます。このリスクフリーレートこそが、金融政策で議論になる「金利」です。
リスクフリーレートとは名前の通り、理論上ゼロリスクで得られるとされる利回りのことです。このレートは実務上信用リスクのない政府が発行する(一定の経済規模があり安定している国)国債の利回りを指標として使用します。アメリカ国債、日本国債、ドイツ国債等の利回りが各通貨のリスクフリーレートになります。これらの国債はセカンダリーマーケットで売買されており、その売買価格から逆算し金利を計算することが可能です。 全ての通貨に対して、異なる満期ごとにリスクフリーレートの値が存在します。リスクフリーレートを縦軸、満期を横軸にしてプロットした利回り曲線が当該通貨のイールドカーブ(Yield curve)と呼ばれるもので、このイールドカーブこそが資本主義経済の根幹をなしていると言っても過言ではありません。 ニュースで見る利上げや利下げの話は、全てこの「一日の金利」を指しています。それ以外の金利は全て市場によって価格が決められるため、中央銀行が直接コントロールすることは出来ません。
しかし、2008年のリーマンショック以降アメリカは短期の政策金利をコントロールするだけでは明らかに物足りないことに気付き、お金を印刷して市場で国債を買い付けることにより、長期国債の利回り操作をし始めました、これが「量的金融緩和(Quantitative easing)」です。 日銀の場合は、少し前まで10年物国債の利回りを0.25%に上限維持するため「無制限に国債を買い取る」という非常に大胆な施策を打ってきました。これは長短金利操作(イールドカーブ・コントロール)という、日銀の金融緩和の一つの柱でもあります。