第8回のQ&A

第8回のSlidoから

いわゆる「考察ブログ」などの、明らかにゲームバランス調整のための要素(「ある技を覚えそうなポケモンが覚えない」とか「続編発売にあたって特に説明もなしに新アクションが追加される」)に頑張って理由を求めようとする記事なんかはこのシミュレーションの実践例と考えてよいでしょうか。『空想科学読本』シリーズも似たことをやってますね

A. そうでしょうね。正確には、ゲームメカニクスをシミュレーションとして解釈した場合に生じるF内容に（Fレベルでの）整合性を持たせるということをやっているのだと思います。

色違いのキノコを食べたら死んでしまった→じゃあこれは触れると残機が減るシステムになってるのか→これは毒キノコとしての地位機能を果たしていると見なそう　みたいな事をマリオ2初見時にやったんですが、これはフィクションより先にゲームメカニクスを先に理解したと言って良いですか

A. 最初から色などによって「毒キノコっぽい」と思っていたのでなければ、〈毒キノコ〉というF内容はゲームメカニクスを特定したあとに（シミュレーションの結果として）出てきていますね。

難しめの話（方法論、研究の意義など）

『ぷよぷよ』などを例に挙げられていた「ゲームメカニクスがシミュレーションのためのモデルとして使われない例」について聞いていて考えたのですが、シミュレーションは結局個人の想像力によって決まる主観的なものではないですか。この授業では個別にどう区分できるかではなく理論を理解できるかが肝要ということは分かっているのですが、究極的にはそういう理解であっているか気になります。

★A. おおむねその方向の理解で問題ないです（シミュレーションもまた作品解釈の一種なので）。

シミュレーションの成立の有無やその解釈内容が「主観的に決まる」のかどうかという言い方で問われているのは、おそらく以下のどれかかなと推測します（それぞれに対する回答もつけておきます）。ご自身の疑問に思っていることについて別の言葉で考えてみてください。

A. その通りです。その点で、たとえば物体の動きや人の行動のように外的に観測可能なものではありません。

A. 少なくとも、当のビデオゲーム作品を「適切に」鑑賞するための知識や技術を持ったプレイヤー間では、シミュレーションの成立とその内容はある程度は共有可能でしょうし、実際に共有されていることも多いでしょう（例示に使っているのは基本的にそういうケースです）。もちろん、あらゆるケースがそうだという話ではなく、個別的な事例で解釈の共有が難しい（解釈がばらける）ことはいくらでもあります。

A. 難しいと思います。ビデオゲームにかぎったことではないですが、文化的な事物に対する経験や解釈について、そのための前提を十分に共有している人（当の文化にコミットしている人）とそうでない人とでは、感じることや考えることがたいてい大きく違います。

A. ある種の解釈規範を前提とすれば、正当な解釈とそうでない解釈の区別はつけられます。よくある考え方は、意図主義（＝作者の意図した（あるいは普通に考えて意図したと思われる）内容が正しい）と価値最大化説（＝経験の価値を最大化するような解釈が正しい）です。

A. ビデオゲーム文化と言っても一枚岩ではないのでYes/Noで答えるのは難しいですが、「明らかにおかしい解釈」と「それなりにまっとうな解釈」の違いがあることくらいはおおむね共有されているでしょう。極端な相対主義（何でもあり）も極端な教条主義（この解釈しか正しくない）も、どちらも目立ってあるわけではないと思います（ほかの文化と比べれば、どちらかと言えば相対主義よりのカルチャーだとは思いますが）。これは社会調査によってある程度明らかになる話です。

A. ないです。仮にそのような何かがあることを期待している人がいるなら、作品解釈（あるいはより広く作品鑑賞）という営みについて何か根本的な思い違いがあるのではないかと思います。

ビデオゲームのへんてこな現象の例としていくつか挙げられていましたが、「現実と照らし合わせて不合理な部分」ではなく、「ビデオゲームだということを考えてもおかしい部分」という意味で合っていますか。また、へんてこな現象について説明することの意義は何でしょうか。

★A. 前半はその理解でよいです。後半はクリティカルな疑問ですね。いくつかの答え方があるので並べます。

a. 内在的な意義

へんてこ現象を説明することは、それ自体として（おそらく多くのビデオゲーム好きにとって）興味深い。それゆえ端的に意義がある。

b. 日常的・批評的な言説の文脈との接続

ビデオゲーム文化のコミュニティの中で、へんてこ現象はしばしばネガティブな価値づけとともに言及され、それをめぐっていろいろな考察がなされてきた。そうした現象を考えるためのフレームワークを提示することは、そうした考察を手助けすると同時に、そうした考察の実践そのもの（プレイヤーたちは何を不満に思って何をどのように論じているのか）を理解することにも寄与する。それゆえ、へんてこ現象の説明は、文化的な実践の理解を深めるという点で意義がある。

c. 研究の文脈との接続

へんてこ現象は、ゲーム研究の中でしばしば問題として取り上げられる（『ハーフリアル』の「非整合的な世界」の議論など）。先行研究が取り上げている問題を継承して議論を発展させることは、当然ながら研究上の意義がある。

d. ナラデハの解明

へんてこ現象は、ビデオゲームに特有の現象であり、しかもビデオゲームらしさがとりわけはっきり現れ出ている現象でもある。それゆえ、へんてこ現象が経験される構造を明らかにすることは、ビデオゲームという表現媒体の特殊性（ならでは）の一端を解明するという点で意義がある。

