第7回のQ&A

全般的な注意

多くの人が誤記していますが、

誤「シュミレーション」

正「シミュレーション」

です。

スポーツ／ボードゲーム／制度関係

「スポーツ」がある種の「状態機械」であるという捉え方は興味深いが、「スポーツ」を「ゲーム」とみなしてよいかが難しいなと思った。「ゲーム」の成立に「虚構世界」の存在が必須なのか、「スポーツ」において繰り広げられるものは「虚構世界」なのか「現実世界」なのか、などと考えを巡らすとややこしいが、ひとまず、「ビデオゲーム」を考えるうえで「フィクション」と「ルール」が区別できるということを頭に入れて次に進めればと思う。

A. 授業ではとくに留保なしにスポーツはゲームに含めていますが、これは英語圏だと当たり前のようにそうカテゴライズされているからですね。ゲームの定義論で有名なバーナード・スーツという人がいますが、スーツが想定しているゲームの典型例はスポーツです。日本語だと違和感があるかもしれません。

ボードゲームやスポーツの状態機械は一種の制度で実現されるという部分ですが、「制度」の定義の理解が曖昧で、あまり理解できていません。「制度」は心理とか目に見えない要素を含む、「物理的」と対になるようなイメージでしょうか。また、マリオは右に進むものだけど左に進んではいけないわけではなく、そのゲームメカニクスは部分的には制度によって実現されると例をあげられていたと記憶していますが、結局左に進もうとしても進めない（画面が左に戻らず行き止まりになる）から右に進むしかないという選択をせざるを得ず、結局は物理的な実現に近いのではないかと感じました。

A. テクニカルに定義すれば、「文脈CにおいてXをYと見なす（X counts as Y in C）」という形式に翻訳可能な規則がある主体（ふつうは集団）に受け入れられているときに、その規則の集合を「制度（institution）」と言います。そこに含まれる個々の規則は「構成的規則（constitutive rules）」と呼ばれます。Xが「なまの事実（brute facts）」と呼ばれ、Yが「制度的事実（institutinal facts）」と呼ばれます。なまの事実は、広い意味で物理的な事実（自然科学が観測・記述できるもの）が中心ですが、心の動きや身体反応のような心理的な事実も含まれたりします。制度的事実は、なまの事実と対になるものというよりは、なまの事実という基礎的なものの上に乗っかる高階（high-order）の事実という感じですね。社会科学や人文科学の記述対象の一部はそういうものです。規範（～べき）の多くは、「これこれの状態をよいもの（悪いもの）と見なす」という制度あるいは価値観の産物です。

『スーパーマリオ』における「左に進もうとしても進めない」はたしかに物理的な制約ですが、「左に進めないから右に行かざるを得ない」ということの前提になっている「どこかに進もうとする（進まなければならない）」という欲求や規範は物理的な制約の結果ではありませんよね。一般的に言えば、そうした行為の前提となる欲求や規範（"want to"や"ought to"）は自覚されることが相対的に少ないですが、端的な事実のみから行為が出てくるわけではなく、つねに何らかの制度や価値観が背後にあると考えておいたほうがよいです（「ヒュームの法則」などと呼ばれます）。

ゲームメカニクスがほぼすべて物理的に実現されているように見えるビデオゲームをプレイする場合も、そういうのが暗に働いているというのがこの例で言おうとした趣旨です（スポーツやボードゲームなら自明な話のはずなんですが、なぜかビデオゲームだと見逃されやすいので必要以上に強調している面はあります）。

ビデオゲームの美学P160　に記されていた「ゲームメカニクスを現実化するのはプレイヤーの規範である」というのが具体例が挙げられていたにも関わらず理解しづらかったです。「物理的にではなく規範によって現実化される」とありましたが、手でスローインするから現実化出来るのであり、かくかくしかじかでスローインと規範がありそれを共有していても、物理的に行われなければ現実にはなり得ないわけで、規範で現実化するという意味が理解できませんでした。

ちなみにゲーム研究では、チーター（こっそりずるをする人）やスポイルスポート（ルールを大っぴらに破る人）がゲームの本性を考えるうえでしばしば引き合いに出されて、そうした人（とくにスポイルスポート）の存在によって活動としてのゲームの成立があやしくなるということがよく言われます。その手の話題でポイントになるのは、ゲームという活動がまさに共有された規範によって成立しており、かつその規範に従わない人があらわれるだけで存続が難しくなるような脆弱なものだということです。

ビデオゲームではゲームメカニクスはプレイヤーには基本的に見えない。このあたりがボードゲームとはある程度違うところで、確かにカードゲームの山札とかは見ることができないけれども、「原理的に誰かが見えていないとルールの処理ができない」面があるので、全部がプレイヤーに見えないという状態をボードゲームで実装するのはたぶん無理だと思う、その点でゲームメカニクスの中身を見せないことができるのがビデオゲームの非常に重要な特徴の一つ、というお話がありましたが、たとえば将棋とかはどうなのでしょうか。1手指せば1手返ってくるわけですが、相手の指し手の候補（読み筋）はある程度予測はできたとしても、盤面がごちゃついてくると特に相手が指すまでわからないのでその部分は違うんじゃないかなという気がしました。（「こうすればこうなる」がある種明確でないところがある気がしています。）

あるいはそれとは違う意味で、「連続王手の千日手」とか「打ち歩詰め」とか、これをやったら反則になるという意味、あるいはたとえば香車なら「1手でどこまでも前進できるけれども、後ろに戻れない」といった駒の動き、そうしたものでルール＝ゲームメカニクスの「可能な状態の集合」や「状態遷移規則」は満たしていて対局者同士で共有されているし、そういう点でゲームメカニクスの中身が外に出ているからビデオゲームとは異なる、ということでしょうか。この点が気になっています。

