生活史理論
適応のための戦略における、リソース (生態エネルギーや物理的なリソース (資源)) の割り当てについての個人差を理論化したもの 種間の戦略の差異を遺伝的基盤と環境状態 (個体の物理的特徴も含む) によって形成される適応戦略としての行動パターンのセットの差異としてとらえる
いずれの戦略も,その個 体ごとの適応度,つまり,生存,繁殖可能性を最大化することに収束する。ただし,そのための資源(resource) は有限であり,有限である資源の割り当てはトレード・オフの関係にある。そのため,資源をどの領域にどの 程度割り当てるのかという問題に直面する。そして,割り当てのパターンは各個体とその置かれた環境により 異なる。繁殖におけるトレード・オフは,生殖により多く割り当てるか(mating effort),養育により多く割 り当てるか(parental effort)に 2 分される。R. H. MacArthur と E. O. Wilson は,資源の割り当ての進化に 関して,次の式を提案した: dN/dt = r (1 - N/K) N
ここで,K は環境収容力(その環境における個体数の定員) ,r は内的自然増加率(その生物が実現する可能性 のある最大の増加率) ,N は個体数,t は時間,dN/dt ܰはある瞬間における個体の増加率を表す。K に対して N が少ない場合,右辺のカッコ内は大きくなる。そのため,ある瞬間における個体の増加量は,r(最大増加率) が高いことが寄与する。つまり,ある環境において個体数が少ない場合には,生殖数を高めるように資源を割 り当て,個体数を増やすことが,遺伝子を残す戦略として有効である。一方で,K に対して N が多い場合には, r を高めても N は増加しない(N の最大数は K であり,現時点で最大数に近いため)。また,このような場合 には,N の最大は K に固定されるため,N に含まれるか否かについて同種内における競争が激化する。そのた め,遺伝子を残すためには,r に資源を割かず,競争を勝ち抜くための子への投資に資源を割き,少数の子ど もが確実に生殖するための戦略が有効である。 上記の理論を現実的な環境に置き換えると,K に対して N が少ない環境とは,予測不能な気候変動や捕食者 の存在などより,個体の生存率が低いような環境である。言い換えると,常に生命が脅かされる,将来の予測 が立たない不安定な環境である。一方で,K に対して N が多い環境とは,予測不能な気候変動や外敵の存在などがなく,個体の生存率が高いような環境である。言い換えると,生命を脅かされず,将来の予測が立つ安定 的な環境である。前者の環境において進化する戦略は r 戦略,後者の環境において進化する戦略は K 戦略と呼 ばれる。