e. その他の表現媒体への応用可能性

ここで問題になっているタイプのへんてこ現象は、それ自体はビデオゲームに特有かもしれない。しかし、その現象を説明するためのフレームワークは、他のさまざまな表現媒体における似た現象を説明するのに役立つ可能性がある。つまり、ビデオゲームにおけるへんてこ現象を説明するためのフレームワークは、さらなる応用可能性を持つという点での意義がある。

f. 開発への寄与

へんてこ現象は、一般にネガティブにとらえられており、それゆえビデオゲーム開発者もそれが生じるのを避けようとさまざまな工夫をしてきた。へんてこ現象が経験される構造を明らかにすることは、それを解消するための手段についてのアイデアを提供できる可能性がある。つまり、ビデオゲーム開発にとって役立つ知見になりえる。

個人的には、実質的な意義として感じるのはaとdとeです。こういうのは基本的にレトリックでしかないので、「研究の意義」が求められる場面に応じて適当に使い分けすることになりますね。cがあればそれ以上文句をつけられないことが多いです（だからこそ「先行研究を引きなさい」としばしば言われるわけですが、たんに文献を引くだけではだめで、自分の議論を既存の研究の文脈に位置づけることが大事です）。卒論を書くとき（意義を問われやすい場面）などに参考にしてください。

シミュレーションについての話が難しかったです。現実世界では不自然なことがゲームの世界では当たり前と受け止められている、その差においてシミュレーションの成立が確認できるという解釈であっていますか？

この先どんどん技術が発達していって、グラフィックとメカニクスの差が無くなるゲーム（例えば高精度なVRなど）が登場したとしてもシュミレーションは成立していると言えるのでしょうか？

前半の疑問については少し違います。差があるからシミュレーションが成立するということではなく、シミュレーションは成立しているのだが（プレイヤーもそれをわかっているはずなのだが）差があまりないとシミュレーションが成立していることを明確に意識しづらいということです。後半の疑問についてもおおむねYesです。本当にいかなる差もまったくなくなる場合はもはやシミュレーションはないと言ってもいいかもしれませんが（言い換えれば、表象ではなく現実そのものになるかもしれませんが）、そのときには「VR」なる概念もなくなっているでしょうね。

疑問のポイントは、「シミュレーションが認知的なプロセスだということなら、それが意識されないようになればもはやそのプロセスは生じていないのも同然では」ということかと思われますが、ある主体のうちに認知的なプロセスが生じているかどうかと、その人がそのプロセスを明確に意識しているかどうか（それに注意を向けているかどうか）は区別できる事柄です。このへんは認知科学（認知心理学や知覚の哲学）でよく出てくる話です。

参考：

「ビデオゲームあるあるのヘンテコ現象を説明する」とだけ聞くと、「なぜヘンテコ現象が生じるのか」というゲーム仕様に関する問を記号の理論を通して説明するのかなと漠然と想像していたが、講義を受けた後は「なぜプレイヤーはその現象をへんてこだと思うのか」というプレイヤー主体の問に対する説明なんだなと理解した。

A. 「説明」の説明をちゃんとしてなかったですが、おおむねそういうことです。「因果的説明（causal explanation）」ではなく「構成的説明（constitutive explanation）」と言います。

類比的推論／シミュレーション関係

シミュレーションについてもプレイヤー視点での受け取り方という解釈で良いのでしょうか。直感的には、原発の例で言うと「ゲームに〇〇という性質を持つ発電所を登場させたい…これを原発と見立てよう」というように製作者側の視点であって、プレイヤー側としては名前や説明(記号)から内容を想像するという類のものなのではと思ってしまいます

授業中にslidoに投稿した内容とほぼ同じものですが、シミュレーションの働きについて少し疑問があります。

授業中では原子力発電所が例に出されて上記の働きが説明されていましたが、これがなされるのは大抵開発段階であり、プレイヤーがゲームを遊ぶ際に行うのは原子力発電所のグラフィックやテキストなどのG内容からF内容を推定するという類比的推論だと考えます。

これについて、プレイヤーがゲームにおいてシミュレーションを行う状況というのがなかなか想像できませんでした。ステータスから隠された設定や先の展開を想像することがシミュレーションの例になるのでしょうか。また、それが誤りだった（空想に過ぎなかった）場合にはどのような扱いになるのでしょうか。

★AA. ポイントがよくわかってないのですが、開発者は普通その見立て（しばしばご都合主義的なものではあれ）がプレイヤーにも伝わることを意図しているのではないでしょうか。ゲームデザインの過程では、ゲームメカニクス上の都合が先行していて、それにどういうF内容を割り当てるかがあとから決められることがしばしばあるという話であればその通りですが（もちろんつねにその順番になるわけでもないですが）、その話とプレイヤーの認識においてシミュレーションが生じるか否かという話のつながりがわかりません。

「隠された設定や先の展開を想像〔予測の意味でとります〕すること」はいま問題にしている意味でのシミュレーションではないです（類比的推論でもありません）。それは、たんにいまのところ伏せられているG内容（あるいはF内容）を予想するくらいのことだと思います。

