第11回のQ&A

物語の定義論／物語言説・物語内容関係

「物語は『物語表現』や「物語作品』に近い」という部分について、一般的な「物語」と何が違うのかがいまいちわからなかった。

A. 「物語」という語が物語内容を指すのに使われることが一般にあるので、その意味ではないということです。

物語内容を表象するものが物語言説だと理解したので、いまいち物語内容の出来事記述と物語言説の区別がつかない（どちらも物語内容の表象でありすなわち物語言説である気がしてしまう）。それゆえ、「物語的結合」は物語内容に内在的ではなく、物語言説によって外在的に生み出されているのではないかと思ってしまう。

A. 疑問のポイントがわかっていませんが、出来事記述（description of events）は物語言説で問題ないです。

物語的結合が物語言説によって（正確には、物語言説の生産者または受容者によって）生み出されているというのはそうでしょうが、そうであっても物語的結合自体は物語内容レベルの関係です。ちなみに物語は「構築的（constructive）」なものであるとたまに言われますが、そこで言われているのは物語的結合の構築性でしょうね。「ナラティブ」というカタカナ語がその構築性を強調するのに使われるケースもよくあります。

物語的結合について、ある文章群が物語であるかそうでないかは因果関係や利き手の感情のリズムに左右されるということは、結局利き手の主観に委ねられるということになり、絶対的に「これは物語である」と断言できるようなものは存在するのか不思議に思った。

★A. 毎度の感じの悪い答え方になりますが、「絶対的に「これは物語である」と断言できるようなものは存在するのか不思議に思っ」てしまうのはなぜかについて反省的に考えてみることをおすすめします。どういう前提のもとでそういう疑問が出てくるのでしょうか。

教科書的な定義②「物語的な関係によって結び付けられている」とは、…というスライドのところで、上から5番目まではいいと思ったのですが一番最後の「驚くべきこと、普通ではないこと、語る意味のあることである」だけは、「それ誰が決めるねん」問題みたいな、もっと言えば「そもそもこの条件って存在する意味ある？」という疑問が発生しかねないと思いました。なんにせよこれが決定的に重要な定義というわけではないのでしょうが、自分がもしこの分野の定義を試みようとするのであれば省きそうだな、と思うことです。実際省く研究者も多そうだなと思ったのですが、そのあたりはどういった状況なのでしょうか？

A. たしかにその条件は趣旨も必要性もよくわかりませんね。情報量のあること（トリヴィアルでないこと）を語る必要があるということだろうとは思いますが。

一つ疑問に思ったのだが、複数の物語言説から間接的に導き出される事実は物語内容と言えるのだろうか。例えば

物語言説A：「ある王国の兵士Xが大けがを負わされたらしい」

物語言説B：「この前王国の兵士を痛めつけた」

という言説があるとき、「Bの語り手がXに大けがを負わせた」ということは物語内容になり得るのか。

A. 物語言説によって直接に明示されていないことでも、物語内容に含めて問題ないです（その解釈が正当化されるかぎりで）。フィクション作品の解釈は一般にそのようになされます。

フォースターの言う「ストーリー」と「プロット」について、普段自分がプロットという言葉を用いる際にはフォースターの言う「ストーリー」を用いていた。そのため「因果関係の有無は一旦無視して事実を羅列する」のが「ストーリー」で「因果関係込で記述する」のが「プロット」であると再解釈したのですが正しいでしょうか？

A. その理解でいいですが、とにかく用語法は論者や文脈によって違うので、あまり言葉にとらわれないでください。

物語内容の例を見ると、物語言説を要約したもののように感じられた。ただ、物語言説と物語内容の関係性は「表すもの」と「表されるもの」であるのに対し、物語言説の要約はその「表すもの」の一部であるにすぎず、物語内容と物語言説の要約は互いに性質を異にしているようにも思えるので、これらは実際にはどのような違いがあるのか気になった。

