「書く」タスク管理 (20211127)
===1 書くことの延長線上にあるタスク管理
頭の中だけで、物事がいつもうまく扱えればよいですね。でも、その日の調子によってはなかなかうまくいかないことがあります。頭の中に感情がうずまいていると考えるのは難しくなりますし、一方的で偏った見方に心が支配されてしまうこともあります。そんなときには、日を改めて考えてみるのがよいかもしれません。
もしくは今ちょっとだけ脇においておきたい、今は考えたくないときもあるでしょう。そんなときには、文字にしてみたり、図を描いてみたり、表にしてみたりする方法があります。特に文字にする(あるいは文章にしてみる)ことは有用です。図や表に比べると素早く書き出せますし、読むだけで頭の中に戻すことが簡単にできます。図や表から得た解釈・判断を文字・文章として記録しておくと、あとで読み返したときに自分が自分に説明することも容易にもなります。また、後述するアウトラインとして扱うのにも適しています。
文字として(文章として)、あとで読み返したときのために理解しやすいよう、つまりそれは頭の中に戻しやすいように整理しておきます。そうすると頭の外に書き出していたものを読み返して再び頭の中に戻すといった「頭の外と中とで行き来しやすい形」になります。この「頭の外と中とで行き来しやすい形」にしておくと考える助けになります。
タスクを書くことは普通のタスク管理でも謳っていますが、タスクついて書く内容と書いてみた内容をどう扱うかといった書くことの延長線上にあるタスク管理についての話をします。
===2 Atomicなものとして書き出す
私は、文章にして書き出すときには「Atomic」に書き出すようにしています。Atomicとは何でしょうか。これは、Andy Matuschak氏が提唱したEvergreen notesというノート術出てくる「Evergreen notes should be atomic」のAtomicに注目したものです。
Atomicというのは、単語として「原子の」「きわめて小さい」という意味ですが、ここではこれ以上分割できないというよりは、むしろ化学元素の最小単位であり、なおかつ下部構造の陽子の数によって原子(元素)が変わるように、最小単位としての要素を切り出すことと、他にも変わり得るものを同時に持つのがAtomicなものと扱ってみたいと思います。
たとえば、「髪の毛を切る」といったタスクをAtomicなものとして書き出すとき、それは普通のタスク管理で大きなタスクを小さなタスクに分ける分解とはちょっと異なったものになります。
分解
髪の毛を切る
いつ床屋・美容院に行くのか決める
床屋・美容院を予約する
予約した日時に床屋・美容院に行く
床屋・美容院で髪を切ってもらう
床屋・美容院から帰ってくる
Atomicなもの
髪の毛を切る
いつ床屋・美容院に行くのか決める
行くのが面倒くさいので、なにかのついでに行ってこようかなと思う
そういえば、近くに気になってたケーキ屋さんに寄ってみたい
ケーキをごほうびにして床屋・美容院を予約する
どうでしょうか。分解では、足して元の形に戻らなければならない、という制約が出てきます。しかし、Atomicなものは「面倒くさい」「気になっていた」「ごほうび」などの足しても元の形に戻らない要素がでています。そして、「そういえば」という連想・リンクが繋がっているところも注目してみてください。
Atomicに書こうとした(書いた)結果として、タスクに対する「構成」が起こっているように思えます。「分解」だけではない「構成」または再構成が起こることによって、足しても戻らなくなっています。「構成」は、Atomicなものによって起こりやすくなります。
とはいえ、分解が必要ないわけではありません。分解はAtomicに書き出すことのの一種であり、対象を小さい要素に分けることで整理したり、実行に移しやすくなります。分解は、元の形があるという前提からAtomicに書き出たもので「構成」することです。
Atomicなものを書き出すと、連想・リンクしやすくなる特徴があります。書くことの延長線上にあるタスク管理を行う際に、対象をAtomicではない大きな塊として書いてしまっていては、連想・リンクさせにくくなります。大きな塊は、得てして複雑なもので発想や変化を生み出しにくくなってしまいます。複雑な形の大きなジグソーパズルのピースは他にはまりにくいですし、単純な形の小さなピースのほうが他のものと合致しやすいものです。
このように同じ「髪の毛を切る」でも、分解して書き出すならどこまで行っても髪の毛を切るという元の形に戻る制約がありますが、Atomicなものとして書き出すなら、ケーキ屋さんに行くついでに床屋・美容院に行っているようなところさえあります。
