資本コスト
期待収益率
日本企業は長い間、バンクガバナンスのもとで資本コストの概念が欠落していたために、負債の返済に備え過剰にキャッシュ(現金)をため込んで価値の創造が十分行われていない企業があります。つまり市場の評価の水準を表すPBR(株価純資産倍率)が1倍を下回る企業が少なくありません。200兆円近くの現金・有価証券が、金融を除く上場企業の貸借対照表(BS)に積み上がっている状況です。そこに株主資本コストというコストがかかっている意識がなく、投資や還元に回っていないという問題 投下した株主資本からどれくらいリターンを上げたかを表す自己資本利益率(ROE)から、株主資本コストを引いた差である「エクイティ・スプレッド」を高めることが必要です。 エクイティ・スプレッドがプラスになると、理論的にPBRも1倍以上になることが証明されています。世界の投資家を対象にした私のアンケート調査によると、日本株の期待収益率、株主資本コストの平均値はおおむね8%になります。したがってエクイティ・スプレッドをプラスにするためには8%を上回るROE。
また過去10年の日本企業のPBRとROEの関係を調べると、ROEが8%を超えるとPBRが1倍以上になり、右肩上がりに上昇していくことが実証的にわかっています。 ポイントは10年平均のROEで達成することです。製薬企業の場合、薬を世の中に出すためには10年スパンの年月が必要になります。研究開発費を過度に削って利益調整すれば単年度のROEは上がりますが、中長期的に新薬の創出が遅れ、企業価値を最大化しません。短期志向に陥らずに研究開発投資をするという方針から、エーザイのROEは近年何回か8%を下回ったことがありますが、10年平均は10%以上を維持し、研究開発投資が実り始めた今年度のROE予想は再び10%まで伸びてきています。 IRは資本コストを低減し、企業価値を高めると考えられます。例えばまったく同じPL、BSであるA社とB社があったとすると、投資家は同じ株価を付けるはずです。ただA社は投資家が大嫌いで情報公開も最低限しかせず、説明会もしないという会社だとします。B社は積極的にIRをする会社で、社長自ら投資家と会い、統合報告書を一生懸命作り、ウェブサイトにはたくさんの情報が掲載されている。どちらの株を買いたいかというと、やはりB社のほうが安心できます。A社には10%の資本コストを要求するけれど、B社は安心だから5%でも買いたいと思ってくれるかもしれません。実証研究によると、IRの優良企業は平均的な企業と比べて、資本コストをおよそ0.3%下げられる。それで逆算すると10%程度の株価のプレミアムがつく計算になる
ROE-COEが株式価値の源泉 株式の資本コストとは何か?:株主の機会費用または期待収益率 • 古典的な計算根拠はCAPM(シャープ理論) • リスクフリーレート + 株式市場のリスクプレミアム × β値 • 例えばリスクフリーレートは国債金利、リスクプレミアムは東証の超過リターン、β値は個別企業の リスクと市場全体のリスクの関係 資本コスト8%ほどが、経営者間の相違ってかんじ 株主に対しては株主資本コスト以上のリター ンを創出しないと株主価値を創造できない 中長期的に株主資本コスト以上のROE(株主 資本利益率)を上げることが資本主義の前提 (伊藤レポート)
「資本主義の根幹を成す株式会社が継続的に事業活動を行い、企業価値を生みだすための大原則は、中期的に資本コストを上回るROEを上げ続けることである。なぜなら、それが企業価値の持続的成長につながるからである。この大原則を死守できなければ資本市場から淘汰される。
資本主義の要諦は労働分配率にも配慮しながら、資本効率を最大限に高めることである。」 「企業価値創造のKPIとして、エクイティ・スプレッド(ES) = ROE – CoE(株主 資本コスト:株主の期待する投資リターン)がある。投資家から見ると、 これがプラスであれば価値創造企業、マイナスであれば価値破壊企業 と評価される」(【出所】 柳 [2010])
「資本コストは、市場が期待する収益率であるが、絶対的な定義は無く 、妥当な資本コスト水準については議論が分かれる。一つの参考として 、日本株に対して、国内外の機関投資家が求める資本コストにかなり のばらつきがあること、平均的には7.2%(海外)6.3%(国内)を想定して いるとの調査結果がある」 「上記の調査では、グローバルな機関投資 家が日本企業に期待する資本コストの平均が7%超になっている。
これ によればROEが8%を超える水準で約9割のグローバル投資家が想定す る資本コストを上回ることになる」(【出所】 柳 [2013a]) ROE = マージン(効率的なオペレーションによる利益率の改善)×ターンオーバー(運転資本管理や固定資産の現金化による資産効率の向上)×財務レバレッジ(Net DERを財務健全性のために -0.3~0.3にコントロールしつつ財務レバレッジを活用) IRが株主資本コストを引き下げる:ディスクロージャーレベルの高さが、株主資本コストの縮小につながることを示唆(優良ディスクロージャー企業と非優良企業との間では約0.28%の資本コストの差)