A. 「あるいは」以降に書かれている通りの理解で問題ないです。入力の値によって変わるという点で次の状態が予測できないことと、いまどういう状態にあるかや状態遷移規則が見えないことは別のことです（将棋の場合、後者はすべてプレイヤーに把握されています）。ゲームプレイにおける不確定性とゲームメカニクスの隠蔽を事柄として混同しないようにしてください。プレイ経験の上で両者がある程度似た働きを持ちうるということであればそうかもしれません。

記号関係

授業スライドのピンク色の画面と青色の画面の説明がありましたが、「ピンク色が切り替わること」その瞬間に意味をもっていない、ピンク色と青色を組み合わせることで次のテーマに移るという意味をもつ、ピンク色単体には意味は無いとのことでした。この場合ピンク色とは「今はこのテーマをやっている」ということを表す記号になるのでしょうか？そしてピンク色と青色という複数の記号が組み合わさって「次のテーマに移る」という内容をあらわすという解釈で合っていますか？

A. 「前のページと別の背景色であること」が「前のページの話題を引き継いでいないこと」を表す記号になっているというのに加えて、「前のページと同じ背景色であること」が「前のページと同じ話題を引き継いでいること」を表す記号になっているということは言えると思います。いずれにしろ、「あるページの背景色がピンク色であること」それ単独では記号として機能しないというのが授業で言いたかったことです。

逆に、「専門的な話題の場合はピンク色の背景にし、カジュアルな話題の場合は青色の背景にする」みたいな意味の取り決めのもとで背景色を使っている場合は、あるページの背景色がそれ単独で（前後のページの背景色を確認しなくても）記号としての働きを持ちます。

記号と内容の箇所で、それらの働きの連鎖性がありましたが、ある記号→内容に対して象徴が二つ以上あることも記号の理論上あるのでしょうか。例えば、「リンゴの絵(女性がリンゴを持っている絵)→リンゴ（と女性）→原罪」と「リンゴの絵(女性がリンゴを持っている絵)→リンゴ（と女性）→パリスの審判」のようなもの同時に成り立つのでしょうか。または、文脈によってそのような象徴はひとつに決まるのでしょうか。

A. 象徴やイコノグラフィーにかぎらず、ひとつの記号に複数の内容が割り当てられていることを一般に「多義性（ambiguity）」と言います。多義性はごく一般的な現象なので、それを想定しない記号の理論はないと言ってよいと思います。

記号と内容の定常的な関係を成り立たせている一連の取り決め（convention）を「記号システム」や「コード」などと呼んだりしますが、ひとつの記号システム／コードの内部で多義性が成り立っているケースと、異なる記号システム／コードがあるおかげで（一見したところの）多義性が成り立っているケースがあります。ご提示の例は後者だと思います（シンボリズムの体系が異なる）。

文脈上の意味（個別の記号使用の場面における意味）の話は本来別に考えたほうがいいのですが（意味論ではなく語用論に属する話題であり、記号システム／コードの問題というより発話者の意図とその合理的解釈（つまりコミュニケーション）の問題なので）、この授業ではその違いはとくに問題にしていません。一定の前提のもとで「ひとつに決まる」と言えるかどうかもケースによっていろいろです。

疑問に思ったことが一つあった。記号の働きの連鎖や類比的推論が成り立つには、解釈者が共通した背景知識を共有していることが必要で、連鎖の回数が増えるほどに意味解釈が人によりバラバラになる可能性が高くなると思う。西洋美術の絵画に埋め込まれた記号を読み取れないことが私にとって往々に起こるように、ビデオゲームにおいても、文化の差を超えることにある程度の知識を要するために、世界に広がるにおいてそうした配慮が組み込まれたビデオゲームなどは有名な例などはあるのでしょうか？

A. むしろ類比的推論は、特別な取り決め（たとえばイコノグラフィーのような）なしに、日常的・常識的な知識だけでFからGを推測できるというものです。そこで持ち出される常識的な前提がローカルな文化でしか通じないというケースもなくはないでしょうが、まれだと思います。それとは別に、G内容がたとえばゲームジャンルの慣習についての知識がないと推測できないようになっているケースはよくありますが、それは類比的推論という概念で説明しようとしているケースではありません。

『ドラゴンクエスト』の王様の顔がどこかという話があったと思うが、それは、ドット絵の粗さの所為でF内容の把握が上手く行かなかったというよりも、王様というF内容に対して二種類の記号が存在してしまった例ということになるのではないか。画面は一つであるから、基本的に記号は一つになるはずだが(実際正しい記号の読み取り方は一つであろうが)、プレイヤーによって記号の把握が異なってくる可能性があるということになる。そこで問題になると思われるのは、F内容の把握は問題なく行われているのだが、その記号に対する印象が異なってくるのではないかということである。この記号に対する印象というのはどう考えれば良いのだろうか。

A. 〈王様〉というF内容は同じというのはそうなのですが、その王様が〈どういう立体的な造形をしているか〉という点でのF内容は異なっているはずです。つまり、ざっくりとしたF内容が同じなだけで、細かいF内容は違っています（細かいF内容を指すのに「印象」みたいな言い方をしないほうがよいということです）。とはいえ、記号の時点ですでに違っていると考えたほうがよいというのはその通りで、厳密には「記号の素材（ピクセルの配置）を共有しているが、記号としては別である。その結果内容も別になる」と言う必要がありますね。記号と記号の素材を区別するのは記号論でよくある話なのですが（「タイプ／トークン」、「表現形式／表現実質」などいろんな言い方で区別されます）、無駄にテクニカルで複雑になるので、それが必要になる場面以外ではその区別の導入は避けています。

ルール／フィクション（G内容／F内容）関係

状態機械という考え方が難しいです。もう一回教えてもらいたいです。スライド２０の一文目にある、「この意味での『ルール』」という文章の「この意味」とはどの意味を指しているのでしょうか。