以上のように、書くことによるタスク管理については、メモすることや、ノートをとることにおける「書く」行為も参考になります。
===3 自分なりのアウトラインを作る
Atomicに書き出したものをどのように扱うかというと、文字情報を扱っていることを生かしてアウトラインとして操作することができます。アウトラインとして操作することでAtomicなものとして書き出したものの構成が簡単に組み替えられます。構成が簡単に組み替えられることは『アウトライン・プロセッシング入門』にも記載があります。アウトラインの基本的な操作としては、『アウトライン・プロセッシング入門』を参照してみてください。
「1 書くことの延長線上にあるタスク管理」で記載した「頭の外と中とで行き来しやすい形」には、人のアウトラインにならうより、自分なりのアウトラインを作ることが重要になります。
では、自分なりのアウトラインとは何でしょうか。それは未だないものを認識するアウトラインです。
先ほど挙げた「髪の毛を切る」もアウトラインとして捉えられます。前者の大きなタスクを小さなタスクに分けて分解したアウトラインは、"頭の外にある事柄"を土台(ベース)にして作り上げ頭の中へと入れておく、すでにあるものを認識するアウトラインとなります。いわば「手順」のような誰が作ってもほとんど同じとなるものです。客観的な事象に基づく事柄を書き表しています。このときの主体はタスクにあり、タスクに関する理解が進むことになります。
対して後者のタスクをAtomicなものとして書き出したアウトラインは、"頭の中にある事柄"を土台(ベース)にして作り上げ、意識の上に現し出しておく、未だないものを認識するアウトラインになります。いわば「気づき」のような人それぞれ自分なりのアウトラインになりやすいものです。主観的な事象に基づく事柄を書き表しています。このときの主体はタスクの担い手(書き手)にあり、担い手(書き手)関する理解が進むことになります。
コラム:ボトムアップ
「髪の毛を切る」というタスクを分解した時の元の形に戻る制約は、アウトラインでいう(最)上位項目が「髪の毛を切る」から変わらない(固定している)ことを示しています。
髪の毛を切る
いつ床屋・美容院に行くのか決める
…
対して、Atomicなものを書き出したときは、(最)上位項目が「髪の毛を切る」から「ケーキ屋さんに行く」がボトムアップされています。
ケーキ屋さんに行く
ついでに髪の毛を切りに行く
===4 リストにあるタスクからの選択とリストにないタスクからの選択を並走させる
Atomicに書き出して、自分なりのアウトラインにしたものは、ノートやリストとして捨てないで取っておきます。そうしたノートやリストの使い所として挙げるならば、日々を過ごす中でやることや、またはやらないことについて使ってみるのはどうでしょうか。以下に挙げるのは実際に私が書いて残したものの例です。
週末に買い物に行くときに、買うもの、または買わないものを書いて残しておく。
気になった本があったときにタイトルをメモして残しておく。
家族の予定を聞いたときに書き留めておくなど。
ノートやリストを使ってみるときに気をつけたいのは、ノートやリストにしたものからだけやることを決めるものではないということです。せっかく、やることについてノートやリストを使ってみることにしたのに、と思いたくなりますが、やってみるとわかりますが、すべてのやることに対してリストから選択するのは、「言うは易く行うは難し」で意外とハードルが高いです。
最初は、リストを気にせず選択することを優先して、適宜ノートやリストに書いて残しておくほうが慣れるまでは破綻しにくいと思われます。そうして徐々にノートやリストができあがってくると、リストがあるからリストにないタスクをやっていても元のタスクに戻ることができると思える状態が生まれてきたりします。リストにないやることでも必要だと判断したらやる選択をする。そのようにして、リストにあるものとリストにないものとを並走させながらハイブリッドに選ぶようにします。そうして、リストにないものをやったときには再び適宜ノートやリストに書いて残すことを繰り返してみましょう。
コラム:リストに縛られる
リストが役に立つことがわかってくると、リストに書いていない選択をしにくくなることがあります。特に見落としがちなのが「休む」ことです。リストに「休む」というタスクはなくても休みたいと思えば、休む選択をしましょう。
もしくは「休みたい」と思ったことを書きます。「「休みたい」と書いても休めないんだよなあ」と書きたくなくなる気持ちになるかもしれません。でしたら「休みたいと思った」と書いておきます。「思ったこと」は事実なので書きやすくなるのではないでしょうか。
===5 既存のシステムと自分のやり方をシェイクする