そもそも抽象的なゲームメカニクスについてプレイヤーは認識していないだろうという趣旨の疑問であれば、2つ上の回答で書いたように、「明確に自覚していないとしても認知プロセスのうちにそれが含まれていると言っていいはずだ」とお答えすることになりますね。あまり比喩を使いたくはないのですが、たとえば算数の設問で具体的な状況が描かれるケース（「1ついくらのりんごが何個でどうの」「太郎くんは時速何キロでどうの」みたいなやつ）は似た話になると思います。問題文があらわしている具体的な状況がF内容に相当し、計算式やそれが表現する抽象的な数学的構造がゲームメカニクスに相当します。意識的にであれ無意識的にであれ、その抽象的な構造を何か具体的な対象や状況に見立てているのであれば（普通それは問題文が示す状況でしょうが、それ以外の状況の場合もあるかもしれません）、それがシミュレーションということになります。

あるいは算数の設問を解く場面ではなく、たんに日常生活で何らかの意味での抽象的な思考（たとえばおつりの金額を暗算するとか、路線図を見て電車の乗り継ぎを把握するとか、何かを分類するとか）をする場面でもかまいません。その際に、数学的構造を明確に意識することはないとしても（たとえばそれを式で表現したり脳内でイメージすることはないとしても）、〈数〉や〈減算〉や〈ノード／リンク〉や〈集合／要素〉といった抽象物が認知プロセスに含まれており、それをもとにして具体的な状況についての理解や判断をしているということには、とくに異論の余地がないと思います。シミュレーションという概念で言いたいのは、ビデオゲームのプレイでもそれに近いことが起きているのではないかということです。おつり計算などの場合は現実の状況を再現するシミュレーションですが、それがフィクション（＝虚構世界を想像させる道具）としての働きに置き換わったものがビデオゲームのシミュレーションです。

ちなみに、算数の設問における問題文と数学的構造の関係より、ビデオゲームにおけるFとGの関係のほうがはるかにゆるくて恣意的（何とでもなる）ですが、これはたんに制度上の制約の強さの問題だと思われます。算数の設問の場合は具体から抽象を一意に引き出せないと問題文として求められる機能を果たせませんが、ビデオゲームの場合はあやふやな類推や試行錯誤をしながらFから隠れたGを特定していくというプロセスが受け手に十分許容されているということです。

シムシティの原発が、G内容からF内容を想像する例としてシミュレーションが挙げられていたのがぴんときていなかったのは、われわれは原発というものを知っているので、F内容を見たときに、容易にそのG内容が分かってしまうように思えたからである。しかし、そのF内容のグラフィックが原発それとしてわからない状態から、そのシステムの理解（G内容の理解）を先にして、このシステムがこのアイコン（F内容）に触れるなりしたら使える、というような順番であるならば、しっくり理解できると思った。

A. 的確なコメントですね。少なくともモダンなビデオゲーム作品のプレイにおいて自覚される経験としては、ふつう前半部分に書かれているようになると思います（というのも、プレイヤーにそういう経験をしてもらうためにデザインされているので）。ただ、その場合も後半部分のような認知プロセスが（ほとんど意識されないかたちではあれ）生じているはずというのがシミュレーションという概念のポイントです。

ただ、G内容とF内容を得る径路が複数あるということは了解できるものの、まだ完全に消化できている訳でもない(他の方も幾つか質問なさっており、何度も説明を聞いているのにまだ理解し切れていないのは申し訳ないが)。たとえば、シミュレーションはG内容からF内容が導かれる展開を見せるということだが、この箇所がまだやや分かりづらい。やはり、完全にG内容しか示さないものを除けばF内容の方が先行するのではないだろうか、などと考えてしまう。そうすると、シミュレーションとは、寧ろ、F内容が即ちG内容を示している場合を指すということなのではないかとも思われてくる。つまり、G内容を媒介にしてF内容を想像しているというよりも、G内容とF内容が一致したものとしてプレイヤーに受け取られるということである。

試みに考えてみると、F内容とG内容のビデオゲーム画面上における関係性は、①F内容のみのもの(G内容に全く関わらないもの)、②F内容でありG内容でもあるもの(類比的推論の対象になるものはこれに該当する。「重ね合わせ」がこれ)・③G内容であるF内容(シミュレーションに該当すると考えられるもの)、④G内容のみのもの(F内容に全く関わらないもの)、というように考えた方が(少なくとも自分にとっては)分かりやすい気もする。

繰り返しになるが、②と③はF内容とG内容の対応度(内容間の距離)で区分できるのではないか。つまり、②は「F内容でありながら、そのF内容故にG内容を示すもの」(F内容がG内容でもあるもの)であり、③は「G内容を説明するF内容」(F内容がG内容そのものであるもの)ということである。③がF内容に即したG内容を説明するものである以上、「新しい架空の世界を作り出す」為の説明とも言えるので、この点もシミュレーションと同じであろう。確かに、関係性から言えば、③はG内容を指示するものとして機能しているから、G内容からF内容というように辿れそうなのだが、どうも納得できない。「見立て」という行為をプレイヤーが行っていると考えるよりも、プレイヤーはG内容をF内容として受け取っていると考えた方が良いのではないか。

こうした考えを持ったものの、あまり自信はない。もしかすると、こちらの理解不足で、そもそも、こういったことを言っておられたのかもしれない(或は、全然違うかもしれない)。「見立て」というのがなかなかピンとこないのも、やはりモダンなゲームに慣れすぎているからなのだろうか。どうしても、画面上においてはG内容を直接示すものよりもF内容を示すものの方が多いと思われるので、ついついプレイヤーはF内容を出発点として記号を捉えているはずだと思ってしまう。この先入観がいけないのかもしれない。

