ICTを活用した授業実践についての具体的方法と所感
これまでに行ってきた、ICTを活用した授業実践について、その具体的方法と所感を簡単にまとめます。(2020/3/30 作成、随時更新) Zoom等での同時双方向型のオンライン講義は未経験(2020/3/30現在)ですが、対面授業を基本としたうえでICTの活用を試行錯誤してきました。その具体的方法と所感について、次の6つに分けてまとめています。 (1) 講義・知識伝達
(2) 課題提出(ファイル提出)
(3) 課題提出(クイズ・アンケート)
(4) フィードバック
(5) グループワーク等
(6) 反転授業(的なもの)
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(1) 講義・知識伝達
大きく下の2つの方法を試してきた
他の授業と同形式なので学生にとってはわかりやすいはず
公開のしかたはLMSの仕様に依存
基本的に、ファイル(PDF、Office系など)での公開が多い
容量制限なども意識する必要がある(ことが多い)
動画が置けるかどうか(&その容量)もLMS次第
PC上で管理しているファイルからURLを発行するだけなので、LMSへのアップなどが不要(ファイルの二重の管理をしなくてすむ)
ファイル容量を気にしなくてよい(クラウドストレージのプランによるが)
公開のしかたを柔軟にできる
ファイルを置くだけでなく、説明文を加えたり画像を加えたり、工夫次第でかなりユーザーフレンドリーな資料公開が可能
動画も置ける(YouTubeのリンク埋め込み)
YouTubeに課題の解説動画をアップして、この動画URLをScrapboxに埋め込んで公開したこともあります
動画単体で公開するのではなく、「ある授業回のページ」における一連の流れの中に動画を埋め込んだりできるので、学習の流れが自然になる
学生は閲覧だけであればGoogleアカウントは不要
プレゼンモードを使用すれば、PowerPoint等で資料を作らなくても、Scrapbox上で資料を作ってそのままプレゼンもできる(2019年度の基礎ゼミはすべてこれでやった) ただしかゆいところに手が届かない感もあるので、きちんと資料を見せたい場合はちゃんとスライドを作ったほうがよいことも
いろいろやってみての所感
資料へ常にオンラインでアクセスできるのはメリットが大きい(と感じる)
欠席した学生へのケアにもなる
印刷はもはやほとんどしていない
学生もScrapboxを使えるようにしているので、メモやノート的なものはオンラインでとる学生も多い
ただし、ルーブリックなど、「強く意識づけたい」ものについては印刷して配付することもある オンラインのみだとこういう意識付け(メリハリ)が難しいかもしれない
(2) 課題提出(ファイル提出)
課題ファイルの提出については、以下の方法を試してきた
LMSの課題提出機能を使う
講義・知識伝達と同様に、便利だが、LMSの仕様に依存する
とくに、提出後のファイルの管理はLMSの「気の利き方」次第で作業量が大きく変わるはず…
ファイルの命名規則、フォルダ管理など
いちいちダウンロードしないといけないとか
Dropboxのファイルリクエスト機能を使う(2018年度はこれでやってみた)
URLを知っている人がDropbox上にファイルをアップロードできる機能
ファイルの管理(提出者の同定、課題IDの同定など)はちょっと大変かも(工夫次第)
ファイル提出機能を使う
ただしファイル提出には学生もGoogleアカウントでのログインが必要
提出日時や各質問フォームへの回答はGoogleスプレッドシートへ自動的に格納されるので、ファイルの提出状況の管理を(うまくやればかなり)自動化できる ScrapboxからGoogleフォームへのリンクを貼れば、課題の説明(必要に応じて画像等含む)と課題提出へのリンクを同画面で行えるので、おそらく学生にとってはわかりやすい
以下、実際にやったいろいろな細かいこと(近藤伸彦, "クラウドサービスを活用した相互閲覧・相互評価ベースの授業設計と実践", 第26回大学教育研究フォーラム, 2020. (発表スライド - Slideshare)から抜粋) https://gyazo.com/0de955b66f84476aea2e20d7aa5c034a
https://gyazo.com/edb92fce770430936e4bd174bf5a9123
https://gyazo.com/afead873c7b63738c4b30d3261deab3a
https://gyazo.com/438c1a74f910094803ec06243bda38ea
このように、Googleスプレッドシートと組み合わせることで、課題の提出管理(提出期限の処理等含む)から採点作業まで、スプレッドシート上で一括して行うこともできる
いろいろやってみての所感
すでにあるLMSを使うのはラク
だが柔軟さには欠ける
Googleフォームはかなり便利
Googleスプレッドシートと組み合わせれば相当に柔軟な運用ができる
ただしその仕組みを準備するのはそれなりに手間がかかる(作ってしまえばむちゃくちゃ便利)
Googleアカウントを学生が使用しないといけないので、それに同意してもらう必要はある
プライベートのアカウントを使いたくない場合は授業用のアカウントを作成してもらう(初回にしっかり説明する)
(3) 課題提出(クイズ・アンケート)
クイズやアンケートについては、以下の方法を試してきた
LMSの機能を使う
できることはLMSの仕様に依存する
仕様によっては自動採点やランダム出題などができたりする
Googleフォームを使う
Googleスプレッドシートに回答が自動格納されるので、これをもとにスプレッドシート上で自由に集計できる
Googleフォーム自体に集計機能があるが、成績とも紐付けるのであればスプレッドシートで自分で集計するとよい
Googleフォームの集計機能を学生に見せてクリッカー的に使うのもアリ
アイスブレイク的なアンケートでこれをやったこともあります