ユールにおいては虚構世界を想像させる要素が「フィクション」だとされていたが、そのようなユールの用語法に従えば、虚構世界を表す記号である画面を「フィクション」と呼ぶことになるのだろうか？

A. ユールにかぎりませんが（というよりユールの用語法はぶれていますが）、フィクションの哲学の用法ではそうなります。正確には画面そのものというよりは、一連の映像がフィクションでしょうね。

ユールの定義では、フィクションとは虚構世界を存在させるための物理的な要素、ルールは状態機械を物理的に存在させるための要素という理解でよいでしょうか？

A. 簡単に言えば、フィクションは〈画面に映る映像やスピーカーから鳴る音声のうち、虚構世界の想像に使われる要素〉、ルールは状態機械そのものです（ただしユールの場合、「フィクション」が虚構世界そのものを指すこともあります）。状態機械は、ビデオゲームの場合、コンピュータプログラムによってその大部分が物理的に実現されます。

「フィクション」と「虚構世界」の用語としての定義を改めて整理した際に、任天堂Wiiにおいて使用できるMiiはフィクションなのか否かについて疑問と関心を覚えた。Miiはビデオゲームのソフト上ではなく、ハードとしてのWii本体で制作されれるものである。つまり、ゲームソフトが作り出す虚構世界はそこには存在しない。では、Miiはフィクションではないのか。Miiの構成員が誰であるかで考えたとき、自身やその家族や友人だけでなく、架空の人物や有名人の顔（実際に自分も好きなプロ野球選手の顔を作成したことがある）も作成した場合、そのMiiが集まる空間は架空のコミュニティなので、虚構世界でありMiiはフィクションと見なせる。では、作成した顔が自身とその家族（両親・兄弟・祖父母etc.）に限定した場合、そのコミュニティは現実に存在する「家族」というコミュニティに一致する。この場合、このMiiが集まる空間は虚構世界と呼べるのだろうか。また、この個々のMiiたちはフィクションと言えるのだろうか。

A. アバターベースのSNS（あるいはバーチャル世界やメタバースと言ってもいいかもしれません）一般をどう考えるかという話になると思います。フィクションの面（虚構世界について何かを述べている面）と主張の面（現実について何かを述べている面）の両方がある（そしてその配分が明確ではない）ということでいいんじゃないでしょうか。

虚構世界は現実世界と異なり、行ける場所や話しかけることのできる相手、会話の応答などをゲームメカニクスによって制限されている、という理解であっていますか？

マリオの画面紹介のときに、スコアやタイムはゲームメカニクスを表すが、コインの枚数はマリオが実際に持っている数を表すかもしれないからフィクション的要素もあるとおっしゃっていたことから色々と考えた。まずアクションゲームや格闘ゲームにある必殺技ゲージのようなものはフィクションではないのかということである。HP（体力）やMP（魔力）はそれらをそのまま可視化したものだと理解出来るが、必殺技ゲージははたしてキャラクターにおける何を可視化したものなのかはっきり言えないのでたんなるゲームメカニクスだろうか。それから、特定のビデオゲームの話になるが、マインクラフトで地図を開いた際、プレイヤーのいる座標が表示され、移動に伴って座標も変化する。この地図は見た目では紙の地図であり数字が変化するというのはありえないが、これはたんにゲームメカニクスとフィクションのくい違いと説明すべきか、あるいは地図を開いた際に、フィクション要素を兼ね備えた地図が表示されると同時にゲームメカニクスである座標も表示されると説明すべきだろうか。

A. 必殺技ゲージは（少なくともシミュレーションとしての）F内容を持たないということでいい気がしますが、仮にF内容を持つとしても『ハーフリアル』の中で「比喩（metaphor）」と呼ばれているものに近いでしょうね。深く考えるぶんには自由にしていただいてかまいませんが、個別作品の内容をどう考えるかは作品解釈の問題でしかないので、どれかに確定させる必要はないと思いますし、原理的に言ってどれかに確定するものでもないです（常識的にはこうだろうくらいのことは大半のケースについて言えるでしょうが）。授業でやっているのは、個別作品を例にしつつ一般的な現象の説明のための概念や考え方を導入するということであって、個別作品をどう解釈すべきかということは問題にしていません（例示と作品解釈を混同しないようにしてください）。あと「可視化」みたいな概念はとくに導入していません。それに対応するのは「シミュレーション」か「記号」です（それぞれ別概念です）。

ゲームにおいては記号があらわすものとして虚構的内容とゲームメカニクスのふたつが同時に存在しているとのことだが、いわゆる「メタネタ」とよばれるような、それまで単にゲームメカニクスを表すものであった表象をギャグとして虚構に登場させるようなばあい、その瞬間だけそれは虚構的内容も持つということになるのだろうか。単発のネタとしてだけならば虚構的内容とも言いにくいように感じたが、そのくらい時と場合によって異なるものとして考えたほうがいいのだろうか。

A. 解釈次第ですが、F内容として解釈しようとしてもしっくりこないのでメタ感が出るという感じではないでしょうか。F内容を持つかどうかで言えば、それを持つものとして解釈されようとするが、持つものであると言い切れないので微妙な宙づり状態に留まるという具合だと思われます。これはメタフィクション一般に言える経験のあり方だと思います。

マリオの例が挙げられていたが、ゲームメカニクスと虚構世界の区別でいうとおそらくプレイヤーのプレイに関係ありかつ虚構世界の産物であるマリオやキノコはゲームメカニクスと虚構世界の両方に該当し、雲や背景の山が虚構世界に該当すると思うのだが、ではプレイヤーのプレイでは切り替えられないがプレイヤーの選択次第で（例えば穴に落ちたりした時）切り替わるBGMはどんな存在なのだろうかと疑問に思った。あれは虚構世界に流れているだけの音楽なのだろうか。

