建築デザインⅠ/2023年度
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ポストコロナ、DXの進化、あらゆる進行中の社会変化の中で、今、あらゆるアクティビティとリアルな空間の関係性が再度問われています。
働くというアクティビティがオフィスでなくても行えるように、アクティビティはもはやそれに個別対応する空間を必ずしも必要とはしていません。様々な場がオンラインで提供される一方で、人々はモバイルやPCなどを使いながらオフラインとオンラインを行き来し、自らのモードを切り替えながら生きています。
このため、既存のビルディングタイプを超えて新たな空間を生み出すことや、リアルな場だからこそ生まれる新たな出会いを考えることが、今の時代では強く求められています。
本課題では、一つの建物の中で複数のアクティビティを掛け合わせながら、従来のビルディングタイプを徹底的に解体し、現代の社会と個人の状況に応じる新たな空間を構想してもらいます。
「近代建築は、ヤヌス神のように二つの顔を持っている。客観的に見ると、近代建築史とは、建築という分野のアイデンティティーが失われていった記録である。建築はルネサンス時代には自立して存在していたが、18世紀から19世紀にかけてすでに危機に陥っていたのである。他方、主観的に見ると、近代建築史とは、この失われたアイデンティティーを取り戻すために行われた一連の個人の試みを示すものである。」(マンフレッド・タフーリ『近代建築史』1976)
タフーリが『近代建築史』冒頭でいみじくも述べたように、近代建築/モダニズムとは、強力なイズムのもとで為された全体運動であるというよりは、銘々の建築家による極めて個人的な試みの連続であったとも捉え得るのではないでしょうか?建築家相互間の影響はもちろん相当程度にはあったにせよ、現在のように瞬時に情報が流通することのない世界を想像すれば半ば明らかではあるのですが、建築家の試みは断片的な情報から導かれた属人的な知の集積と共にあったと考えられます。つまりモダニズムは、その端緒からしてすでに多頭的とでもいうべき状況にあったのです。にもかかわらず、事後的に最大公約数的な言語を標準的な仕様と見做し、その追認に終始するのだとしたら、それは如何にも勿体無いことではないでしょうか。近代を担った建築家たちによって、現代に通じるほぼ全ての建築的な試みは既に為されてしまったという見立てもある一方で、彼らの仕事を今一度精査することによって、また新たな建築の様相を見出すことは可能であると考えています。
「モダニズムとはあらゆる領域で人工的な環境を生きることを余儀なくされた人間の、新しい精神の状態である」と述べたのはピーター・アイゼンマンですが、私たちが人工的な環境(ex. made of から made from の世界)の中に生きている状態は相変わらずです。それでも1900 年代初頭を生きた人間の精神状態と、私たちのそれとでは明らかな違いもあるはずです。モダニズムから現代に至るまでの建築群を単なる歴史として捉えるのではなく、援用可能な構法や空間生成法の宝庫として捉え直し、その豊穣の海を自在に航海できるようになるための処女航海としてこのスタジオを位置付けています。
まずはモダニズムー近現代一現代建築の傑作群=Masterpieces の中からひとつの建築作品を選び、丁寧に分析することから始めていきましょう。建築はもとより、建築家や社会環境に可能な限りシンクロすることによって、当該建築の全容とそこで押し開かれた世界線、あるいはその限界を知り、今を生きる私たちにも有用なアイディアの検証とその展開を考えていきたいと思っています。
一例として下記に、近代建築からはじまりそのエスプリを十全に展開したと考えられる現代建築までの作品を、年代順に挙げてみました。もちろんここに挙げていない作品を選んで頂いても結構です。各人がそれぞれの作品に没入し、歴史的な理解を深めると同時に、自分なりの見立てを付け加えてください。その建築が持っているポテンシャルを十全に引き出しつつ、新たな建築的展開が為されることを期待しています。
建築を多種多様な「流れを編む存在」と位置付けて、地域社会や風景を構想してください。
流れというと、まずは人の移動、(スパンの長短を問わず)や交通が挙げられます。人々が集う公共的な建築は、これらの流れを円滑にしたり、滞留させたりしてつくっているといえます。また、熱や風といった自然現象流れの一種です。人間にとって快適になるように、窓の開け方や外形、あるいは建物を配置を工夫します。これらの自然現象は、あるときは土砂や氾濫といった災害的な要素を伴うこともありますが、それをどのように制御するのかということでデザインは発達してきました。
物の流れも昔からある流れのひとつです。近年はネットで買うことが一般化して、物流はどんどん大きな流れになっていますが、地域内で小回りのきく物流は高齢化が進む社会にとっては重要なテーマです。
人々の活動を維持していくための仕組みのデザインもまた、流れのデザインです。単体の流れをいろいろ列挙してきましたが、この流れを円滑にしたり、淀みをつくったりするところに、物理的なデザインが潜んでいます。設計のスタジオなので、この物理的なデザインについて、見識を深めたいと思います。
その上で、この課題では、複数の流れを重ね合わせることの可能性を追求したいと思います。異なる流れが出会ったり乗り換えたりするところでは、いろいろな意味での交換が発生します。その効果を最大化するためには、場合によっては、上に書いたように配置レベルからデザインが再考されます。
この複数の流れを重ね合わせることを「編む」と表現します。つまり、流れを編む建築は、地域社会での生活の質や、風景のあり方を左右することができます。
そもそも社会とは分業です。分業である以上は、移動と交換が前提です。人やモノの移動のみならず、森羅万象の流れもふくめて、移動や交換の質を変化させるとき、どのような建築、地域社会、風景が描けるでしょうか。一緒に考えていきたいと思います。
指導教員