また、例として挙がっていたStar Trekの場合は、虚構世界を規定するG内容が多く、記号としてF内容を示す要素が極端に少ない様に思え、G内容とF内容の関わりがいまひとつ分かりにくかった。そもそも、テキストベースのビデオゲームの場合、虚構世界というものは著しくプレイヤーの想像に依るもののはずで、画面上に記号として示されて誰でも受け取れるようなものではない気がする。

透明な壁などの現象にさして違和感を抱かないので、自分はG内容本意なのだろうか。そもそも、あまりビデオゲームの虚構世界のみを想像するということがないので、違和感というのがあまり実感できない。

A. 前半について：プレイヤーの自覚される経験としてはそうなる傾向にあるだろうというのは上記の通りです。また、プレイヤーの自覚上どうであるかとは別の話として、シミュレーションが生じる場合に（直接的な）F内容の特定がG内容の特定よりも先行していてかまいませんし、実際多くのケースではそうなります。「ラベル（＝何と見立てるべきかの指定）」という概念はそういう順序を拾うためのものです。加えて、シミュレーションの土台になるG内容の特定が、たとえばF内容を介した類比的推論によってなされていてもかまいません（それ以外の経路もあることについてはスライドp.26の通りです）。図の描き方が悪いのかもしれませんが、「シミュレーションが生じる際には、つねにG内容の特定がF内容の特定に時間的・論理的に先行している」といった主張は一切していません。

ついでに「G内容からF内容が導かれる展開を見せる」という言い方はしていません。言っているのは「G内容をF内容として見立てる」「G内容をもとにF内容を想像する」などです。加えて、十分に説明していないので仕方ないのですが、「重ね合わせ」と「類比的推論」も別々の概念なので注意してください。

後半について：ご提案の理論は興味深いです。そうしたほうが説得力や説明力があるかもしれません。ただ一般論として、先行理論に不十分さを感じてオルタナティブな理論を作ろうとするのは大変よいことですが、まずは先行理論の諸概念を十分に理解するという意識を持つことが大事です。哲学に代表される人文学の理論志向の研究は、先行研究の綿密な読解とそれにもとづく的を絞った批判（これこれの点で明確な不備があるという指摘）こそがもっとも重視される領域なので。

Ｇ内容の特定方法について類比的推論による特定と、慣習についての知識による特定の違いについて、程度の問題であるということはわかりました。ビデオゲーム文化内の慣習と文化外の慣習の判別は、ビデオゲームをプレイしたことが無い人にさせてみると判別できるということですが、ビデオゲームをプレイしたことが無い人が例えばマリオをプレイすると、どれがF内容でどれがG内容なのかを判別できないけれど、ビデオゲームをプレイしたことがある人にはある程度判別できます。しかし、現実世界に土管の中に入ると別の場所に行くという慣習はないため、これはビデオゲーム文化内の慣習に基づいているということでしょうか。これはビデオゲーム文化内の類比的推論とは言えないのですか？マリオの他にも、ある場所にワープするというG内容のグラフィックを持つゲームが存在すると思うので、それらを単なるビデオゲーム文化内の慣習から、F内容による類比的推論に格上げすることはあり得ないのでしょうか？

ビデオゲーム文化外的な知識にもとづく類比的推論

ビデオゲーム文化内的な知識にもとづく類比的推論

ビデオゲーム文化内的な取り決め・慣習による記号作用

書いていて思いましたが、加えて「ビデオゲーム文化外的な取り決め・慣習による記号作用」もありそうですね。いずれにしても明確な境界線があるわけではないとは思いますが。

透明な壁のような不自然な現象には、F内容、G内容それぞれをベースにした説明がある。F内容をベースにした説明では、グラフィックとG内容によって確かめられるF内容が相反しているためプレイヤーは整合性のない世界を受け入れるか不自然な解釈をするかの選択を迫られることになる。一方、G内容をベースにした説明では、類比的推論と、実際のインタラクションから相反するG内容が得られ、実際のインタラクションから得たG内容を正しいと考えてプレイを続けることになり、ジレンマは生じにくい。実際のプレイヤーがF内容かG内容のどちらを重視するかで不自然な現象に対して抱く印象が変わってくる、ということが分かった。

その中で、「インタラクション」という言葉がG内容の特定、という文脈の中でしか出てこないのがなぜなのか気になった。

不自然さ関係

ビデオゲームにおける不自然さを説明するにおいて、Gベースの説明は理解できたがFベースにおいては、一方で、G内容によって（つまりシミュレーションを通して）〈そこには壁がない〉というF内容が間接的にあらわされる。という一文の理解ができなかった。

『一方で、G内容によって（つまりシミュレーションを通して）〈そこには壁がない〉というF内容が間接的にあらわされる。』と33枚目のスライドに書いてあったが、G内容によって導き出されるのは〈見えない壁がそこにある〉ということではないのかと疑問に思った。だからこそ、グラフィックによって直接的に表される「そこには壁がない」という認識との不整合性が生まれるのではないか。

AA. 誤記でした。「〈そこには壁がある〉」に修正しました。

一方、F内容ベースで考えてみると、グラフィックによって「壁がない」というF内容が直接的に表される。一方で、G内容によって（シミュレーションを通して）「壁がない」F内容が間接的に表される。（スライド抜粋）ここまでは理解できたのですが、その次の、二つの経路から得られる…の二つの経路がよくわかりませんでした。直接的な経路と間接的な経路の二通りなのかなと思ったのですが…。