ノートやリストがただ点在していても、まとまりがありません。まとめるためのやり方にはどんなものがあるのでしょうか。時間が潤沢にあり、車輪の再発明もいとわないのであれば、ゼロから自分のやり方を作ることも可能です。また,そこに楽しみがあったりもします。ですが、もしかしたらそうしてせっかく作り上げた自分のやり方も過去の先人たちに遠く及ばないものかもしれません。もし、過去の先人たちの編み出した既存のシステムにどんなものがあるのか調べてみたくなったときには、うってつけの本として『「やること地獄」を終わらせるタスク管理「超」入門』(以下「やるおわ」)がありますので参考にしてみて下さい。
既存のシステム
GTD
自分←イマココ
マニャーナの法則
GTDからのトップダウンでGTDのシステム内に自分が入ることで、これまでの自分のやり方になかった部分を学び、吸収する格好になります。ただ、残念ながら既存のシステムを知っただけで、自分のやり方として使うことは窮屈で困難なことだと思います。そこで以下のとおり、アウトラインをシェイクしてみます。
トップダウンでの成果とボトムアップでの成果を相互にフィードバックすることで、書きながら浮かんでくるランダムな発想を活かし、有機的に連結していく
自分のやり方
GTD的←イマココ
マニャーナ的
自分(のやり方)をボトムアップさせて、GTDにトップダウンの形をとります。これだと自分のやり方のトップダウンでGTD的なシステムを扱うイメージができそうでしょうか。
GTDを使ってうまくいかないことも出てきたら、もしかするとまだ充分にGTDを学んだといい難い部分があるのかもしれません。そうしたときにふたたびGTDからのトップダウンで自分を位置づけます。こうしたシェイクを繰り返すことで、だんだんと自分のやり方としてGTD的な要素をAtomicに取り入れていくようにします。もしかすると、GTDそのものが自分にとって充分ではない部分があることに気づくかもしれません。
GTDをやっていても、GTDとは別のやり方をしたくなったら別のやり方をやってみます。これも「ハイブリッド」でやっていくやり方です。それを他の方法も含めて繰り返していくと、それらが組み合わさって自分なりのやり方ができあがってきます。これは「シェイク」に相当するものです。シェイクのやり方が受け入れられると、自分のやり方が崩れたときにも対応できるようになります。
タスク管理で使うシェイクは、シェイクの一部でしかなく、広く文章を書くときにシェイクというのが有効となりますので、詳しくは『アウトライナー実践入門 ~「書く・考える・生活する」創造的アウトライン・プロセッシングの技術~』を参考にしてみて下さい。
===6 自分のやり方の崩れに気づく
「既存のシステムと自分のやり方をシェイクする」ことで曲がりなりにも自分のやり方でやってみてうまくいくところを見つけることができたとします。でも、うまくいくようになったのに、自分でそのやり方を意識していないうちに崩してしまうようなことがあります。無理をしているところ、またはあとで無理がたたってくるようなことはないかどうかを確認してみます。
物事は変化していくので、崩れてあたりまえです。これを崩さまいとしたり、崩れたことに失望しているよりも、崩れたものを元に戻すのか、もしくは崩れたやり方のほうこそ本来の使い方とするのかを考えてます。うまくいかなかったことを「Atomicなものとして書き出す」こと、そしてそれを「自分なりのアウトラインを作る」ようにしてみます。必要であれば再び「既存のシステムと自分のやり方をシェイクする」こともよいでしょう。
気をつけたいのが、「既存のシステム」と「自分のやり方」と比較して崩れていることよりも、「うまくいっているときの自分のやり方」と「うまくいっていないときの自分のやり方」とを比較して崩れている、崩れてしまった部分に着目するようにします。こういうときに「書くこと」が大切になります。なぜ崩してしまったのか、崩れないようにするにはどうすればいいのかを自分のやり方に含めたり、取り除くことを考えます。
===7 ここに書いたことでさえ
これまでに述べたことを「書くタスク管理」と呼んでみましょう。では、この「書くタスク管理」をそのままやればいいのでしょうか。話はそう簡単には行きません。それは「書くタスク管理」は私にとっては「自分のやり方」でも、人からみれば「既存のシステム」になってしまっているからです。
既存のシステム
GTD
マニャーナの法則
…
書くタスク管理
自分←イマココ
そこで「既存のシステムと自分のやり方をシェイクする」です。
自分のやり方
GTD的
マニャーナ的
…
書くタスク管理的←イマココ
「書くタスク管理」のすべてを取り入れるのではなく、「Atomicなものとして書き出す」ことによって、「自分なりのアウトラインを作る」この繰り返しで、ぜひ自分のやり方を作り上げてみてください。そこまで含めてこそ「書くタスク管理」なのです。