親密圏
ハンナ・アーレントという 20 世紀の思想家による 「親密性の領域 (the sphere of intimacy)」という言葉があります。 「親密圏」 とも訳されるこの言葉は、アーレントが 『人間の条件』 (1958 年) という本で展開したものです。 それは、近代社会がもたらす画一主義に対する抵抗の拠点として、近代人が発見したものであるとアーレントは言います。
「家族」と「親密圏」はずれることがあるし、ずれていてもいい
こうした二重の要請の間で折り合いをつけることが難しいからこそ、「家族」 と 「親密圏」 の間にはずれが生じることがあるし、そしてそれは仕方のないこと、ずれが生じて当然のことだと考える必要があると思います。 その時々の状況によって、「家族関係が親密性の領域ではない」 という状況はあり得ます。 私たちはまずこのことが現実にあり得るということを深く理解するところからスタートすべきだと思うのです。
理解して何になるか。一つには、家族以外の 「誰か」 が 「親密圏」 の担い手として存在している必要があるということを私たちが理解することにつながります。 冒頭に紹介した PIECES が追求していることが、まさにこの担い手の育成、彼らの言葉では 「コミュニティユースワーカー」 の育成、ということになるのではないかと私は思っています。
そして、もう一つには、家族が家族の外に助けを求めてよいという理解が広がることにつながってほしいと私は願っています。 家族の問題は家族が解決しなければならないという思い込みから親を解放することで、子どもが親密圏を新たに回復するチャンスにつながる場合も多くあると思うからです。
私たちが生きていくために必要な関係性にはまだ名前がない――家族と社会の新しいあり方について