★A. マリオの音楽は、G内容として特定のタイプのステージを示していると考えてもいいですが、とくに内容を持っていないと考えてもいいと思います。ゲーム音楽の多くは雰囲気（ムード）を作るためだけに使われますが、その意味でのムードはこの授業では記号の働きとしては扱いません（記号と内容の関係ではなく、美的性質や表出的性質という概念で理解すべきものです）。もちろん、音楽がムードを作ると同時にプレイヤーに（G内容上の）危険を示すといった働きを持つ場合もよくあり、その場合は記号としての機能を持ちます。

一つ質問です。今回の授業の具体例では、ビデオゲームにおいて「記号」の役割を果たすものがグラフィックのみでしたが、音やその他の要素（あまり思い浮かびませんが）が記号となる場合はあるのでしょうか？

ビデオゲームの記号の話に関しての質問です。初回授業の際、ビデオゲームの画面には複数のレイヤーがあって、キャラクター達が動く世界のレイヤーと、得点や制限時間などが表示されるキャラクター世界からはおそらく知覚されないレイヤーがあるという話があったと思います(間違っていたらすみません)。前者は今回のスライド32枚目でいう①にあたる虚構世界をあらわすレイヤーで、後者は③のゲームメカニクスのレイヤーだとなんとなく考えていたのですが、今回の講義でキャラクターなど両方の機能を持つ②のような存在の話を伺い、よくわからなくなりました。今回の話は、レイヤーなどとはまた別の問題になってくるのでしょうか。

A. 初回授業の例についてはもうちょっと整理する必要がありますが、いまの時点での理論的な道具立てで言えば、おおむね以下のような説明になります（『ビデオゲームの美学』9章でだいたいカバーされている話です）。

table:複数のレイヤー？

▼初回の言い方（うろ覚え） ▼理論を踏まえた言い方

二次元のレイヤーがある 記号が置かれる水準（画面と平行の二次元空間）がある

三次元の空間がある 三次元空間とその中にある事物が内容としてあらわされている

三次元の空間の中には、その世界にあると言えるものとそうでないものがある F内容（F内容＋G内容を含む）とG内容のみのものがある

三次元の空間の中には、ゲームをプレイする上で関係のないものがある F内容のみのものがある

キャラクターが知覚できるかどうかというのは、三次元の空間の中にある要素の中にもおそらくキャラクターに見えないはずのものがある（たとえば明らかに空間に浮かんでいるように見える矢印）という話ですね。ただ本来もうちょっと複雑にしないといけない話かなと思っています。博士課程の倉根さんがそのあたりを研究しています。

ビデオゲームの記号は、虚構世界とゲームメカニクスのどちらか、あるいは両方を表す機能を持つ、と授業であった。「BABA IS YOU」の例では、記号の持つ機能が作られる文ごとに変化していくと解釈した。

そこで疑問に思ったが、脱出ゲームではよく、手掛かりに何らかの操作をした(タップしてその手掛かりを見る等をする)ことで、それを利用した謎に操作が加えられるという事がある。これは、その部分の機能が虚構世界を表すことのみから、虚構世界とゲームメカニクス２つの機能を持つように変化したと考えるので良いだろうか。

脱出ゲームのケースはいまいち具体的にどういうことなのかイメージできていませんが、基本的に操作によって変わるのは記号の機能ではなく、ゲームメカニクスそのもの（記号はそれが変わったことをあらわしているだけ）と考えたほうがいいかもしれません。あるいは、「最初はそれが操作可能なオブジェクトであるということがわかっていなかったが、タップすることで操作可能であることがわかった」みたいなケースを想定されているなら、そのユーザーの理解の中で「F内容だけ」から「F内容＋G内容」に機能が変わったと言うことはできます。

ビデオゲームにおける記号はG内容とF内容のどちらかあるいは両方と対応しており、どちらかの内容を示すだけの場合もあれば、どちらかの内容を示し、そこからもう一方を類推、想像させることもある。ゲームメカニクスはコンピュータプログラムによる機械的なものだけでなく、プレイヤー個人が持つ、あるいは持たされる規範的な側面ももっているということであった。ビデオゲームの記号にはF内容のみに対応し、G内容を推測させることがないものがあるが、もし、これらを無くしたとしてもゲームメカニクスには関係ないのでプレイするうえで支障はでないだろう。しかし、ゲームメカニクスの規範的な部分に関わっているとしたら問題があるかもしれないと思った。

A. その通りですね。とくにビデオゲームのゲームメカニクスにおける目標（物理的にではなく規範的に構築されるもの）がF内容によって指定される（そしてそれによってプレイヤーを動機づける）ことはかなり多いので、ゲームメカニクスの同一性を維持したままF内容を完全に入れ替えるのは難しいと思います（できるケースもあるとは思いますが）。

一般的にバグというのは、F内容とG内容の関連が全く持って必然的でない。しかし、このようなバグも、ゲームにおいて重要な役割を果たすことも少なくない。このバグについて、F内容、G内容の関係を論じるときに、そもそも開発者の意図していないG内容は、G内容として論じて良いのかという問題が生じると思った。

ゲームメカニクス内容は知識や推論、試行錯誤を通じて把握されるということだが、ゲームによってはプレイヤーが知りえないG内容もあるということだろうか？バグ等はどう位置づけられるのか気になった。

A. 定義上、原理的に知りえないものというのはちょっと考えられないですが、相対的に知りづらい（ふつうにプレイしているだけではまずわからない）ゲームメカニクスはいくらでもありえます。「裏技」とか「隠し～」とか呼ばれてきたものはだいたいそうですね。

「ビデオゲームの記号⑧」のスライドに「グラフィックのF内容上ではキャラクターはいろいろなことをやっているが、ゲームメカニクス上の行為としてはボタンをひとつ押すだけという場合」とありますが、「ゲームメカニクス」にはビデオゲームの外の現実世界でのプレイヤーの動作も含めて良いのでしょうか？現実世界の動作は前提とした上で、ビデオゲーム上に表れる部分のみを指しているのかと思っていました。

