美的発達段階の詳細
概要
美的発達段階
「対話型鑑賞」に対する批判 - 名古屋芸術大学
アメリカでは1970年代、美術館離れがおき来館者が減ったことで、美術館活動を振り返る機会をもたらした。MoMAでは、10年以上におよぶ調査期間を経て、鑑賞者とは一体どんな人たちなのか、ということをインタビュー調査などから明らかにした。その調査結果をもとに、MoMAとともに協働で調査をしていたアビゲイル・ハウゼン(心理学者)が「美的発達段階」を提唱し、鑑賞者を美的経験によって5つの段階に分けて整理した。
美的発達段階と鑑賞 – 舟之川聖子 Seiko Funanokawa
アビゲイル・ハウゼンの美的発達段階
第1段階:物語の段階
作品を見て、自分自身の物語を作る。自分の記憶や経験へと話が逸れ、「鑑賞」からどんどん離れていく。
第2段階:構築の段階
好き嫌いだけでなく、アートの質を考え始める。自分の中にアートの定義、あるいは人生の価値観に対する定義があるため、それに当てはまらないと不安に思ったり、ときにはそのために反感、怒り、抵抗をみせる。
第3段階:分類の段階
理論と理性で作品をみようとする。主観的な発言は避け、作品をみて考えるというよりも、作品についてのデータを求めている。
第4段階:解釈の段階
自分の主観、感性、知識を駆使して鑑賞できる。作品に関する知識もあり、目の前にある作品にとどまらず、そこから他の作品やメタファーなどにも考えが及ぶ。
第5段階:再創造の段階
この段階の人は、作品から作品以外のこと、例えば自分の人生や経験、感情など美術以外の世界にも自由に行き来できる。まるで幼馴染と遊ぶように作品と遊べる人。この段階の人は来館者の中には0.1%しかいない。
この美的発達段階は、順序に沿って発達していくという理論。
だから急に1から3に飛んだりしないらしい。
アートに触れる経験の長さが関係するので、大人であっても経験が少なければ第1段階からはじまる。
今の話の流れでポイントなのは、第1〜第2段階が来館者の85%(個人的な趣味趣向で作品を観る)ということ。
対話型鑑賞,鑑賞能力(美的感受性)の発達,鑑賞批評メソッドの研究 : 読解的鑑賞の準備的論察
岡本芳枝(元広島市現代美術館学芸員)が報告する、鑑賞能力の発達的道筋としての5段階、①物語、②構築、③分類、④解釈、⑤再創造は、実証性が高く説得力がある。
岡本が紹介した鑑賞能力の発達特性(5段階)のまとめ
第1:物語の段階 - 作品をじっくり見ようとせず、自分の記憶や経験へ連想が飛躍してしまう。セザンヌの静物画に描かれたオレンジを見て「今朝食べたオレンジは酸っぱかったな」と別の想像を始めるなど、その思考は作品の中に入り込むことがない。
第2:構築の段階 - 作品に接する機会が増えるにつれて、多くの人は美術に関する知識や情報を増やそうとする。また、作品を観察することを心がけるようになる。
第3:分類の段階 - 鑑賞体験とともに知識が増えるにつれて.美術史上の分類などを重視するようになる。作品を見たときに知識のみを話したがることに特徴がある。
第4:解釈の段階 - 美術史、技法などのあらゆる知識を踏まえた上で、自分の感性を加えて解釈ができるようになる。
第5:再創造の段階 - 美術に関して熟知しており創造者であるアーチストという存在に最大の敬意を払う.作品と対話するかのような深い思索ができる。
ハウゼンの鑑賞能力(美的感受性)発達5段階説
①説明的段階(accounitive stage):主題、内容、色について無意図的で個人的な観察と連想がみられ、絵の良否の判断は、個人的な基準や記憶、信念に大きく影響され、思考と判断とに区別がされない。
②構成的段階(constructive stage):美術品を理解するための枠組みがつくられ始め、実利、実用、写実主義という伝統的な規範が判断の基準になる。また、どのように美術品が表されているかという技術に関心が向けられる。