物語的結合関係

「殺された人の像の転倒」と「加害者の死亡」が因果関係にあるのならば、スライドp.11の「「殺された人の像が偶然倒れてきて、その加害者が死んだ」のような因果関係も何もないようなケースであっても」という書き方はかなり誤解を招く表現だと思った。

物語内容に含まれる出来事が全体として理解可能で、物語において表象される出来事の中心が人間（あるいはそれに類する主体）の行為であるなら、出来事間の物語的結びつきには、「AだからBした」「AのためにBした」のようなある種の合理化関係が関わるのではないかと思った。

例えば次のような出来事記述を考える。

A：山田が殺され、田中がデスマウンテンに行った

B：山田が殺されたから、敵を討つために田中がデスマウンテンに行った

Aは単に出来事を時系列順に並べただけで、Bは2つの出来事のあいだに「～から」というある種の合理化関係があることを記述しており、それによって全体をまとめあげているといえるのではないかと思った。

A. 授業中のコメントにもおおむね同じ内容のものがありましたが、こちらでポイントを理解できてなかったです。すみません。

〈像が倒れたこと〉と〈人が死んだこと〉のあいだの因果関係は当然あります。なので、それを因果関係のない例として示すのがミスリーディングだというのはおっしゃる通りですね。

明確に書けば、この例で示そうとしているのは以下のことです。

〈像が倒れたこと〉と〈人が死んだこと〉のあいだの因果関係は、当のお話に物語的結合（物語としてのまとまり）をもたらしている関係ではない（前提①）。

それゆえ、それとは別に何か物語的結合をもたらしているものがあることになる。

物語的結合をもたらしているのは、その像が殺害された人の像であり、像につぶされて死んだ人がその像の人を殺害した犯人であるという関係である（前提②）。

しかし、この関係は因果関係ではない。

それゆえ、物語的結合をもたらすものは因果関係にかぎられるわけではない。

勉強用文献：

フォン・ウリクト『説明と理解』丸山・木岡訳、産業図書

脇道も脇道だが、像が倒れるという例は詩学からだろうか。

A. そうです。ヴェルマンは、E. M. フォースターやノエル・キャロルに加えて、アリストテレスをかなり引きながら議論しています。

「感情のリズム」について殺人者の例で考えると、「殺人を犯した→不安定な感情が発生→殺された人の像が倒れてきて殺人者が死んだ→被害者の像が殺人者を殺したことで、殺人を犯した者に対する因果応報の感情が発生、不安定な感情は消える」ということなのかなと思った。

これを踏まえて「王が死に、王妃が死んだ。」を考えると、ここには「感情のリズム」は存在しない（死に対して悲しいという感情は湧くが、これは感情のリズムに当てはまらないと私は考えた）ため、デイヴィッド・ヴェルマンもこの文章に物語的結合はないと考えているのでは、と思った。

以上の考え方で合ってますか？

★A. ヴェルマンの主張は、因果関係以外にも物語的結合をもたらす関係があるというもので、因果関係が物語的結合をもたらすことを否定しているわけではありません。なので、王妃と王のお話は物語的結合のある例として認めると思います。

物語的結合の注意点について、前回参考で載せられていた「若ゲのいたり」の記事で出てきた「日本人ゲーマーのプレイが弓道・茶道の『残心』に通じている」という話にも多少当てはまるのではないかと思った。「日本人が弓道・茶道において『残心』を学ぶ」という物語内容と「日本人ゲーマーがビデオゲームを途中でやめる」という物語内容は、「日本人には『残心』の精神が流れている」という因果関係によって結びつけられていると言うこともできるが、これは因果関係というよりも語り手の遠藤氏の「感情のリズム」のようなものなのではないか。