A. 2つの経路はご理解の通りです。おそらく上記の誤記のせいで「2つの経路から得られるF内容が互いに相反しており」の意味がわからなかったということかと思います。

まず、「グラフィックによって〈そこには壁がない〉というF内容が直接的にあらわされる」、という部分は理解していますし、それはおそらくその通りだと思います。強いて言うなら〈そこには壁がない（ように見える）〉くらいでしょうか。

しかし、「G内容によって（つまりシミュレーションを通して）〈そこには壁がない〉というF内容が間接的にあらわされる。」ということの意味からまず分からなくなりました。その下に「２つの経路から得られるF内容が互いに相反しており」とあったからです。F内容は上でも下でも〈そこには壁がない〉と書いてあるじゃないか、と思って意味が分からなくなりました。ただ先生の説明を聞く限り、F内容が「間接的に」あらわされるというのは、要するに結果として「壁はないけどここから先には進めない」みたいなゲームメカニクスをその世界のあり方として想像するので、それがF内容として〈そこには壁がない〉というF内容に相反している、という意味なのかなというふうに解釈しました。これでこの部分は大丈夫でしょうか。

A. 上記の通り誤記なので深読み不要です。すみません。後半の解釈であっています。

透明な壁の説明に関して、F内容ベースとG内容ベースの説明の違いがよくわかりませんでした。グラフィックを見て「ここには壁がないから通れるんだな」と思うことと、F内容を通じた類比的推論によって「そこは通れる」と推測することが同じことのように思えてしまったのですが、どこに違いがあるのでしょうか。

A. 「グラフィックを見て「ここには壁がないから通れるんだな」」というのは類比的推論なので、それは同じですね。正確に書けば、「グラフィック→F内容〈壁がない〉→G内容〈通れる〉」というプロセスです。F内容ベースであろうがG内容ベースであろうが同じ現象の説明なので大差はないのですが、FとGのどちらの水準での不整合に焦点があるかがプレイヤーの関心によって変わってくる（結果としてその不整合の気になる度も変わってくる）ということです。

「透明な壁」についてF内容ベースとG内容ベースの側面から分析があり、どちらが正しいとかの話ではないとは思うのですが、個人的にはG内容ベースの説明が納得できるように思いました。「ヘンテコ」な現象を認識するとき、プレイヤーには大まかに２通りの認識過程があって、どちらの過程を辿るかは個人によって異なるという感じでしょうか。この場合、その差は個々人のプレイ経験などの要因によって生まれているのでしょうか。

A. はい、2通りの認知プロセスが考えられるということです。正確には、説明を2通り考えてみました、それぞれに当てはまる経験は誰しもあるでしょう、という感じです。実際にはひとりのプレイヤーの中で両方が同時に起きていることもあると思います。ビデオゲームに何を期待しているかという好みの違いが大きそうですが、ビデオゲームのプレイ経験の差による反応の違いもそれなりにあるでしょうね。ハードコアゲーマーのほうがフィクション面を無視しがちという話はあります。

これまで、不自然な現象とはF内容とG内容との食い違いによって説明できる、との話が展開されてきましたが、「透明な壁」の例を見るに、不自然な現象が起こるのは、つまりゲーム中である現象が不自然であるとされるのは「類比的推論」と「シミュレーション」という相互関係がＦ内容とＧ内容の間にあるからであると理解してのいいのでしょうか。

通常のゲームプレイでは、Ｆ内容とシミュレーション結果のＦ内容、もしくはＧ内容と類比的推論の結果のＧ内容は一致するように作られているが、それらが一致しないときに不自然な現象が起こるのだ、と考えています。

要するに、不自然な現象を説明するには、画面の記号に二つの意味内容（ＦとＧ）が含まれている、とするだけでは不充分で、その意味内容の間にも相互に意味関係があることを導入することが必要であるということでいいのか、という質問です。

A. そういうことです。「食い違い」や「不整合」というからには同じ水準での比較であったほうが話がすっきりするので、F内容とG内容の比較として説明するよりは、F内容同士かG内容同士の比較として説明すべき、という考えが背後にあります。

ある程度ビデオゲームをプレイしていると、ここの木は登れないだとか、このドアは入れない、など直観的に理解することが出来ると思います。そのような時、G内容をベースに考えると、

ーF内容による類比的推論から「このドアは入れる」と推測し、インタラクションによる実際のG内容と矛盾を起こさないー

となると思うのですが、F内容をベースに考えると、

ーグラフィックによって「ここに入れないドアがある」というF内容を理解し、インタラクションによる実際のF内容と矛盾を起こさないー

という風になるのでしょうか。それともドアのグラフィックは「ここに入れるドアがある」というF内容しか導かないのでしょうか。

A. どういう事例を想定されているのかわからないのですが、〈入れないドア〉のケースでしょうか。〈入れないドア〉のケースなら、どちらベースの説明でも不整合は生じます。そのうえで、F内容ベースだと不整合の解消が難しいが、G内容ベースだと不整合の解消がわりと簡単という話です。あるいは、それがG内容上〈入れない〉ものであることが自明のようにわかっているプレイヤーにとってどう見えるかという話でしょうか。その場合は、不自然さがそもそも生じていない（慣習その他によってG内容を自明のように特定している）というケースなので、今回の話題の範囲外です。またそういうプレイヤーであっても、意識的にF内容に注意を向ければ（慣れたプレイヤーほどF内容を無視しがちです）不自然さが生じることになると思います。