なんとなく不当で無意味な文句と感じながらも、ネタとして「鞄に骨付き肉入れるのおかしい」などといった感想をしてしまいがちなのは、二つのレベルの行き来を無邪気にしていることに起因するのかと振り返った。

A. わかりやすい例ですね。

最近のゲームでは、「目に見えないけれど拾えるアイテム」や、「目に見えないけれど入れる隠し扉」のような隠れギミックが取り入れられているものも多くあるように思います。このような目にみえないG内容はどのように捉えられるのでしょうか。例えば、スライド33枚目の分類で言えば③に入るとは思いますが、マリオの点数表示等とは異質なものであるような気がします。

A. 「目に見えない」というのがどういう事態なのかによりますね。明示的な記号ではないが記号であることには変わりがない（わかる人にはわかる）というケースもあるでしょうし、あとからG内容がわかる（たとえば〈拾えた〉あとに〈あそこにアイテムがあった〉ことがわかるなど）こともあると思います。マリオの点数表示のようにG内容を示す明示的な記号とは異質であるというのはその通りです。

記号と内容の関係について、これは裏切りをどのように処理するのかという点が気になりました。たとえば、ドラゴンクエストシリーズにはしばしば「宝箱のグラフィックに触れたら実はそれが『ミミック』というモンスターの擬態した姿だった」というギミックが存在します。このような事態が起こった場合、「宝箱のグラフィック」という記号が表す内容に「アイテムが入っている」だけでなく「『ミミック』が擬態した姿である」というものが書き加えられるという解釈でよいのでしょうか。

また、書き加えられるとして、この書き換えが起こるタイミングには、制作者がそのギミックを設定した段階（この場合、記号と内容の関係はほぼ理論的定義のように決定されるといえそうです）、あるプレイヤーがそのギミックを始めて体験した段階、そのギミックが存在するという情報が一般に広まった段階などの様々な解釈があるように思います。記号と内容の関係はこのように視点や前提によって変わりうるものと捉えてよいのでしょうか。

★A. 前半はその理解でかまいません。また後半についてもおおむねその理解でかまいません。基本的には、記号と内容の関係（＝記号作用、意味作用）はプレイヤー視点で考えています。その意味では、経験の中でその関係が変化していくという話になります。ただ、「適切な知識を持った標準的なプレイヤー」という概念を導入して、そうした理想化された主体がどのような記号解釈をするのかという話にもできます（とくに例示する場合は暗にそういう前提を置いています）。その場合は、制作者の意図したものとあまり変わらないことになるでしょうね。いずれにしても、記号と内容の関係は、ゲームプレイ中に変化しうるものとして考えています。

類比的推論／シミュレーション関係

星のカービィをプレイしていた時に、使用したことのあるなしにかかわらず、全ての特性の技の一覧がいつでも見られるようになっていたことを思い出しました。ボタンを示す、「↑」「↓」「＋」の組み合わせ（第一、この矢印を記号の一種としてみなすこと自体不当で理解が及んでいない所なのかもしれません）を見て、その技の存在（G内容）を知る。そして、実際にプレイ中にそれを運用する中で、それがどんな技であり、相手に対してどれほどのダメージを与えることができるのかを推察する（F内容）。というのが、シミュレーションの大まかな流れを示す一つの例示となり得るのではないかと考えたのですが、いかがでしょうか。また、久しぶりに検索をかけたところ、星のカービィディスカバリーには技コマンドの一覧が無く、不評を買っていたそうです。この技コマンドを隠し、プレイヤーに発見してもらおうとする試みは、製作者側がプレイヤーに類比的推論の発展形？のようなことをすることを理想としていたということができるのでしょうか。シミュレーションの説明が複雑に感じられました。

A. 記号の理解はひとまずそれで問題ありません。「どんな技」という言い方はFG両面ありそうですが、ダメージ量（数値）はそれ自体としてはGのレベルです。それを〈特定のキャラクターの怪我の度合い〉などといった具体的なF内容に読み替える（それと見立てる）のがシミュレーションです。技コマンドが明示されるかどうかは、それ自体としては一部のG内容がわかりやすくプレイヤーに提示されるかどうかの問題であって、FからGの類比的推論があるかどうかとは直接には関係ありません。ようするに、Gが隠蔽されていること（それゆえそれを知るのに何らかの推測が必要なこと）と、Fからの類比的推論によってGが知られることは別々の話です（ふつう類比的推論が生じる場面ではGの隠蔽も生じているというくらいの関係はありますが）。

今回疑問に思ったのは、マリオなどによくある隠しブロック（通常、透明でプレイヤーには見えない（マリオにも見えていないはず）が、それがある場所でジャンプアクションをすると実体をもったブロックとして現れるもの）はどういった説明になるのかということだ。透明状態のときは見えないので、虚構世界もゲームメカニクスもあらわさないが、実体として現れた瞬間にハテナブロックなど他のブロック同様に、虚構世界とゲームメカニクスの両方をあらわす記号になるのだろうか。また、見えないといっても、中には、ブロックが１マス分空いていて、「いかにも隠しブロックがありそうな不自然な場所」というのがある。この場合、ブロックのドット絵の配置が織りなす「いかにも隠しブロックがありそうな不自然な場所」というのが「隠しブロックがあるのではないか」という類推につながるので、類比的推論が行われていると言っても良いのだろうか（不自然さに気づける程度にマリオというゲームソフトに慣れ親しんでいる必要はあるが）。

A. 上の回答と同じですが、隠されたGについての推測がすべてF内容からの類比的推論であるわけではありません。「いかにも隠しブロックがありそうな不自然な場所」がそれ自体としてF内容の場合もG内容の場合もあるでしょうし、さらにF内容であっても類比的推論ではなくたんにジャンルやシリーズの慣習にもとづいて推測されるケースもあります。ご提示の例は慣習による推測・予期として説明できるものだと思います。

