奥平康祐「隠れた渓谷」
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隠れた渓谷
代官山コンプレックス(商業施設+集合住宅)
代官山という街には、意識的に植えられた緑と守られてきた緑に溢れ、上品な街並みが広がっている。
そこにある旧山の手通りは、ヒルサイドテラスやティーサイトが雰囲気を作る主要道路であるが、一方で、ティーサイトの裏にある路地にはブティックや雑貨店などが点在し、surugakuがその路地空間を模倣したような形態で存在する。
計画敷地は旧山の手通り沿い、駅から見てヒルサイドの奥に位置していて、向かいにティーサイトがある。
北に旧山の手通り西に小道、東におおきな木がすこし、南におおきな木がたくさんあり、坂を下ると隅田川が流れていた。
この周囲の状態から、ここに求められる建築の条件として
「奥行を感じること」
「自然を感じられること」
のふたつを挙げた。
奥行きを感じるため、シーンの連続を感じられるシークエンスをつくり。その中のクライマックスのシーンに代官山の意識的な緑と守られてきた緑を挟んだ。
シーンの順を追って見ていくと
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①ファサード
旧山の手通り沿いの建築は、活動がそのまま見えると言うより、1層挟んだ向こうに活動の場があるように感じた。
そのため、奥や上層階に配置することの多い集合住宅部分を、商業の活動を隠すボリュームとしてあえて道路側に配置した。
ファサードには均質な窓が並び、無機質な形態で街に対している。
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②中庭(下から)
無機質なファサードの奥には緑豊かな中庭が広がり、ここがひとつのクライマックスとなっている。
すり鉢状の中庭に対して各階に植栽が植えられていて、中庭の中心から見上げるとその植栽が重なって見える。さらに、南側の階数を下げたことで日差しが存分に降り注ぎ、植栽を照らしている。
光の変化から伺う時の流れや季節の移ろいと、重なっていく緑から意識せずとも自然を感じられる。
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③回廊
中庭を囲うように廊下が廻っていて、連続的に上の層へ行けるように構成されている。
その廊下に対して住戸ユニットが並ぶ。
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④住戸ユニットのあり方
住戸はほとんど全てメゾネットタイプとなっていて、どちらかのフロアを「開いたフロア」もう一方を「閉じたフロア」と定め、開いたフロアを一般の人が通る回廊に向けている。
開いたフロアは土間になっていて、住戸 オフィス 店舗など様々な用途に使えるようにしている。開いたフロアの回廊側には3m×3mの前庭を設けていて、居住者は好きに彩れる。
これによって、回廊を歩く人は進む度に住戸や店舗が代わる代わる出てくる、まさに路地的な構成となっている。
⑤頂上テラス
ここが2つ目のクライマックス。
すり鉢状の中庭を登っていくと、頂上にはテラスがある。
南の木々の奥に代官山の街並みと、隅田川の桜並木が見える絶景がひろがり、日当たりもいい。
テラスの脇にはカフェでテイクアウトしたコーヒーを片手に風に吹かれながら読書もできる。
以上が全体のシークエンス
あえて奥という言葉を使って表現すれば
無機質なファサードの奥に進むと自然を感じる中庭に抜け
回廊の奥へと進めば、人が住んでいたり服が並んでいたり人が仕事していたりと、景色が移ろい
1番奥のテラスからはおおきな木々と、その奥に桜並木が見え
ユニットを見てみると、前庭の奥にリビングが見え、その奥にはテラスと階段、昇った奥にはプライベートなスペースがある
中庭に抜けた時わぁっと感動したり
自分と同じ趣味を窮めた人の前庭を見つけて、そこに住む人と話してみたり
センスの好きな服屋さんの暮らしている様子を特別に覗かせてもらったり
テラスの横にあるカフェの店主と仲良くなって2階にあがらせてもらったり
春はテラスから隅田川の桜並木を見て
夏は花火を見ながら手持ち花火をして
秋は紅葉した木々を見ながら3階の中庭に向いたベンチで読書をして
冬は雪の積もった裏の木々を見ながらカフェの店主とお話する
講評:旧山手通り沿いの、端正な集合住宅のファサードを抜けた奥には、すり鉢状にテラスが連なる空の大きな庭が広がる。テラスからテラスへと歩みを進めると、住まいのエリアやお店が連なるエリアと景色が活き活きと移ろう。「奥」というのは、今いるところとちょっと違った様相がつながる向こう側なのかもしれない。奥へ奥へと誘う鮮やかで詩的な体験は、実は、メゾネットをうまく利用することで2つの顔を持つことのできる住戸計画や、回遊性を持ちながらも各階を連続的につなぐ動線計画といった、多岐にわたる綿密な計画が生み出している。(今村水紀)