第一回目の講義で説明されていたゲーム内に置ける不可解な部分についての説明。不可解に思う原因として、グラフィックによるフィクション内容と、ゲームメカニクスによるフィクション内容（実際のインタラクション）に

・何らかの齟齬があった

・プレイヤーが受け取りにくい部分があった

からである、と理解して大丈夫でしょうか。

A. 今回の説明が当てはまるケースはそれなりに多いと思いますが、不自然な現象にはいろいろな種類があると思うので、必ずしも今回のようなかたちですべてを説明できると考えないほうがよいです。一連の認知プロセスのどこかに引っかかりがありさえすれば違和感は生じるはずで、その引っかかりがどこでどのように生じるかはいろいろバリエーションが考えられるということです。

ただ、果たしてこのF内容ベースの説明は本当にできるのかどうか…ということに関して、自分は疑問を持っています。

ざっくり言うと、そもそも、「何もないように見える＝見えていることはすべて真実で、世界が遮蔽物なしに続いている」というふうに思っていること自体が先入観、勘違いなのではないか、みたいなことです。先に先入観によってF内容を勝手に規定してしまっているのではないか、という言い方もできるかもしれません。

現実世界で考えてみると、たとえば先に進めると思って透明な、何も貼られたりしていない全面ガラスにぶち当たる人がいると思います。多くぶつかる場合にはその人が単なるおっちょこちょいな可能性もあるでしょうが、素でぶつかってしまった経験がある、という人も意外といるだろうと思います。泥棒が逃げるときにガラスにぶち当たって御用となるみたいなケースも割と見るような気もします。これは「何もないように見えるから先に進める」という先入観の例と言えるはずです。

あるいはもっと別に、ピカピカに磨き上げられたショーウィンドーに鳥がぶつかってケガをしたり脳震盪を起こしたりするのも同じことではないでしょうか。（数年前に銀座かどこかで問題になった気がしますが…）

G内容ベースでの説明はできると思います。透明であって世界が続いているように見えるので、そこは恐らく通れるだろうというG内容が推測できる、しかしゲームプレイ上実際にやってみるとどうやら通れないというG内容が確かめられる、というのは先ほどの例を使うと「飛んでいる鳥としてはこれまで飛んできた場所と同じく世界の先がクリアに見えているので『行けるはずだ！』と思って（G内容の推測）、スピードを緩めずに飛んでいく、しかし物理的に跳ね返されて通れない（ゲームプレイ上やってみるとどうやらできないというG内容の確認）」というのと同じことだと言えるでしょう。

「不自然さの説明」について、G内容ベースでジレンマがなく説明できるのは、理解できたが、F内容ベースでの説明でもシミュレーションによって得られたF内容を選択して、グラフィック等で直接しめされたF内容は間違ったフィクションとして棄却すれば説明がつくのではないか？と思った。

A. おっしゃる通りですが、F内容ベースのプレイヤーの多くは直接的なF内容を棄却しづらいだろうという話です。たとえばRPGなどについて「昔のドット絵のほうが（なんならテキストだけのほうが）想像力の余地があってよかった」という定型化された言説が昔からありますが（個人的には別の言い方をしたほうがよいと思いますが）、その手の物言いをする人がおそらく言おうとしていることのひとつは、「グラフィックによる直接的なF内容の密度を上げれば上げるほど、シミュレーションによる間接的なF内容との乖離が大きくなって不自然さが増すので、よろしくない」ということだと思います。直接的なF内容を楽に棄却できるなら、こういう考えは出てこないでしょうね。

透明な壁の説明の部分で、実際にトライしてみて通れないことが確かめられることで、通れるかもしれないと推測したG内容が棄却されるというのは理解できた。F内容ベースの説明も実際に目で見える「そこには壁がない」という判断と、トライすることで明らかになる「そこには壁がある」という事実の矛盾は理解できたが、不整合な世界を受け入れるか、不自然な解釈を受け入れるかというのはどちらかに偏りが見られるのか少し気になった。（私は無意識的ではあるが不整合な世界を受け入れてる気がします…。）

A. 普通のプレイヤーはそこまで考えないでしょうから、そっちのほうが多いのはそうでしょうね。こじつけによって整合的に解釈しようとするのは、昔から2ちゃんなどでネタ半分にされてきたことなので、まじめにそれをしようという人はあまりいないかもしれません。

ゲームにおける不自然な現象について、F内容を重視するプレイヤーにとっては不整合な世界を受け入れるかアクロバティックな解釈を受け入れるしかないとのことだったが、実際のところプレイしている人は割と「そういうもん」とか「大人の事情だから」のような形で折り合いをつけているように思う。それが不整合の世界を受け入れているとは言えないように個人的には思った。

疑問点：透明な壁の現象に対して、F内容をベースにする説明とG内容をベースにする説明が可能であることは理解できたが、他の不自然な現象について同じような説明の仕方でどのように説明するのかわからなかった。特に、マリオの命についてどのように説明されるのであろうか。

ビデオゲームの透明な壁現象についての説明を理解することができた。同じように開かないドアやマリオの命も考えることができるということであった。前者はG内容ベースであれば、ドアのグラフィックというF内容から類比的推論によって生まれる＜開けられる＞というG内容と、インタラクションによって得られる＜開けられない＞というG内容との齟齬で説明できるはずである。しかしながら、マリオの命をこれでどう説明できるのかがよく分からなかった。G内容ベースであれば、ゲームメカニクスとしての＜３機＞というG内容はわかるが、それと齟齬を生む別系統のG内容が分からなかった。