A. 人はしばしば非合理的に物事を「理解」してしまうという点では同じ話ですね。

（そもそも物語的結合の有無で区分する話から逸れるかもしれないが）歴史の話で言うならばAは年代記、Bは歴史記述（客観的な記述）ということだったが、物語における歴史叙述（主観的な記述）にあたるものはあるのだろうかと思った。物語作品である以上筆者の主観的な記述は物語作品の中に言説として現れないと言えるのだろうか。（主観的な記述が現れたらそれはもはやエッセイ？）

ただ、王が死に王妃が死んだ話の「悲しみのあまり」の部分は、「実際にそうかどうかわからない、筆者が勝手にそう言っているだけのこと」と捉えれば叙述的と言えなくもないかなと思ったりした。

（そもそも記述と叙述の違いについては検討してないという話ならすみません）

A. 「歴史記述（客観的な記述）」と「歴史叙述（客観的記述）」みたいな区別は想定していませんね（さまざまな歴史記述のあいだに信頼性や説得性の程度差がないということではないです）。歴史哲学でも聞いたことがないのですが、どういう文脈でなされる区別でしょうか。

現実の表象を物語として理解する時に、それが持つ物語的結合が実際の出来事間にある因果関係とは異なるものかもしれず、また、因果ではなく「感情のリズム」的なもので結合されているだけかもしれないというフレームは特に差別の被害の語りを理解する時に注意するべきポイントを簡潔に表していてかなり興味深かった。ある人が、差別の被害経験を語る際、何か嫌なことをされた時は、相手がそういう言葉を言ってしまうような追い詰められた精神状態だったのかもしれない、もしくは自分のような属性の人間に反感を持つ理由があるのかもしれないと想像する、と話していた。そういう逃避の仕方があるのか、やこういう風な優しさを持つように強制する社会は最悪だな、といったことをその時は思っていたのだが、これはその人なりに理解できない出来事（差別は不合理な理由があるゆえに差別となる場合が多い）を物語化するために「想像力」を使い、事実とは異なるかもしれない物語的結合を作り出したと理解すればいいのか、という納得が今回学んだ概念で生じた。よく分からない例になってしまったのだが、ともかく授業内で仰られていたようにそこで語られているのが正確な因果関係なのか、事実とは異なる物語的結合の結果なのかを判別することを念頭に起きながら語りを聞くことが、特にショッキングな経験であるがゆえに物語化が起こりやすそうな被害の語りにおいては特に重要そうに思われた（物語的結合だからといって否定すべきというわけではないが）。

★A. いい例ですね。心理学で「合理化」と言われる防衛機制の一種だと思いますが、良し悪しはともかく物語的結合を作り出すことで合理化が行われることはよくあると思います。「ナラティブセラピー」などでも検索してみてください。

現実の表象を物語として理解する際の危険性は、小学校か教育すべきではないかと考える。スマホで検索したり、SNS等での情報を鵜呑みにする習慣がついてしまった後で教えても「刷り込まれた」感覚の訂正は難しいと思う。

A. 出来事群を物語として理解するというのは人間にデフォルトで備わっている傾向であって、デジタル時代だからどうこうという話でもないので、全世代で気をつけたほうがいいでしょうね。ちなみにインターネットリテラシーが必要なのは、むしろ高齢者じゃないかなと思います。

フィクション作品における表現について、小説では書かれていることすべてに意味があるという話を聞いたことがある。言葉が少し違いうだけで出来事と出来事の因果関係やまとまりが表現されるのはそういうことなのかと思った。

A. フィクション作品の表現や内容に（常識的に考えて）無駄がないというのは、物語的結合の話というよりは、グライスが言うような協調原理（とくに関連性）の話だろうと思います。フィクション作品の提示と受容を一種のコミュニケーションと考えれば、あらゆる要素になんらかの意味があるだろうと受容者が推定するのは合理的なことなので。

