画面構成と幾何学
表現における「構成」の歴史
古代~中世
キリスト教独特の世界観として、「自然界の背後に、あるいはその根本に実際に目に見える世界とは別の、観念的な世界があって、自然の事物はそのより真実で普遍的な観念の目に見える形(表象)に過ぎない」 *3 という基本思想がある。つまりは、神聖なるものは単純な法則で説明できるはずだという意識である。そこで、神性の表現として幾何学が積極的に芸術に応用された。
幾何学によって神性を表現する
黄金比が秘術化する
ルネサンス期
ことに「会計学の父」と称されるパチョーリの「神的比例論」*4 はイタリア語で出版され、それまで秘伝とされてきた黄金比を一般化することに成功した。
ダ・ヴィンチ自身も「絵画論」を著わすなど、幾何学の研究に熱心だった。ただ、ダ・ヴィンチによる数学に関する著述や幾何学図形には黄金比の適用はほとんど見られないという。ダ・ヴィンチにとって黄金比は関心を引くものではなく、むしろ伝統技法に過ぎなかったのだろう。
その後、数秘術を一般化させたことが逆に形骸化を招き、芸術における黄金比の利用は単なる一技術に過ぎなくなってしまう。理由の一つに、遠近法の理論が完成したことにより、遠近法と相性の良い整数比による構図法が流行したことがある。また、秘法として伝えられてきたが故に、古典的、伝統的な技術とされ、否定的に受け止められた感もある。
遠近法が完成している
黄金比が特別ではなくなる
近代
平面構成の意識
セザンヌ
キュビズム
日本の絵画
幾何学図形による構成の取り扱い
北斎、雪舟、若冲など一部の画家を除いて、比例への明確な意識は見てとれない。彼らに共通するのは、狩野派や歌川一門のように伝承技法として絵を描いてないことである。〔……〕ほかの多くの画家にとっては、神に対する意識の違いからか、幾何学が測量術の域を出なかったのではないかと推測する。
平面構成
浮世絵
開国以降、西洋のものが入ってくる
明治以降、西洋写実絵画技術が定着していく段階で日本独特の画面構成法は失われ、しかも、西洋風の比例を基にした構成法は定着しなかった。日本近代絵画においては、比例や幾何学図形を利用した強制的な構成法は自然の再現から離れてしまうという意味で否定されたと考える。画面の組み立て方である「構成」に代わって、「構図」という画面の切り取り方が重視されるようになるのである。
構成の効果と目的
構成を考える際には「何が描かれているか」は考察の対象外で、純粋に色や明暗で区分けされた面の集合があるだけと考える
二等辺三角形は安定して見え、逆三角形は不安定に見える。画面の上半分が明るく、下半分が暗ければ安定して見え、逆は不安感を呼び起こす。こういったことを利用して、画面に安定感や不安定感を作り出すことが出来る。
比例による画面分割や、モチーフそのものの持つ方向性などを組み合わせて画面を構成する技法を幾何学的構成と呼ぶ事とする。幾何学的構成は画面にある種の不自然さを与え、独特の緊張感を作り出すことが出来る。これが幾何学的構成の面白さの第一である。中世キリスト教絵画における独特の緊張感、静謐感はこの幾何学的構成によるものが大きい。
黄金比の性質と利用法
西洋では A+B:A=A:B で表される黄金比は神授比例法とも呼ばれ、完全な調和と見なされていた。黄金比は究極の比例であり、世界が神の作りたまいし完璧な形であるならば、完全な比例である黄金比が利用されているはずだという哲学的思想である。
数学的にユニークな性質を持っていたがため、西欧哲学と結びついた結果、特別視されてきたに過ぎない。黄金比の美しさは正方形や円が視覚的に美しさを持つのとは異なり、目に見えるものではないのである。実際、黄金比を利用して画面構成をした証拠が残っているキュビスム以後の画家たちは、美的観点からというよりも、哲学的、あるいは数学的観点からそれを利用している。
正方形や円の美しさと方向性が異なる