G内容が特定される方法について、「慣習についての知識によって、記号とG内容の結びつきがあらかじめ把握されているケース」と「F内容にもとづいた類比的推論によってG内容が推測されるケース」の境目がはっきり理解できませんでした。宝箱の場合と階段やドアの場合がどちらも自然な類推かのように感じてしまうのは、無意識に現実での慣習とゲームジャンルでの慣習を混同させてしまった理解なのでしょうか。それとも両者に明確な境目はなく、程度の問題と捉えていいのでしょうか。

シュミレーションはG内容からF内容を導き出すあり方とのことだが、育成ゲーム｢ウマ娘プリティーダービー｣でのキャラクター・ゴールドシップは、モチーフになった競走馬は頭の良さで有名だったのに対し初期"賢さ"値が全キャラの中で最低であるが、これは｢頭は良いが人の言うことを聞かない、トレーニングを真面目にやらない｣という意味で低いのだろうと類推されている。こういう例がシュミレーションの例だと理解したがあっているだろうか。

シミュレーションのGからFの矢印は、類推ではなく見立てに近いプロセスとして考えています（本来抽象的な構造体としてのGを具体性を持ったFに見立てる＝想像する）。なので、類比的推論（FからG）のたんなる逆向きの作用として考えてしまうとわかりづらいかもしれません。

授業後半でG内容とF内容が、一方がもう一方をあらわす関係になることがある例として、F内容→G内容の類比的推論とG内容→F内容のシミュレーションを挙げられていました。7 Days to End with Youという未知の言語を単語の使用から推測するパズルゲームがありますが、機能から世界の在り方を想像するという意味でシミュレーションの例に当てはまるのではないかと考えたのですが合っていますでしょうか。

記号の理論に関して、類比的推論は理解できたのだが、ゲームメカニクスからフィクションを推定するケースについて、理解できないところがありました。RPGでパラーメータからキャラクターの一面をうかがえることは分かったのだが、シムシティにおける例があまりピンときませんでした。原子力発電所の数字なデータなどから、原子力発電所がどのような性質・役割があるかがわかるという理解であっていますでしょうか。

もう一つ、画面の記号がゲームメカニクスと虚構世界を指すことに関連して疑問があり、スポーツゲーム（新しめのパワプロやプロスピ、ウイイレなどを想定しています）では、テレビのスポーツ中継のような演出になっていますが、この場合において、スコアなどが表示されている部分は、ゲームメカニクスだけを表している部分であるのか、それとも虚構世界をスポーツ中継番組ととらえて、スコアなどが表示されている部分は虚構世界とゲームメカニクスの両方を指していると考えるべきなのか、どちらが妥当でしょうか。それともどちらとも妥当と言えるのでしょうか。

ビデオゲームの画面はプレイヤーに直接見えないゲームメカニクスをあらわす記号としての側面、虚構世界をあらわす側面を持ち合わせ、両者は相互作用しながら画面を形作っており、それは類比的推論やシミュレーションのように一方がもう一方をあらわすという相互作用がよく見られるというように書かれているが、スライド35の類比的推論は「把握」シミュレーションは「想像」という言葉が使われている意図があまり分からず疑問に思った。

A. 上記の回答の通り、類比的推論とシミュレーションとで記号作用の内実が異なるためです。F→Gのほうは文字通り「すでにあるが隠されている情報を知る」という意味で「把握」と呼んでいますが（ここでゲームメカニクスは現実に存在するという説が関わってきます）、G→Fのほうは「架空の世界がこうなっていると想像する」という意味で「想像」と呼んでいます。

ビデオゲームの画面にはフィクション内容を表す記号とゲームメカニクス内容を表す記号の両方が含まれていて、これら二つが持つ関係性のうち、G内容からF内容を想像する例としてシミュレーションが挙げられていたが、このシミュレーションについていまいち理解ができなかった。（主にSimCityの例）

原子力発電所のグラッフィックからそれがどのような挙動をするのかを推察するのではなく、シムシティにおける原発が持つ挙動を何らかの手段で知った上で、ビデオゲーム内の世界にはそういった施設が存在するとしてフィクション世界を想像する。こういった点においてG内容からF内容を想像すると言える、ということだろうか。

★A. その理解で問題ないです。

『しょぼんのアクション』や『Messアドベンチャー』といったいわゆる死にゲーのような、プレイヤーがイライラすること自体を楽しむタイプのビデオゲームは、プレイヤーが行う類比的推論やシミュレーション(やゲームプレイの慣習における知識)を逆手に取ることで面白味を生じさせているのではないかと思った。例えば自らを利するアイテムだと思って触れると即死アイテムだった場合は、類比的推論をわざと誤らせるように設計されていると言うことができると思う。

再三紹介されているフィクションとゲームメカニクスのずれというのは、プレイヤーが誤った類比的推論を行った場合に生じる、と考えることも可能でしょうか。

A. 誤った類比的推論によってずれが生じうるのはそうですが、問題にしたいタイプの「不自然さ」があるかどうかは、その推論が合理的に行われるものであるかそうでないかで変わってくると思います。仮にプレイヤーの無茶苦茶な推論によってずれが生じたとしても、だからと言って「不自然さ」があるということにはならず、単純にプレイヤーがおかしいということになるわけなので。

G内容がF内容をあらわす、シュミレーションの話がうまく理解できません。ユールのフィクションの定義は「ビデオゲーム内で描かれる虚構世界とその中での事実を想像するための要素」ということでした。ビデオゲームにおけるシュミレーションではG内容がF内容をあらわし、「そのシミュレーションを通じて新しい架空の世界を作り出す」とのことですが、それってつまりG内容がフィクションということになりませんか。それとも『スーパーマリオブラザーズ』でいうマリオのように、虚構世界とゲームメカニクスの両方を表すものなのでしょうか。混乱しています。