ただこれは作品に対して作者が全面的にコントロールできるという前提のもとで成り立つ話であって、個人制作でないビデオゲーム作品のように（少なくとも特定の個人の）制作者が全面的にコントロールできるとは言えないケースでどこまで成り立つかは難しいでしょうね。実際、これは意図せざるバグなのか意図された仕様なのかわからないということはよくあります（小説や映画などでも同じようなことはまれにありますが）。

ビデオゲームの物語（主に分岐ストーリー）関係

ビデオゲームの物語の概念の理解がまだ不充分なのですが、ここで言う物語はいわゆる「ストーリー」でなくてもよいのでしょうか。どうぶつの森シリーズなど、明確なエンディングを持たないビデオゲームは結構あると思うのですが、そうしたものたちでも個々のプレイ内で起こる出来事を物語と見なし、分岐する物語として理解してよいのでしょうか。

★A. これは難しい問題なので、いまのところはっきりとは答えられないです。ビデオゲームのプレイにおいて（何らかの意味で）生じる出来事のうちのどれが物語内容の構成要素になる出来事としてカウントされるか、という問題ですが、ケースによる（あるいは見方による）としか言いようがないかもしれません。公式の物語内容（「いわゆる「ストーリー」」と書かれているもの）かどうかという点でひとつの線引きはできますが、ここで想定しているのは、公式の物語内容だけではありません。

授業を聞いて、一本道だからこそ成立する、いわゆるバグによる一本道であった物語言説の順序の変更に対してはどう考えるのか気になった。例えば「mother2」では基本的に一本道の物語言説であるが、マップの移動の仕方で本来たどるべき順序ではないプレイングが可能となっている。ほかにも故意にバグをおこしてイベントを飛ばす方法もあると思う（ドラクエでいえば、最初の町からバグで魔王の城に行ってバグで魔王を倒す、など）こういったバグの使用は一本道の物語構造の分析においては考慮すべきなのだろうか。

A. 上の話と関わりますが、バグの結果生じた出来事や順序変更を物語（物語言説レベルであれ物語内容レベルであれ）の構成要素としてカウントするかどうかはケースによるとしか言えませんね。一般的には、バグ込みで物語が構築されることはあまりないと思いますが、それは公式の物語（少なくとも制作者がある程度意図した物語）を想定するかぎりはそうであるというくらいのことかもしれません。

一本道ストーリー型ビデオゲームの物語理解に関しての意見です。ここでの物語言説部分において、モブキャラに話しかけるなど自由選択型の物語の詳細経験は、プレイする上で必ずしも必要ではないということですが、逆にそれらを全く無視したとき、一本道型のビデオゲームの物語は、語り手を操る製作者と聞き手にあたるプレーヤー間で、伝達が成り立つのか、とゲーム未経験者の私は感じました。

A. 飛ばしまくるとお話の流れ（開発者が意図したもの）がよくわからなくなることはあるでしょうね。開発者はできるだけそうならないようにいろいろ工夫していると思います。

今回の授業を聞き、「見えない壁」等の不自然な現象は、物語言説の順序を固定させるという役割を持っているためにビデオゲームで頻出すると認識したのですが、それでよいでしょうか。

A. 必ずしもその理由だけではないですが、その理由で不自然さが作り出されることはよくあるとは思います。

ゲーム上の物語の独特さについて、プレイヤー側に責任があるというのは興味深いと思った。ゲームにおいては物語主体がプレイヤーと同一であるという認識が強い理由、もしくはそうなった結果だと思うが、どちらなのだろうか。つまり、ゲームにおいてはプレイヤー側に行動の結果の責任があるOR行動の動機がある→物語主体とプレイヤーの同一化　なのか、物語主体とプレイヤーは同一のものである→プレイヤー側に行動の結果の責任が生まれるOR行動の動機が必要となる　なのかどちらだろうか。鶏が先か卵が先かの問題になってしまうだろうか？もしくは同時発生したものだろうか。

