LATCH
「場所」(Location)
「アルファベット」(Alphabet)
「時間」(Time)
「分野」(Category)
「階層」(Hierarchy)
ref.
すでに『情報選択の時代』のころから強調していたことだが、ワーマンは情報は建築に似ていると考えていた。「情報建築」(Information Architecture)という概念をつくり、情報の分類の基本には100や500の区立てはいらないという仮説に到達していた。では、いくついるのか。情報の組織化に必要なのはたった5つで、それは「場所」(Location)、「アルファベット」(Alphabet)、「時間」(Time)、「分野」(Category)、「階層」(Hierarchy)だというのだ。略してLATCH(ラチ)という。 北海道大学の田中譲:知識研究
原研哉の『デザインのデザイン』(岩波書店)
水上慎士の『政治を変える情報戦略』(日本経済新聞社)
気が付いたのは、習慣病にかかっているかれらにはインストラクションの能力がひどく低く、それとともに仕事人としての認識力や表現力が極端に落ちているということだった。それなら、インストラクション能力を上げることこそ新たな仕事力の回復になる。そこから“情報構法”の力も動き出す。そうすれば、それがその会社や仕事場の活力になる。それはきっとアンダースタンディング・ビジネスの底辺になる。そういう結論に達した。
教えることで、アテンションが回復する
もっとはっきりいえば、ワーマンはインストラクションができない者のアイディアにはろくなものがないとも結論付けたのだ。なぜならあとで説明するが、アイディアというのは、インストラクションの途中から生まれ、そのまま新たなインストラクションに向かっていくものであるからだ。アイディアとは新たな理解力をクリエートすることなのである。
インストラクションの基本は次の5つ(5つだけ)で構成される。送り手(givers)、受け手(takers)、コンテンツ(content)、チャンネル(channel)、コンテクスト(context)だ。この5つがコミュニケーションやインストラクションにあるだろうことについてはとくに説明は不要だと思うが、それぞれをちゃんとパフォーマティブに身につけるには、やや高度な認識がいる。
次にコンテンツだが、これを静止するコンテンツと見てはいけない。最近のコンテンツ重視時代ではよく勘違いされているのけれど、コンテンツは情報内容ということではない。情報のシンタックスから内容のセマンティクスを取り出して次のトポスのところへ、そのセマンティクスを巧みに移転することなのである。シャッフルし、編集し、リデザインすることなのだ。コンテンツを動かそうとしたときの、その動きを方を含めたものがコンテンツなのだ。じっとしているコンテンツはコンテンツではないのだ。
そのようにコンテンツを見ると、概略、コンテンツは3種類に分かれる。(A)過去のコンテンツ、(B)現在のコンテンツ、(C)未来のコンテンツ。その3種類を次々にインストラクションする。
(A)のコンテンツはおおむね過去にある。したがってそのコンテンツを動かすには過去に向けてのインストラクションが必要だ。わかりやすくいえば歴史編集だが、それだけではない。たとえば会社のリソースは過去の蓄積が多いだろうから、そのリソースの移動にはこの(A)的なインストラクションができなければいけない。そのため、ここにはきわめて総合編集的な「知識移動の構造」が準備される必要がある。それをつくりながら知識の移転をはかる。
これをぼくの編集工学の言葉でいえば、「乗り物と着物と持ち物を一緒に見る」ということになる。さらにいえば「ツールとロールとルール」を一緒にインストラクションできるようにするということになっていく。いまさら打ち明けるのもこそばゆいけれど、ぼくがこうした“三位一体”によって編集工学を説明するようになったのは、ワーマンとのディスカッションやワーマンの場にいたことが大きかった。ワーマンが気がつき、ぼくが編集する。そういう蜜月時代があったのだ。
つまり、コンテクストがインストラクションできなければ、いくらチャンネルや受け手がいてもパーなのである。そのためには何をキモに銘ずるかというと、システムに「見方」と「見方の移動」を入れておくということになる。このことはすでにジェラルド・ワインバーグ(1230夜)が提起していたことだった。
が、きっとこの「見方の入ったシステム観」というのが難しいだろう。そこでワーマンはわかりやすく3つのレベルを想定した。
