能力はどのように遺伝するのか
発行年 : 2023 年
1 章 遺伝子が描く人間像
ヒトの遺伝的差異は、遺伝子の圧倒的同一性の大海に浮かぶ小島ほどの形の違いでしかない
ヒトの遺伝子は 30 億の塩基対から成るので、0.1 % でも 300 万か所 一塩基多型 (SNP) : 構造遺伝子や調整部分の遺伝子について、塩基のひとつが変わるだけで意味が異なってくる可能性があり、この 1 つの塩基の個人差をいう 形質の頻度の分布型の違いでしかない
2 章 才能は生まれつきか、努力か
努力で変わりうると信じる人の方が、勉強に前向きで成績も良い
双生児法により、人間のあらゆる行動や心の働きに遺伝の影響があることがわかっている 「心は全て遺伝的である」
遺伝の関与しない心理的形質はない (完全に遺伝で決まるわけではない) 才能も心理的形質の一種
「生まれつき」 や 「天性」 といったものは表現型であり (非学習性の心的機能)、遺伝ではない
努力してもパーソナリティが変わるわけではない
内向的な人が外向的に振る舞うことはできても、外向的になるわけではない
才能は、能力の中でも特に、他者から価値があると評価される能力のこと 遺伝か環境か?
2 つの軸 : 内在か外在か、不可変か可変か
育ての親や生まれ落ちた地域社会、時代背景など
3 章 才能の行動遺伝学
遺伝率とは、ある特定の社会における表現型の全分散のうち、遺伝子型の分散で説明される割合のこと 表現型の分散は、遺伝による分散 (Vg) と環境による分散 (Ve) から成り立つ 全分散 Vp = Vg + Ve
複雑な性別と年齢の交互作用が見て取れる
ジェンダーアイデンティティ (性自認) は環境によって形成されるのではなく、本来もっている遺伝的なものだが、成長とともに社会からの規範的要請により押し殺されている、ということを示唆しているように思える 脳
個人的な記憶や自己を司る内側側頭や帯状回では、相対的に非共有環境が大きい → 個人的な経験が脳の構造にも関与 4 章 遺伝子が暴かれる時代
IQ の代わりに最終学歴を使うことで、多くのサンプルを確保
5 章 遺伝子と社会
疾患や能力、パーソナリティに遺伝的な理由で何か問題があると、遺伝を悪とみなして、薬物や教育、遺伝子編集などで環境に合わせようとしがち
ヒトの息苦しさをなんとかするには、環境を遺伝子に合わせるべきではないか
科学は価値中立であることが求められるのが基本だが、こと遺伝に関しては優生思想や差別意識などに結び付けられてきた歴史があり、科学者として 「価値中立であるべき」 という立場に留まるべきではない 「自立した人間」 を育てるべきなのか?
政治でも教育でも、現代では遺伝的な個人差を考慮することはなされづらい 遺伝はタブー視されがち
不当に無視され、誤解されている状況