A. 興味深い問題ですが、ケースごとにいろいろなんじゃないでしょうか。鶏と卵と同じく循環関係があると言ってもいいと思います。あと「→」も一方が生じれば他方も必ず生じるという強い関係ではないでしょうね。同一化（identification）の経験自体も、紋切型によくそのように言われるだけで、本当にそれが生じているのかどうかを疑ってみたほうがいいとは思います。

一本道のゲームに脱出ゲームなどは当てはまるのでしょうか？もし当てはまるのであれば、脱出ゲームは一本道であることが醍醐味とも言えるなと思った。

A. 脱出ゲームは古典的なアドベンチャーゲームの一種なので、一般に当てはまるでしょうね。

一本道ストーリーと言っても、真に「一本道な」ストーリーと、「一本道的な」ストーリーの二種類のものが存在するのではないかと考えた。ここで言う「一本道的な」ストーリーとは、一本道ストーリーか分岐するストーリーのどちらかに分類するならば一本道ストーリーに該当するが、分岐するストーリー的要素も十分に盛り込まれていると考えられる物語のことである。例えば、ポケモンは本当に一言で一本道ストーリーと言っても良いのだろうか。旅へと出発し、条件（大抵がジムバトル）をクリアしながら順番に沿って新たな街へと進むという点を見れば一本道ストーリーであると言える。しかし、旅の出発の場面ではプレイヤーが自身の好みに従って好きなキャラクターを一体選ぶことができる。さらに、旅の道中で出会うポケモンの種類や手持ちに編成するポケモンもプレイヤーによって異なるため、ジムでの戦い方も個人によって変化するはずである。分岐ストーリー的要素も含んでいると言うことができるのではないか、と疑問に思った。

A. そうですね。中間的なものがあってもいいと思います。

ストーリーの分岐に関して、ポケモンはかなり選択肢による分岐が多く、かつ最終的にストーリーが一つに帰結することのないゲームであると思いました。最初の三匹の中から一匹選んでゲームが始まり、そのあともどのポケモンを捕まえるか、進化させるかなどの細かい分岐がどんどん重なっていき、唯一無二の可変的なストーリーが出来上がります。そこで、分岐の大きさやレベルのようなものは考慮しないのかということを疑問に思いました。例えば上の例で言ったら、最初の三匹から一匹を選ぶのは不可変の選択なので大きな分岐であると見なすことができるだろうし、いつどれくらいお金を使うかなどというあとから修正可能な選択は小さな分岐とみなすことができるのではないかと考えました。それとも、レジュメの図のように、それぞれの分岐は区別せずどれも同次元で考えるべきでしょうか。

A. 分岐の程度差はあると思います。書かれているように、あとから修正可能かどうか（可逆かどうか）という点での程度分けもできるでしょうし、「大きなストーリーの流れ」みたいなのを想定したうえで、それに含まれるか否かという程度分けも一応できると思います。下のコメントもご参照ください。

授業中にドラクエが例として挙げられていたので関連して質問です。ドラクエ5の天空の花嫁で、花嫁を選べるシーンがあると思うのですが(ビアンカかフローラかデボラか)、この選択によって主人公の子供のビジュアルが変わったり、また物語内容にも差が生じると思うのですが、もう少し広い目で見ると主人公が敵を倒すという大きなストーリー自体には差は特に生じていないように思います。ビアンカを選んだら敵を倒せたけど、デボラを選んだら敵を倒せない設定になっているというわけでもなさそうです。とすると、嫁にだれを選ぶかという選択肢は、東京都立大学の第六回のスライドのp14の些末な物語言説とそれに対応する物語内容ということになるのでしょうか？