レベル1ではそのインストラクションを会議にするか、報告にするか、文書にするか、チラシにするか、CFを打つかを決めるのがコンテクスト選択である。ここではチャンネル≒コンテクストになる。この選択ができない者は、いつも同じインストラクションしかしていない。でも、まあ、ここまでは序の口だ。
レベル2ではその特定のインストラクションを広くしていくことを試みる。その広がりぶん、コンテクストも変わり、それによってプレゼンテーションの方法が変わる。この「広くしていく」が味噌で、これは中身を変えずに何かを変えることをいう。何を変えるかというと、中身に応じた編集デザインを変えるのだ。その根本は「言い換え能力」だ。そこにはさまざまな工夫と知恵がいる。これを存分に知ってもらうには、ただし、ここではムリだ。イシス編集学校に入ってもらうしかない(笑)。
レベル3はうんとダイナミックである。なぜならレベル3はそのコンテクストを経済社会や生活文化に向けて発信するときのインストラクションなので、ここにおいてはインストラクションそのものが戦略や思想そのものに匹敵する。
ところで、以上の5構成要素のいずれにも、必ずつきまとっている属性がある。使命(mission)・最終目的(destination)・手順(procedure)・時間(time)・予測(anticipation)・失敗(failure)だ。
ワーマンは、こういう社員や上司を一掃するには、オーダー(命令)にインストラクションを交ぜるようにするべきだと言う。次に、仕事の進行や評価基準に「言い換え能力」と「見せ方能力」を評価するしくみを導入すべきだと言う。これは、コンテクストはつねに編集デザインされるべきもので、それによってこそ仕事のイメージがマネージできるという意味だ。それには、オーダーやインストラクションがちゃんと動いているかどうかをいつも注意しなければいけないのだが、それを決定づけるのは、そのやりとり(コミュニケーション)のなかで伝える内容に、そのメッセージを成立させるべき「場所」や「背景」がくみこまれているかどうかにかかっているということなのである。ワーマンはこれを「大きな絵」(big picture)の必要性と言っている。
ぼくの経験では、インストラクション能力や理解能力が低迷している場合、その90パーセントの原因は質問の仕方が悪いことにある。
仕事の指示に関する情報や知識には、たいてい2種類のものがまじっている。ひとつは「段階的構成要素の情報」で、もうひとつは「広がりを束ねる情報」である。これを、インストラクションの発信のときや受容のときに取り違えないようにする。
けれども、これらはたいていはネステッド(入れ子)になっている。そこで、ハイヤーインストラクションではこれを分離して、区分けできるようにする。異なるレイヤーに乗っている情報や知識と、フローをもって節目を次々に進んでいく情報や知識とを、分別するように自分を仕向けるわけだ。
ただし、ここで注意がいる。インストラクションには当人の喋り方や書き方が密接に反映しているから、その当人がフロー型の喋り方をしているクセの持ち主である場合は、ほとんどレイヤーの区別が相手に伝わらなくなっている。またその逆に、マッピングはうまいのに、仕事の流れや手順が相手にほとんど伝わっていないということもある。これらはどちらも、レイヤーとフローを分別できていないからなのだ。
破壊的インストラクション
悪いインストラクションのことを「ディストラクション」(破壊的インストラクション)という。その場やその仕事をオジャンにするような欠陥インストラクションだ。これはどう見ても、社内の“内部の敵”である。こういう欠陥インストラクションの原因はいろいろあるが、ワーマンによれば、その原因は次の10項目のどこかに必ずあてはまっているという。
①重要なことが欠落している、②場面と背景を説明していない、③関連情報がない、④引喩が適切でない、⑤適切な予告なしに慣例からはずれている、⑥実行させようとして途中に奨励の言葉をはさんでいる、⑦偽りをまぜている、⑧相手の能力を無視している、⑨ときどき脅している、⑩ほのめかしたり、笑いすぎている。
すぐれたインストラクションあるいはインストラクターの条件9項目
(1)インストラクションを包む大きな絵を示す。
(2)どんな分野の知識も、別の知識に応用できるようにパターンで示す。
(3)インストラクションによって信頼を広げてみる。
(4)適切な質問をして相手を喚起していく。
(5)アイディアを多様に表現してみる。
(6)その関心対象に熱意をもっていることを示す。
(7)誤りを想定し、失敗を先取りする。
(8)そこにリスクもあることをあらかじめ説明してみる。
(9)ときに方向転換をする勇気をもつ。