2.9その他初歩的な注意点
(a) 実験日・提出日を必ず記入する.
まず自分の実験ノートに実験日を明確に記録し,レポートにも明記する.
これは科学論文の検証や,特許取得の過程において最も重要な証拠となるものである.
※自筆サイン・日付付きの実験ノートは,法的に有力で具体的な根拠
本実験においても,確かにその日に実験を行ったという記録は非常に重要な証拠である.
レポートを書き直したり提出し直す場合は新しい日を追加記入する.
※大げさだが実験ノート・レポートは「自分が生きて実験した証」だと心得よう.
(b) 文字/フォントは見やすいものを.
手書きの場合,字は上手でなくても構わないので丁寧な字で書くこと.
ワープロなら本文は明朝体が原則.(珍しいデザインのフォントは使わない)
字/フォントは適切なサイズであると.
※本文なら10~12pt(ポイント)が一般的.見出しも極端に大きくしない.
適切な行間を空けること.
※広きすぎるのも狭すぎるのも読みにくい
(c) 専門用語に注意.
専門用語・技術用語の中には一般語とは違う意味の語がある.
また,同じ用語でも研究分野が違えば意味が異なることもよくある.
例 : 「校正」 : 測定業界では測定機器を正しく使えるように調整すること.出版業界では入稿された原稿の間違いや体裁の修正を指示すること.
たとえ耳慣れた語であっても安易な使い方をせず,その分野の専門文献を一度は調べてみること.
(d) 言葉の定義に注意.
簡単だと思える単語でも読み手がその言葉の定義を暗黙に了解しているかどうか,考えてみよう.
上述のように多重の意味を持つために混乱や誤解の原因になる言葉は多い.こういう語についてはレポート内できちんと定義するべき.
大雑把な言い方に注意.
例 : 「この電圧変化はノイズだと思う」…ノイズの定義は広い.また測定しているのがただの電圧変化なのか,符号等を含んだ意味のある信号なのかによって,なにをノイズと呼ぶかは変わってくる.
(e) 形容詞に注意.
上と同様に,形容詞を使う時には必ず「基準」を考える.
例 : 「この結果の誤差が大きくなった」…「大きい」「小さい」の基準はどこか?実験の系統誤差は何%で,それにより結果はどの程度揺らぐと予測できるか?その予測に対して結果はどうだったか?主観的ではなく客観的に,定性的ではなく定量的な表現を徹底させよう.
(f) 入力に注意し,間違いはきちんと修正する.
手書きの場合は,鉛筆なら消しゴムを,ペンならホワイトを丁寧にかける.
ワープロの場合は誤変換に注意.
グラフの訂正は特に注意.線が多重になったら価値がなくなる .
誤字脱字をしないこと.ワープロなら誤変換に十分注意.
書いた後は必ず見直して,言葉の使い方で疑わしいものは辞書を引くこと.
漢字を適切に正しく使うこと.各種専門書で漢字で表記されているものは漢字を書くのは当然.
※辞書を引くことを面倒がらない
(g) 日本語表現を統一する.
かな漢字まじり表現,特に動詞・形容詞は統一した使い方をすること.
「いく」と「行く」,「いう」と「言う」,「つく」と「付く」
などはどちらでも構わないが混在させないこと.
また記述表現,特に修飾語に留意すること.以下のような口語表現や曖昧でどうとでも受け取れる表現は使わない.
「だいたい」「まあまあ」「ぜんぜん」「やっぱり」「いまいち」「ちょっと」「だいぶ」
(h) 誤差・有効桁数を意識する.
データや計算結果には必ず有効桁数があり,そこには誤差が含まれる.
※特にディジタル計測器の桁数には注意
測定値の桁数には誤差の範囲 (スケール ) という意味があることを忘れないこと.
(i) 計算ミスをしない.
実験は段階を追って進めるため,前手順で得た値を使った計算値を後に使うことがよくある.
この時に計算ミスをしたら後半の実験や検証が台無しになる可能性がある.
答えがでたあと検算するのは当然.グループ実験ならメンバー同士でチェックし合うこと.
さらにミスを防ぎミスを発見するには,計算値のオーダー(10 の何乗等)を把握・予測しておくことだ.
本実験のように理論的背景がしっかりしている実験であれば,回路,各パーツの値,信号の条件等を与えれば大まかには予測できるはずだ.
また基礎的な物理定理や現象から,常識的にありえない数字になっていないかをチェックすることも大切.
☆例: 導線に流れる信号の速度は光速を超えない./多くの電気回路に利用されるキャパシタンスは pF ~ µF で, F のオーダーにはならないはず
(j) 考察は無理してでも書く.考察に正解はない.
まとめた結果を元にして問題点を発見し,原因やしくみを推測・推定する.すでに述べた通り,これが考察である.
考察には正解はなく誰にも答えを教えてもらうことはできない.
着目する論点は 1 人ずつ違っていていい.グループで同じデータを共有していたとしても,各人の考察の内容は異なっていてよい.
ただし考察の質の高さについては評価される.
「質の高さ」とは「他人が気づかないような論点」「立てた推論に対する緻密な検討」である.
※考察のコツは全体をぼんやり眺めるのではなく,どんなに細かいことでも,気になる部分,納得しきれないことにこだわって追及すること.
全体を網羅するより一点集中型のほうがはるかによい考察が書ける.
例 : 「この場所での電圧の変化は抵抗器の誤差かなにかだと思う」
←具体的に抵抗器の誤差の範囲は?それがその現象を生じる根拠は?
無理してでも考察を書くのは苦しいが,科学的・実験的思考を養うのに必須 → ひいては,理系卒業だと言うのには必須だと思うべし.
★上の項目については繰り返すことで,自然に注意できるようになる.
それまではチェックリストを作って自分でチェックすることを推奨する.
チェックリストの例を下に示す.
https://gyazo.com/c1b53ad98d1d4e1ec85cf6ea3664417b
図2.2 レポートチェックリスト