A. 子どものビジュアルが変わるというのはそこそこ大きな物語内容上の変化だと思いますが、相対的に言ってマルチエンディングのような劇的な分岐ではないのはそうでしょうね。

一本道上の些末な物語内容と分岐上の物語内容のちがいは、dramatic arc（ストーリー展開上の起伏）に寄与するかどうかくらいで考えています。ただ、理論は考え方を提供しているだけであって、個別事例をどう解釈するかは各々で考えればいいと思います。一本道ストーリーの構造と分岐ストーリーの構造が概念的に明確に区別されているとしても、ある個別事例がどちらかに一意に属するなどとは考えないほうがよいです（作品解釈に依存するので）。この授業で取り上げた理論的概念のおそらくすべてに同じことが言えます。

マルチエンディング方式を取っている作品だとしても、エンディングの直前までは一本道なのに、最後の選択肢などで突然物語が分岐するような作品(a→b→cまでは分岐なし。その後エンディングだけd, e, fに分岐するような作品)は、分岐ストーリーのような気もしますし、一本道の物語のようにも見えますが、どちらに分類するべきでしょうか。

また、『ライブ・ア・ライブ』という作品は、7つの物語を好きな順番でクリアした後で、「中世編」と「最終編」をプレイできるというシステムですが、これは物語言説の順序が違うだけで物語内容は一本道のストーリーと認識しても問題ないのでしょうか。

A. 上のコメントの通り、個別作品をどう分類するかはどうでもいいと思いますが、それはともかく、書いておられるように、途中まで一本道で最後が分岐するストーリーの作品でいいんじゃないでしょうか。

『ライブ・ア・ライブ』についてはその理解でよいと思います。最終編の主人公に誰を選ぶかでいちおう分岐らしきものはわずかにありますが、たんに視点が変わるだけで物語内容はだいたい同じであるという考えもあるかもしれません。

今回のテーマに合うビデオゲームは、いわゆるストーリーゲーだけなのかなと気になりました。たとえばレースゲームとかFPSなんかはどうなんだろうと。個人的には、爆破ゲーのようなFPSは、各作品の世界観の中において「爆発物の起動を目指す/阻止する」といった共通の合流地点的なゴールを持ったまま物語が進行する、分岐が完全プレイヤー依存型の分岐ストーリーゲームと考えられるんじゃないかなと思いましたが、この理解で今回のテーマに沿えていますでしょうか。

A. FPSのキャンペーンはふつうにこの話が当てはまると思いますが、FPSのマルチということですか？ ふつうのマルチ対戦のゲームプレイを物語として論じる意味はあまりないとは思いますが、たとえばスポーツの試合が（プレイヤーなり観戦者なりによって）しばしば物語化されるのと同じ構造を持ちうるとは思います。ただそれは、分岐ストーリーの話ではなく、第12回で扱う創発的物語の話ですね。

バッドエンド、デッドエンドが用意されているマルチエンディングのゲームがある。迎えてしまった場合セーブ地点まで戻って選択肢を選び直したりクリア条件を満たしたりして「正しい」エンドを再度目指すのが一般的だと思うのだが、ここでは「正しくない」エンドが一本道の物語構造での小さい物語言説のような役割を持っているのではないかと考えた。迎えなくても問題ないが、迎えることで得られる物語内容がある。

ただし、例えばUndertaleでGルートをクリアした後はPルートのエンドが変わってしまうように、あるエンドについて迎えても迎えなくても他エンドに影響しないとは言えない、すなわち選択肢として働くケースもあると思う。

A. オプショナルだが有意味という意味で、些末な物語言説の物語内容と、トゥルーではない分岐の物語内容は同じかもしれませんね。どちらも、その世界やキャラクターを立体的に描く手法になるという点でも似ているかもしれません。

一本道の物語構造において、中核になる固定された物語言説の他に、何らかの物語内容を伴ったこまごまとした物語言説が散らばったかたちで用意されているという点が気になった。あくまで私の想像だが、「ゲームクリエイターが用意した物語言説は、何らかの物語内容を伴っているのだから、その全てに目を通すべきだ（≒物語言説同士に優劣はない）」という規範的言説がゲーム研究において為されていそうだなと思った。だが実際には、一本道の物語において、その中核を担う物語言説と、そうでない物語言説ははっきり区別されており、プレイヤーが行う取捨選択には何らかの価値判断が含まれていることは間違いないようにも感じる。