G内容からF内容を想像することについて、その世界線の「ご都合設定」のようなものを受け入れていることもここに含まれるのでしょうか。ポケモンの例を挙げるならば、あらゆる成分のポケモンが同じスプレー式のきずぐすりやポケモンセンターで回復したり、「ひんし」「どく」になっても命に別状はなかったりし、プレイヤーはそれを「そういうものだ」で理解しているため毎回の戦闘でいちいち心を痛める必要がない、といったことです。

A. 概念の定義上は「シミュレーション」のうちにそのような「受け入れ」を含めていませんが、シミュレーションの作用と同時にそれが発生することはあると思います。

類比的推論のところで階段をあらわす絵の例が出た際「そもそもこれを階段と認識できるのか」ということが少し話されていましたが、もしプレイヤーが〈F:階段〉を理解できていなかった場合、「それは〈G:階段〉〈G:移動手段〉だ」と誰かに教わることによって、〈F:階段〉〈F:移動手段〉を理解するという順序になるので、シミュレーションだ、ということになるのでしょうか？

A. あまり考えていないケースですが、そう言ってもよさそうですね。類比的推論とシミュレーションは同時に起きていることも多いです。ドラクエの場合は、ふつうのプレイであっても、Gレベルでの〈移動手段〉がFレベルの〈階段〉をあらわすシミュレーションとして機能していると思います（G〈移動手段〉単独でシミュレーションになるというよりも、G〈マップの全体〉が虚構世界上の特定の場所の空間的構造として見立てられるという感じだと思いますが）。

今回の授業内の類比的推論の説明で出てくる、虚構世界とゲームメカニクスの両者が構造的に似ているという前提がよく分からなかった。両者が構造的に似ているという前提とは、例にあったようなＧ内容(移動できる)が、Ｆ内容(階段がある)で表される場合、階段が現実世界で持つ一般的な機能とそれがビデオゲーム内で表すものは一致しているという前提ということだろうか。

A. 大まかにはそういうことですが、「ビデオゲーム内で表すもの」みたいな曖昧なことではなく（そういう言い方をすると2つの側面がごちゃっとなるので）、プログラムによって実装されているゲームメカニクス上の特定の実体（プログラム上の実体なのでこれを名指すのは難しいです）と、いわゆる階段との関係の話をしています。

類比的推論は、「虚構世界とゲームメカニクスの両者が構造的に似ているという前提のもとでなされる」という話がありましたが、「構造的に」の意味が理解できませんでした。シミュレーションのほうでもやはり「構造的に似ている」という話がありましたが、何の構造が似ているのでしょうか？

A. 構造的類似については上記の通りです。「同型（isomorphic）」や「準同型（homomorphic）」で調べていただくといいかもしれません。基本的に数学の話が出てくると思いますが、要点を押さえていればカジュアルなレベルの理解で問題ないです。アナロジーやモデリングとの関係はたとえば以下など参照：

あるいは、虚構世界に含まれる何とゲームメカニクスに含まれる何が似ているかがわからないという疑問でしょうか。これはいろいろで、フィクショナルキャラクターが持つ性質とゲームメカニクス上の特定の変数セットが似ている場合もあれば、虚構世界上の誰かの行為可能性とゲームメカニクス上のプレイヤーの入力可能性が似ている場合もあれば、虚構世界上の複雑な状況（たとえば局地戦）とゲームメカニクスとしての状態機械の全体（可能な状態、状態遷移規則、etc.）が似ている場合もあります。他にも無数にありえます。

ただ一つ気になったのが、このようなゲームメカニクスと虚構世界の相互作用はビデオゲームの画面が存在し、外から観察するような形でプレイをするからこそ成立するのであり、今後ゲームが発達して例えばVRを使いゲームの中に完全に入り込めるようになったら（イメージとしてはSAOのようなもの）こういった虚構世界とゲームメカニクスによる分析はどういった形に変化するのだろうか。

A. VRにかぎらず没入的な経験を与えることを意図したタイトルは、GとFの区別をできるだけ少なくしようとしているわけで、その区別がユーザーに見えなくなる傾向にあるでしょうね（モダンなビデオゲームの多くがすでにそうかもしれません）。そして、まさにその特徴（両者の区別がユーザーに見えづらくなる）を理解するためにGとFの概念的な区別が必要だと考えています。

疑問だが、授業で紹介したようなシミュレーションゲームやRPG以外でのシミュレーションの例にはどのようなものがあるのか。自分のゲーム経験があまり多くないからかもしれないが、自分の中で、類比的推論は広くどのようなゲームでも通用するように思ったが、シミュレーションが発生する例があまり思い浮かばず、類比的推論に比べて発生が限定的であるように感じてしまったため、気になっている。また、先生がスライドの中で「あらわす」と漢字を開く理由は何かあるのか。

★A. 具体例は無数にあるというか、だいたいのビデオゲーム作品には多かれ少なかれ類比的推論の面もシミュレーションの面もあります。シミュレーションがわかりづらいのは、ゲームメカニクス自体に意識が向いていないからか、あるいはゲームメカニクスそのものとシミュレーションの内容（G内容を通したF内容）を同一視しているからかなと思います（開発者が意図的にそうなるように作っていることが多いので、そう感じるのはある意味で当然です）。

「あらわす」と開いているのは気分以上の理由はないですね。厳密には「表象する（represent）」としたいのですが、ごついのでとりあえずひらがなにしています（「表現する」はいくつかの理由で厳密な用語としては使いづらいです）。ちなみに標準的な（学校で習う）送り仮名は「表す」だと思いますが、出版社によっては「表わす」に直される場合があって、理由を聞いたら「ひょうす」との競合を避けるためらしいです。