テスト機能も使える(私は未使用)
いろいろやってみての所感
やはりGoogleフォームが何かと便利、という印象
LMSならLMSで統一、Google系&Scrapboxならそれで統一、といった感じで、いずれかに統一するのがよいはず
前者は一通り機能が揃っていて使い方も規格化されているので使いやすいが柔軟性に欠けるかもしれず、後者は工夫次第でなんでもできるが仕組みを作るのが大変、というトレードオフ
(4) フィードバック
課題の採点結果やコメントなどのフィードバックについては、以下の方法を試してきた LMSの機能を使う
LMS上で採点結果を入力してフィードバック
課題へのコメント等を返す
(Googleフォームでの課題提出をもとに)Googleスプレッドシートを使う
Googleフォームでの課題提出をGoogleスプレッドシートで管理することで、スプレッドシート上で課題を採点でき、その結果をさらにスプレッドシート上で整形して、学生にオンラインで公開することで、課題提出→管理・採点→フィードバックをオンライン上で完結できる
https://gyazo.com/3e06c4afdf193e1b322d2cdf0ad4815f
匿名化したうえで、採点結果やポイント(成績に関わる得点)をスプレッドシート上で共有
https://gyazo.com/43bfc3a5746043c878b47fca2be43208
いろいろやってみての所感
学習活動に対してなるべく早めのフィードバックをすることは、学生のモチベーションにかなり影響していると感じる 成績に関わるものは評価基準を明確にして正確にフィードバックし、「やり直し」の機会が十分にあるとよい 行動と評価の関係がわかるので、学生自身が学習計画を立てたり現状をモニタリングしたりできるようになる
(下の「グループワーク等」にあるように)教員によるフィードバックだけでなく、学生の相互フィードバックもうまく使うと効果的 オンラインの比重が高まるほど、フィードバックの設計はしっかりすべきと思われる
対面授業のような「雰囲気」や「ノンバーバルな情報」がないので、「学生に届くフィードバック」をオンラインのみでやるにはそれなりの工夫が必要かも
(5) グループワーク等
以下の方法を試してきた
Scrapboxでの共同作業
グループごとにScrapboxのプロジェクトを作り、グループワークにおけるオンラインでの議論、成果物作成作業をここで行うこととした
Scrapboxは同一ページをリアルタイムに複数人が編集できる
調べたことやアイデアのメモなどを非同期に複数人で蓄積&編集できる
教員もプロジェクトメンバーにしておけば、フィードバックもできる
Slackへの通知もできるので、授業外のグループワークの状況をモニタリングできる
プレゼンモードでScrapbox上にまとめたものをそのままプレゼンすることもできる
「連絡」には向いていないので、SlackやLINEなどと併用するとよい
Googleフォームで相互評価、Googleスプレッドシートで即時フィードバック
基礎ゼミでは、プレゼンに対する相互評価(ルーブリックに基づく)を行い、結果をGoogleフォームですぐに送信してもらった
回答はスプレッドシートで自動集計して、すぐに発表者へフィードバックした
これに加えて、Scrapboxでも発表に対するコメントを自由に書き込めるようにした
口頭では質問できない学生も、Scrapboxにはけっこう質問やコメントを書き込んでいた
それでよいのかということもあるが…
「教養としてのデータサイエンス」では、提出された演習課題をScrapbox上で閲覧できるようにして、これを学生相互に閲覧してもらい、ルーブリックに基づいて相互評価して、Googleフォームで送信してもらった 上と同様にスプレッドシートで自動集計して、リアルタイムにフィードバックした
https://gyazo.com/c4f5edfdb47c614cd791a0b42c454c7a
いろいろやってみての所感
Scrapboxは共同作業に非常に向いている
そもそもUIが知的生産に向いている
同期/非同期いずれの作業も可能
「授業時間外のグループワーク」は日程調整などがうまくいかないことも多いが、オンラインで非同期でグループワークができるのはかなり良い(はず)
ただし、活性化するかどうかは教員のファシリテーション次第
相互評価は授業が活性化する印象
リアルタイムに近いほど効果が高い(気がする…)
学生同士で「適切な評価」ができるか、という課題もあるので、教員やTAによるそれへのメタな評価もあるとよい
オンラインのみの授業でも、相互評価&即時フィードバックは活性化のひとつのカギになるかもしれない
(6) 反転授業(的なもの)
以下の方法を試してきた
授業で扱うテーマについて、配布した概念マップをもとに学生それぞれが授業時間外に調べ学習を行い、これを学生個々のScrapboxプロジェクトに「オンラインノート」としてまとめる作業を行う オンラインノートは学生同士で相互に参照できるようにしている
相互参照によって学び合える
人に見せる意識をもって作成できる
どのようなことを知るために、どのようなキーワードを調べるとよいか、というヒントは明示的に与えるとよい
作成したオンラインノートを活用して、演習課題に取り組む
演習課題は、上の「課題提出」「フィードバック」「グループワーク等」にあるように、採点したり、相互評価したり、教員から解説を加えたりして(ここが実は「(一方的)講義」にあたる部分)、学びを深める
いろいろやってみての所感
「(一方的)講義」を行う前に、学生自身で該当テーマについて調べて外化してみたうえで具体的な演習課題に取り組む、というデザインは悪くなさそう
(一方的)講義で与える情報の吸収力が上がる気がする(←ちゃんと検証はしていない)
ここでも、学生同士でシェアすることは(少なくともモチベーションの面で)有効そう
オンラインのみでも可能なデザインだが、「調べ学習&オンラインノート作成」「演習課題」「課題のシェア&解説」のタイミングは同期させる必要が恐らくある