★A. そういう規範的言説は、ゲームレビュワーやファンカルチャーの中にはあるかもしれませんが、研究上はないです。おそらく「ゲーム研究」というので作品研究みたいなのを想定されているのだと思いますが、そもそも個別の作品研究自体が（少なくともまともな）ゲーム研究にはほぼないです。個別の作品の内在的特徴を論じることが当たり前のように研究として成り立つのは（なぜ成り立つとされているのかはよくわかりませんが）文学や美術やクラシック音楽のようなestablishedな業界だけです。

一般的な映画でも、分岐する側面が全くないとは言えないと思った。例えば、ビデオゲームで言う「暗黙の条件」のように、あるフラグや何らかの示唆に気づいた人にとってはその後のストーリー内容の理解の仕方が、気づいていない人とは同じとは言えないはずだ。そういう意味では、視聴者側がストーリー展開における「選択」ができない一般的な映画でも、分岐はあり得るといえるのではと思った。

ビデオゲームでは、物語言説の表示のタイミングがプレイヤーによって左右されるということについて。村人全員に話しかけるとかいうように、プレイヤーが積極的に物語内容を進めない場合ではなく、条件が達成できない等の要因で先の物語内容を知りたい、あるいは先の物語言説を表示させたいのに、プレイヤーがそれを叶えられない場合があるというのが、私には独特のことに思えます。例えば、小説や映画の場合（生粋のノベルゲームもそうかもしれませんが）、飛ばし読みをすることを小説や映画が遮ることはない気がします。この違いは「プレイヤーによって左右される」に含まれるものと考えられるのでしょうか。

A. たしかにその点は独特ですし、ビデオゲームの物語デザインが難しいところでもあると思います。それが「プレイヤーによって左右される」ものだというのはある意味でそうですが、「意図的に選択できる」という意味ではなく、「プレイヤーの能力に依存している」という意味なので、授業で取り上げた話とはちょっと違いますね。また、たんに読み進められないだけであって物語内容が分岐するわけではないという点でも違う話かなと思います（ずっと進められずに足踏みしていると別のルートに入る、みたいな作りになっていれば分岐ですが）。

また、分岐ストーリーにしろ一本道の物語にしろ、選択しないとストーリーが進行しないということは、その条件を達成するまでにストーリーが進まない期間があるということであり、その条件の達成こそがビデオゲームの醍醐味(といえるか？)なのだろう。ところで、「暗黙の条件」というのはどう考えれば良いのだろうか。場合によっては知らないとどうしようもない要素ともいえるはずで、何かを参照しなければ、達成しようとしても何とか出来るようなものではないように思え、分岐の条件としてはちょっと異色にも見えるのだが。

A. 前半は上のコメントの話ですね。後半のフラグによる分岐は、意図的な選択ではないという点では「異色」かもしれませんが、実際そういうしかたで分岐するケースは大量にあるので、例外扱いはできないですね。あと、意図的な選択ではあるがその結果は必ずしも意図していなかった、みたいなケースも大量にあります。そういうのもすべて分岐ストーリーでしょう。

暗黙の条件によって物語が分岐するゲームの場合、プレイヤーが明確に分岐を把握して選択することが難しいため、物語を自ら選んでいるという意識は希薄になるのではないか。そのために、行動や明示的な条件で枝分かれしていく場合と比べ、プレイヤーの引き受け度合いは低くなるのでないかと考えた。