ノベルゲームの場合「F内容とG内容の両方を表す記号」はあるのだろうかと疑問に思った。

またF内容とG内容の相互作用の話で、類比的推論の例は自分の経験もあり分かりやすかったが、シミュレーションの方は（こちらもおそらく経験しているのだろうが）少し分かりにくかった。例えば『どうぶつの森』で釣りをしていて、コントローラーから手に伝わる振動が大きい時「大物が釣れそうだな」と思うのは、シミュレーションの一例なのだろうか。

A. ノベルゲームの選択肢のテキストは一応両面持つと言えそうかなと思います。ノベルゲームはGそのものがかなり薄いジャンルなので（分岐の可能性とそれを決定するフラグくらいしかない）、区別を適用しても面白くないかもしれません。

釣りの例については、振動そのものは記号のレベルのことなのでちょっと違いますね。記号〈コントローラーの振動〉によってG内容〈大物が釣れそう〉というのがわかり、そのG内容をF内容〈大物が釣れそう〉に見立てるみたいなことであればシミュレーションです。上の回答に書いたように、おそらくシミュレーション（G内容→F内容）が意識しづらいのは当たり前すぎることだからです。

やはり、シミュレーションの方が少し分かりにくい。何というか、G内容はG内容として理解してしまって、F内容にそれを直接反映させるようなことがない気もする。それとも、意図せずにF内容を把握しているのだろうか。それに、SimCityは、虚構世界がそのまま与えられる訳ではなく、それを形成していかなくてはならないものであろうから、他のビデオゲームと同じようにF内容を考えられるのかが分からない。

A. 上2つの回答と同じですが、シミュレーションがわかりづらいのは、ゲームメカニクスをすでにシミュレーション済みの（つまりF内容込みの）のものとしてしか認識していない（言い換えれば、裸の抽象的なゲームメカニクスに意識が向いていない）からかなと思います。そしてそれはふつうにプレイするかぎりは当然のことです（開発者もそれを意図して作っていることが大半なので）。

ゲームメカニクスがシミュレーションを通じて架空世界を作り出すことは分かったのですが、ゲームメカニクスがシミュレーションのためのモデルとして使われない例があるのか気になりました。

そういうシミュレーションになっていない面は、相対的に目立たない（そして目立つ場合はネガティブに評価されやすい）という話であればその通りかもしれません。​

授業中で説明されたシュミレーションの例は理解できたが、資料に書かれたあったドライブシュミレーターの例でどのようにG内容からF内容を想像するが分からないので説明してほしいです。自分としてはリアル志向のドライブゲームはプロドライバーが練習に使うほど技術の向上によって現実との違いがなくなってきており、自分はハンドルコントローラというハンドル、クラッチペダル、シフトレバーまであるコントローラーを使っているので、これをただのフィクションと言い切るのは疑問がある。

A. 「ドライビングシミュレータ」という言い方で想定していたのはビデオゲームの例ではなく、実際の車の運転の訓練用のもの（教習所にあるようなやつ）です（ビデオゲームジャンル名でもあるのでわかりづらかったかもしれませんが、例示の文脈で十分にそう読めるはずです）。ビデオゲーム以外のシミュレーションは、「動的モデルによる何かの表象」というくらいの定義であって、その「何か」がF内容であるという限定はありません。

加えて、何回か言っていますし今回のスライドの冒頭にも書いていますが、リアリスティックかどうか（現実に似ているかどうか）の話とフィクションでないかどうかの話はぜんぜん別のことです。ドライブゲームがどこまでリアリスティックになろうが、それがフィクションでないかどうかには直接関係ありません。おそらくフィクションの認識的価値（フィクションは真なる知識を与えることもある）みたいなことを想定されているのだろうとは思いますが、それはフィクションか否かの問題ではないです。

ドライビングシミュレータがゲームではないシミュレーションの例に挙げられていましたが、よくわからなかったです。要するに電車でGO！みたいなやつはゲームではないということですか？

確かに、仮に鉄道のシミュレータだとすると、動画を一定のところで区切って実際の電車の運転台から見える風景と同じように動かせばいいだけなので（これは実写版の話ですが、架空路線を作る場合などはまた違うのかもしれません。結局よくわからないのですが）それも「ゲームではない」と言えばそれはそれで正しいのかなと思います。この辺もよくわからなかったのでご教示いただきたいです。

A. 上の回答の通りです。

自分自身はビデオゲームをほぼ全くやったことがないため想像ができないのですが、無意識的にであれプレーヤーは「類比的推論」と「シミュレーション」の違いを認識しているのかが気になりました(実際にははっきりと二分されるわけではないと思うのでなかなか難しいかも知れませんが…)。もし違いを認識しており、どちらかに好みが偏っていたとしたら、脳の各分野の発達度合いの差などと関連していそうだと思いました。また、松永先生が「類比的推論」と「シミュレーション」の違いを指摘されたと言うことは、少なくとも先生が指摘される以前は、ゲームクリエイターの方々は両者の違いを意識的には認識していなかった可能性が高いと思うのですが、ゲームクリエイターの方々が松永先生の理論を知ったときにどのような反応をなさったのかも気になりました。

A. 類比的推論とシミュレーションはしばしば同時に起きますし、ふつうのプレイヤーはそこまで自覚しているものではないです（言われればわかるという意味で「無意識に認識」している人は多いとは思いますが）。むしろ明確に自覚していないことを自覚できるようにする（場合によっては言葉で説明できるようにする）というところに理論の意義があります。言語学の理論などの意義も同じようなところにあるので、ビデオゲームをやったことがなくてもそういう他の事例で想像してみてください。

また開発者はそもそもこういう細かい理論的概念にあまり関心を持ちません（ポジティブな反応をしてくれる人もそれなりにいますが）。開発に役立てるための研究ではないからです。

その他

baba is youというゲームは知らなかったのですが、おもしろそうだなと思って調べたら「難しい」「やばい」とサジェスト表示されました。授業の本筋とは関係ないですが、松永先生がプレイするにあたって「難しい」と感じたソフトなどはありますか。