旅立ちの日
「勇者や、起きなさい」
20歳の誕生日の朝、母からそう声をかけられ起こされたことで、彼は自分が勇者であることを知らされた。
豪華絢爛なお城の中で王様はこう言った。 「そなたは、この国の希望じゃ。そなたが背負った使命は大きい。見事魔王を打ち倒してみせよ」
勇者は、それにしては少ない所持金と装備を受け取って町に戻った。
彼は自分の実力をよくわきまえていた。魔王を倒すには自分はあまりにも力不足だ。力なきものは情報で戦え !カジノに入り浸っていた父親がよく言っていたセリフだ。
彼は、徹底的に情報を集めることにした。 魔王の居場所、そこにいたるまでの最短ルート、一番近くの洞窟の地図、この町の近くに出現するモンスターの強さや弱点。調べればさまざまな情報が手に入った。
彼は手にした情報を分析し、とりうるリスクを計算した上で次のような結論を出した。 「よし、レベル2になったら町を出よう」。 そうして彼は、飽きることなく情報収集を続け、町から一歩も出ることのないままその生涯を終えた。