家族機能と社会福祉
家族機能と社会福祉
家族機能が定義されると、社会福祉との関連性も明確となる
家族機能の補完的機能として社会福祉を規定することが可能となる
末吉重人氏はそれが望ましいと考えている
福祉国家論では必ず取り上げられるエスピン・アンデルセンの 『福祉資本主義の三つの世界』 (1990 年) では、家族に頼らない福祉が行われている社会が望ましいとの理論が展開されているが、家族と福祉を切り離す (特に老人福祉において) のは、我が国の文化に馴染まないと考えられる
もちろん負担をかけ過ぎないような支援の仕組みは不可欠
5 つの家族機能順に福祉の補完機能を考察
1. 「性的機能」 には、社会的補完機能は存在しない
実際には風俗産業があるではないかと反論されようが、それを肯定するわけにはいかない
マードックは、ある社会における性的秩序の維持は、その社会を持続させるか消滅させるかというほどの重要な課題であると述べている
どのようなタイプの性産業が興隆しようと、それに規制を掛ける努力をし続けることが社会の安定をもたらすものと考える
その原点は、性関係が社会的に許容されるのは夫婦間のみという原則
2. 「性的役割分業」 については、それをそのまま産業化社会に適用するわけにはいかない
しかし家庭が成立するために、①稼得・②家事等メンテナンス・③育児の 3 つを家族維持機能とし、それを夫婦で分担することは不可欠
その割合は、それぞれの家庭の状況で決めるしかない
最悪のパターンは、妻がパートをし、かつ家事・育児を全面的に担当、夫は稼得のみというもの
このパターンは長く続かない
妻の負担が重過ぎるため離婚の可能性が高まる
夫の側にも家事・育児を分担して貰わないといけない
もう一つのファクターとして注目したいのは、祖父母の応援を期待できないかということ
他の動物に比べてはるかに養育期間の長い人間の子どもを、妻ひとりで行うことは不可能に近い
複数の大人による支援が必要
祖父母の貯蓄も夫婦の支援になる
福祉的代替性としては、稼得に関するものは多い
生存権保障としての生活保護、児童への各種手当、年金などいわゆる社会保障
家事に関しては、老人保健法が適用される状況になれば、ホームヘルパーの支援が行われる
私的には家政婦を雇うことも可能
育児については子どもの社会化のところで検討
3. 「生殖機能」 については、社会的代替機能は基本的に存在しない
子どもは夫婦間にて産むのが原則であり、子どもの福祉にとっても望ましい
フェミニストは 「三歳児神話」 を標榜するが、それは、3 歳まで母親がつきっきりで世話をする必要はなく、子どもが必要としているときにちゃんと向き合う時間を取るということ
1 歳ごろになれば、昼間は保育園に預けても全く問題ない
朝と夕方以降、そして土日に子どもとしっかり接する時間を持てば愛着は十分形成できる
4. 「子どもの社会化」 については、親の責任として子どもを、いわゆる一人前にする責任がある
民法 818 条に親権規定があるものの、そうした責任を明記していない点は不十分ではないか
子どもの社会化については多くの社会的代替機能が存在
保育園や幼稚園から始まる学校制度がその最たるもの
その他、児童福祉法に規定される児童福祉施設 (主なものとして、乳児院・児童養護施設・母子生活支援施設・障害児施設・児童自立支援施設等) が特別な支援を必要とする子どもたちへの家庭の代替機能となっている
5. 「老親扶養」 を加えた理由は、家族機能と福祉機能の整合性を持たせるためでもある
多くの老人が自宅で死を迎えたいと思っているが、それが可能となるには家族の支援と訪問緩和ケアが必要
32.4 %にものぼる独居世帯への支援は、社会福祉が担うしかない
参考文献
家族論の思想的系譜と家族機能を補完する社会福祉政策の考察 ―トッド『家族システムの起源』を手掛かりに―