③分類の段階(classifying stage):作家、流派、スタイル、時代などに関心が向けられ、作品に直接的、客観的に対峙する姿勢がみられる。特に線、色、構成などの形式的要素を手がかりに、判断基準を形成するが、絵画の意味や作家の意図は理解されない。また、感情や嗜好は、知的な判断によって隠される。
④解釈的段階(interpretive stage):前段階ほどは事実に忠実で客観性を目的とせず、作品に対する個人的な解釈に関心が向けられる。作品と自己との相互作用に注目し、形式的要素ではなく、シンボルを解釈し、よりいっそう意味的なメッセージを探求する。独特なもの、情緒的なものへの関心が強く、感情的な言葉で表現される。
⑤創造的再構成の段階(creative reconstructive stage):作品は、様々なレベルで感受、分析、解釈され、観察者自身のために再構成される。つまり、過去の洞察で備えた多様な方法やとらえ方がされ、感覚、思考、感情の均衡がとれて、自己意識の開放によって感情が癒され、知性によって作品のシンボルが変容される。
パーソンズの鑑賞能力(美的感受性)発達5段階説
第1段階 - お気に入り(favoritism)
「嗜好(好き嫌い)」が評価基準となり、「好きな絵」は「よい絵」とする。また、「私のお気に入り」を絶対視する性向(自己中心主義)が顕著である。描画内容を巡る思考は、生活体験や見聞した話、あるいは、既得の知識(概念)をベースになされるので、連想的・類推的な自由な創話的展開を示す。その表現解釈は具体的である。
第2段階 - 美とリアリズム(beauty and realism)
「リアリズム:事物描写(幻像<イメージ>の記録)という本質的側面に関心が向けられ(緩衝領域の当傾向は描画活動領域の同様な好み[写実期]に対応)、制作において画家に要請される技術的研鑽:「難易度と熟練(細心の注意、力量、根気)」を称賛する。また、連動して、題材(モデル等)の「美(よさや魅力を含意)」を、絵の中心的価値として認識する。解釈の自己中心性を脱却し、他者の見方を意識できるようになる。
第3段階 - 表出力(expressiveness)
画家の写実描画の腕前よりも、真実<リアリティ>を希求するアーティステックな態度の方に惹かれる。絵に備わる表現特質を、作者の心理状態や感情表出や美的感覚の働き、表現の動機・意図や主題面の独自性等に結び付けて理解しようとする。その解釈行為は内省的・感情移入的で、主観的範疇を出ない。
第4段階 - 様式とフォルム(style and form)
観念の表明や喚情的表現を成立させる絵画の形式的要素(物質的事実)であり、かつ、誰もが知覚し講評しうる客観的対象である、「媒体、フォルム、様式」に対して眼が開き、絵画理解の新たな問題意識をもつ。この転回から、個人的解釈を離れ、公的空間の中で絵が語られ論議されてきた歴史、その過程で生まれてきた多種多様な解釈・評価を、意義あるものとして意識しだす。美術史や批評言説の知識を作品解釈に有益に活用できるようになり、視野が広がる。
第5段階 - 自立性(autonomy)
「脱伝習」の段階で、一度学んだ慣例的・権威的作品感を懐疑的態度をもってあえて離れ、自分なりの価値判断軸・批評眼によって作品を再解釈する。ただし、当作業、論の正当性の実証は、単なる思いつきや独断・偏見によらずに、むしろ諸見解を柔軟に参照し、他者との対話を重視しつつ、解釈・判断の自らの根拠を明瞭に提示しながら行われる。良質な美術史家・美術評論家に備わる、時に挑戦的・問題提起的な面をもつ、オーソドックスなスタンスだとも言える。考える対象は美的側面に限定されずに、「人類一般の価値の問題(美徳・悪徳)」にまで拡がることがある。