暗黙の形態
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■課題の位置づけ
古澤スタジオの通底するテーマは「建築の両義性」です。今年度は「存在」を切り口に両義性を考察します。各年度におけるキーワードの関係は以下のようになっています。2020年度「タイポロジカルな図形」→地と図の反転、内部と外部が拮抗した両義的状態。2021年度「エスクという形容詞」→○○風の○○であって○○ではない両義的状態。2022年度「潜在という存在形式」→潜在と顕在、暗黙知と形式知が同居した両義的状態。 また、もう一つの通底する具体的なテーマは「手を動かす」ことです。頭で熟考するのではなく、直接的に手を連動させ、思い切って造形するトレーニングを意図しています。
■課題の背景
今私たちを取り巻く社会は、道徳的に正しいとされる世論の声に同調しなければならない空気が漂っています。その声に同調できない者は排除されるような世界になりつつあります。本来あらゆる事物は両義的性質を持っているにもかかわらず、ある特定の「分かりやすい」概念へと同一化させようとする不寛容な状況になりつつあります。こうした状況の中だからこそ、明瞭さへ同一化させようとする理性的な声への抵抗、あるいは非同一性への離脱が必要だと考えます。
■<暗黙>とは?
視覚中心主義や音声中心主義への批判は、芸術や哲学における創作の動機と同義です。目の前にある分かりやすい対象物(像や声)を疑うことこそが創作の原点のはずです。かつてマイケル・ポランニーは、人間には言語化できない潜在した知=暗黙知こそが創造性を溢れさせる源泉であることを指摘し、客観的で分かりやすい共有可能な知=形式知を優先しようとする社会を批判しました。こうした潜在的なるものへの探求は、ジル・ドゥルーズやアリストテレスにおける「潜勢態」や「可能態」への眼差しと符合します。 本課題では 〈暗黙〉 を、潜在しながら存在している状態と位置づけ考察を行なっていきます。物体における質量のように目に見えないけど確実に存在しているもの。あるいは、物体の体積が水中で変換される浮力のようなもの。こうした事物に潜みながら存在している「潜在体」を、建築として立ち現すことを試みます。