A. 分岐であることを把握していなければそうなるでしょうね。なので、分岐ストーリーであることは必ずしも引き受け度合いの高さにつながらないということだと思います。下のコメントにあるように、その逆も言えると思います。

ペルソナ５の主人公はドラクエやポケモンの主人公と同じようにテキストに表れる発言はしないが、会話パートでは提示される3つの選択肢から発言内容を選ぶことが非常に多い。しかし、告白シーンやラスボスとの最後の会話などのごく一部の例外を除いて、どの選択肢を選んでも物語のエンディングやパラメータなどに影響がない。それでも選択肢を選んで会話に参加することで、主人公の喋らなさ（＝プレイヤーが主人公の視点に入り込める）と「主人公がストーリーに関与している感じ」を両立する効果がある。これは、物語内容が変わらなくてもプレイヤーの引き受け度合いを高められることもあるという例だと感じた。

A. いい例ですね。そういう表現によって「関与している感じ」「引き受け度合い」が高まるメカニズムがどういうものなのかは気になります。

物語内容を変えられることの意義

その他

美的な文化にはエリーティズムが必ず含まれるので、「素人」や「一般人」にとってよくわからない面がある（言い換えれば「教養」でしかない面がある）とおっしゃていたが、その理由はなんなのかという疑問が浮かんだ。ある一定の文脈（教養）を踏まえていないとその価値、歴史的意義などがわからないためであると理解しているが、それでいいのでしょうか。あるいは、文化的なものに価値を作るシステムは基準を設けることが必要となり、その基準を作るのはいわゆる通な人間であるためなのだろうか。

★A. 「趣味（taste）」という美学的な概念に関わる話ですが、①美的判断には一定の規範性がある（正しい判断と間違った判断がある）、かつ、②正しい美的判断をするための能力・素養はそこまで標準化・普遍化できない（それゆえ教育が難しい）（とされている）という理由によります。ようするに、たんに文脈についての知識がないと正しく判断できないという以上に、ある種の知覚能力（しばしば「センス」や「感性」と呼ばれるもの）が要求されるということです。結果として、一部の（センスのある）人にしか正しい判断がわからないのは当たり前ということになります。「教養でしかない」ということの含意は、わかる人以外にとっては、対象の「正しい」価値が自分ではわからないまま、「これがよい／よくないとされている」という知識をお勉強として得るしかない、ということです。

②自体にすでにエリーティズムが組み込まれていますが、良し悪しはともかくそういう前提があるのが美的な文化です。スポーツにも似た事情があります。

もちろん、入り口は「お勉強」であっても徐々にその価値づけのポイントがわかってくることもあるので、一概にそういうエリーティズムは否定できないと個人的には思っています（否定すべき面もありますが。とくに美的エリーティズムが社会的な優越と結びついたりすると問題になります）。

関係する話題で以前ちゃんとした発表原稿を作ったことがあるので、興味があればどうぞ。

ピエール・ブルデューの一連の仕事も参照。

ブルデュー『美術愛好』山下訳、木鐸社

ブルデュー『ディスタンクシオン I・II』石井訳、藤原書店

ネットフリックスで、インタラクティブ映画という、二択の選択肢を、見ている人が選択することによって物語が進んでいく、という映画があります。（例：ブラックミラー　バンダースナッチ）ビデオゲームの物語の特殊性がストーリーの分岐にあるとするならば、そのような映画は、厳密に分類すると映画ではなく、実写の映像を使ったビデオゲームになるのでしょうか。

A. バンダースナッチについては個人的にはインタラクティブな（それゆえ普通ではない）映画だと思いますが、そもそも「厳密に分類」する必要がないです。

授業内容をまとめると、｢分岐｣はビデオゲームの特徴的な要素であり、分岐選択の組み合わせの多様性ゆえビデオゲームは｢プレイヤーだけのストーリー｣として考えられるのだろう。しかし、ビデオゲームだけではなく一部の小説にも｢分岐｣が見られる場合がある。小説においてハッピーエンドとバッドエンドの2種類が用意されている場合があるのだ。これはビデオゲームのストーリーの模倣といえるのであろうか。｢分岐｣という要素はビデオゲーム以外にも見られうるのではないかと思った。