透明な壁に関するF内容ベースの説明とG内容ベースの説明について、マリオの命にも似たような説明ができるとのことだったが、F内容ベースの説明に関して、直接的にマリオの命が一つである/不死身ではない、と表すものは、何かあるのでしょうか。常識的に考えてそのほうが自然だと考えるのが適切でしょうか。

また、今回の授業で気になったのが、へんてこ現象の中のマリオの命を透明な壁と同様に説明するとどうなるのかである。この場合におけるF内容とG内容はそれぞれ何なのかがよく分からないので、教えていただきたい。

「透明な壁」についてのこの説明は分かりやすく納得したのだが、マリオの命問題にはこの説明がどう当てはまるのか理解できた自信があまりない。たとえばF内容ベースの説明だと、グラフィックで「マリオは1人」というF内容が直接的に表されるが、一度死んだ後3回までは復活できるというG内容からのシミュレーションで「3人分の命がある」というF内容が理解される、ということだろうか。

★AAAAAA. 以下のコメントで答えてくれています。

今回の「透明な壁」という例を踏まえてマリオの命が複数個あることをF内容のあり方に注目する説明とG内容のあり方に注目する説明の２つの観点から考えてみたのですが、これで合っていますでしょうか？

① F内容ベース

a.グラフィック（マリオを表したものが画面上に1人いる）によって「マリオの命は1つである」というF内容が直接的にあらわされる。

b.マリオ×5の表示や落ちる・敵に当たって死ぬといった試行錯誤によって分かるG内容を通して「マリオの命は複数個ある」というF内容が間接的にあらわされる。

上記a、bで得られるF内容が互いに相反しており、虚構世界のあり方に整合性がない。

② G内容ベース

a. F内容を通じた類比的推論（マリオを表す絵が画面上に１つある→マリオの命は１つである）によって、「マリオの命は１つである」というG内容が推測される。

b.ゲームプレイ上の実際の試行錯誤（死ぬという行為で生き返れることに気づく）によって、「マリオの命は複数個ある」というG内容が確かめられる。

上記a、bで得られるG内容は互いに相反しているが、しかし、G内容として正しいのはaであり、bで得られるG内容は棄却される。F内容ベースの観点ではa、bどちらかを棄却することはできない。

★A. まさにそういう感じの説明を考えていました。

このような説明がマリオの命に関しても同様になせるとあったので、実際に考えてみる。G内容に基づけば、当然マリオの命は複数あるという説明ができると思われる。一方でF内容に基づいた場合、マリオが配管工を職業とするひとりの人間だとすれば、その命は1つであるはずだが、プレイする中でマリオは何度も生き返っており、その命が複数あるとも捉えられる。この状況に整合性をもたせようとするなら、ひとつには、マリオは何度も復活できる特殊な人間であるという説明が可能である。この設定は少々奇妙ではあるが、マリオシリーズの世界観を考慮すれば、そこまで不自然な解釈ではないようにも感じられ、「透明の壁」の場合ほどのジレンマは生まれないのかもしれないと考えた。

A. それでもかなり奇妙ではあると思いますが、マリオシリーズのようなフィクションの整合性にそこまで重きを置いていないジャンルの場合は、ジレンマの程度が低いということは言えると思います。

シミュレーションによるF内容とグラフィックのずれとしてGTAにおける車の強盗が例に出ていたがこれはG内容から考えるとF内容はより簡素であることが妥当だが、実際にグラフィックで示されるF内容はかなり複雑であるという点で「ずれ」が生じているという理解で正しいでしょうか。

A. その通りです。なので、正確には「ずれ」というより「密度の違い」と言ったほうがよかったかもしれません。一般化すると、歪曲（distortion）のケースというよりは単純化（simplification）のケースということですが、この区別は深く考えるとけっこうあやふやではあります（絵のデフォルメの話でも同じことが言えます）。

最近気づいたビデオゲームの不自然さについて今日の講義を通して理解が深まった。キャラクターの衣服や防具を変えられるビデオゲーム作品において装備を何も身につけていないと、キャラクターは下着や全裸で描写される場合がある。通常ならそのような格好でパーティーの仲間などに会うと非常事態が起こりそうなものだが、ゲーム内では服装の違いには特に言及されない。この事例からは、作品中の衣服は防御力や攻撃力といったパラメータ上の処理とプレイヤーからみたキャラクターのビジュアルのみが変化するという役割のみで、現実世界からの類比から想定されるような衣服の意味合い（自己表現、身分の表示など）という役割はもたない、というG内容ベースの記号の解釈を私は無意識のうちに行なっていたことがわかった。F内容ベースで考えるならば、描写上ではキャラクターは服を着ていないが虚構世界内では服装の異常性に誰も気がつかないので、プレイヤーには透明に見えるが虚構世界内の他のキャラクターには服を着ているように見えるとか、全裸もファッションの一部として認められているといった解釈をせざるを得ないといったところだろうか。

A. いい例ですね。

今回の授業をうけて、メタ視点を取り入れているゲームはビデオゲーム内の奇妙さをF内容視点からうまく解釈しようとした結果なのではないかと感じた。（例えばUNDERTALEなど、虚構世界自体がビデオゲームであるという設定であればビデオゲーム特有の奇妙さが虚構世界に存在するとしても受け入れられるのではないだろうか。）

マリオの命やドラクエの人口などとは違って、個人的に「透明な壁」のもつ異質な感触が圧倒的です(特に普通に通れないタイプ)。G内容ベースの説明をさらに見ていくと、「類比的推論によって推測されたG内容」を「棄却」することは、すなわち視覚に裏付けられてきた普遍的な身体性の機能停止を認めることになると思いました。とはいえそのこと自体が中性的で、ゲームの作り方によっては興味深いものになると思いました。

A. 不自然な表現の許容可能性にも程度差があるという観点は面白いですね。たしかに見えない壁は、たんなるF内容上の不整合以上に、知覚上の受け入れがたさがあるのかもしれません。

G内容がF内容を表すシミュレーションの例で、シムシティの原子力発電所の場合は、現実の原子力発電所とゲーム内の原子力発電所を同一視するから混乱が起きるのでしょうか。「水と技術者がいれば稼働する、現実世界の原子力発電所に似ていが異なる、シムシティの世界における『原子力発電所』」とプレイヤーが解釈するということですかね。グラフィックやテキストがふつうそれ単独ですでにF内容を持ってるという話でしたが、ならシムシティの原子力の場合「これが原子力発電所か。あれ、でもプレイしてみて分かったけど水と技術者さえいればこの原子力発電所は稼働するぞ。なるほどシムシティ世界の原子力発電所はこういうものなのか」という風にF→G→Fという流れになるのかなとも感じました。

★A. ややこしいかつ本質的な話なので別ページで説明します。

その他

透明な壁は三次元的なオープンワールド固有の現象のように思われるが、ドット絵の二次元的な空間でも透明な壁が存在した事例があるのかが気になった。

A. F内容上何もないところがG内容上通れないということは昔から普通にありますが（バグではなく仕様として）、それが不自然だとして明確に問題視されるようになったのは3D以降かもしれません。透明な壁と同じ働きを持つご都合主義的な障壁（低い柵、寝ている酔っ払い、飛び越えられそうな穴、何かあってもどいてくれない門番、etc.）が不自然だと言われることは昔からそこそこあった気もします。

UIと抽象的システムが存在しないビデオゲームは思いつかなかったのですが、そのようなビデオゲームは存在しない、という理解で正しいでしょうか？

A. ここでは定義論（＝外延の確定）をやっているわけではないので、「Pを満たさないXはない（＝Xの必要条件）」みたいなことは考えていません。ビデオゲームの定義論をする場合は、「UI」や「抽象的システム」といった概念はポイントがずれるので使わないほうがよいと思います。「ビデオゲームはすべて広義のコンピュータを使うものなので、必然的に（ある意味における）UIや抽象的システムがくっついてくる」くらいのことは言えますが、とくに情報量のある主張ではないです。

G内容の特定方法に関して、ルールブックやゲーム上で明記されていることと、慣習についての知識は、過去と比べて現在では後者の方が多くなっているのでしょうか。また、検索すると攻略サイトなどからＧ内容が分かることから、この例もＧ内容の特定方法に含まれるのでしょうか。

A. 近年のビデオゲームは、ルールブックのかわりにチュートリアルでG内容を把握させる傾向にあります。ただチュートリアルは試行錯誤による把握の性格が強く、慣習についての知識による把握の面はあまりありません。慣習についての知識ベースでG内容を把握するのは基本的に慣れたゲーマーなので、その知識に頼るようなゲームデザインは（少なくとも多くの人にプレイされることを想定している大作の場合は）むしろ忌避される傾向にあります。攻略サイト（一般化すれば伝聞）によるG内容の把握は、特定方法のリストに加えてもよかったですね。

類比的推論の多いゲームは元の予備知識が必要でないため子供向けのゲームに多いのかもしれないと感じました。

A. そうかもしれません。子ども向けかどうかにかかわらず、カジュアルゲーマー（ライト層）向けはそういうふうに作ったほうがよいという話はよくあります。

グラフィックによって表されるF内容とG内容によって表されるF内容を不一致させることによってシステム上の辻褄合わせをすることはあると思われますが（例えば見えない壁によってダンジョンのルート制限をして難易度を調整するなど）、そのような場合に、より現実から離れたファンタジックな舞台設定にした方が虚構世界の整合性を保ちやすいということはやはりあるのでしょうか。D＆Dの時代から時間の経った現代でもビデオゲームの世界観としてファンタジックなものが多いのは、ビデオゲームの慣例という理由以外に開発側の融通の利きやすさという理由もあったりするのでしょうか。

A. 前半の疑問については普通にあると思います。G内容が先に決まって、そのあとでそれに即したF内容（世界設定も含む）が決められるというのはよくある話です（ビデオゲームはそこまででもないかもしれませんが、ボードゲームは大半がそうです）。

ぷよぷよが本来「魔導物語」というゲーム作品のスピンオフだという話があったが、本来別のゲームのスピンオフやミニゲームだったものが、本来のストーリーの要素と切り離された場合、そのゲームがどのような立ち位置になるのかが気になった。ぷよぷよほどメジャーになれば、もともと別のゲームのスピンオフであったという文脈を知らない人も多いだろうし、そうした際に背景を無視して「ぷよぷよ」という一つのゲームを単独のものとして位置付けていいのだろうかと少し疑問に思った。