悪しき無限
悪しき無限
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概要
「不誠実な無限」は、ヘーゲルが『大論理学』で批判した schlechte Unendlichkeit(英訳 bad infinity、日本語では「悪しき無限」「不真実な無限」など)の別訳・パラフレーズである。これは「有限を一つ超えるたびに n→n+1 と延々と外部へ逃れ続け、決して完結しない無限」であり、ヘーゲルが肯定的に擁護する「真の無限」(true infinity)と対照を成す。(hegel.net) 本稿では①用語の整理、②ヘーゲルにおける理論的位置、③マルクス経済学への応用、④現代思想での展開を簡潔にまとめる。 1. 用語と翻訳
悪しき無限/不誠実な無限 – ヘーゲルが「無限進行(Endlosigkeit)」と同義に使う否定的概念。日本語研究では「悪しき無限」が定訳だが、「不誠実な無限」「不真実な無限」とも訳される。(takamuratetugaku.org) 2. ヘーゲル哲学における位置づけ
2.1 定義
悪しき無限は「有限を否定して外へ伸びるだけで、否定そのものが反復される状態」(hegel.net)。数学的には無限直線や数列 1, 2, 3… が例示される。 2.2 真の無限との対比
ヘーゲルは「円」を図式に用い、有限と無限が対立するのではなく、有限が無限のうちに止揚される構造を真の無限と呼ぶ。(hegel.net) 悪しき無限を克服し、自己包含的な全体へ移行する弁証法こそが彼の「絶対者」の核心である。(hegel.net) 2.3 批判の射程
ヘーゲルはカントのアンチノミー論や神学的超越概念を「有限と無限の外的対置」に留まるため悪しき無限に陥ると批判した。(Core) 3. マルクス経済学への継承
4. 現代思想での展開
批判的理論・解釈学 – ガダマーは人間の有限性を強調し、「ヘーゲルの全体化は〈悪しき無限〉を招く」と論じた。(スタンフォード哲学百科事典) ポスト・ヘーゲル派 – バタイユやシェリング再評価の文脈で「悪しき/不誠実な無限」の再検討が行われている。(みやこ鳥) 政治経済批判 – 「終わりなき国債発行」「デジタル資本のスケール至上主義」などが悪しき無限の現代的アレゴリーとして議論される。(davidharvey.org) 数学・論理学 – 無限集合やパラドックスの議論では「可能無限(潜在的無限)」と「実無限(完成された全体)」の区別がヘーゲル的問題設定を今も刺激している。(スタンフォード哲学百科事典) 5. まとめ
「不誠実な無限/悪しき無限」は、有限を超えたはずの無限がじつは有限への依存を脱しきれず、ネガティブな運動を単に繰り返すだけというヘーゲルの批判概念である。真の無限への移行は、有限を内部に包摂し自己完結する全体性――弁証法的止揚――によって初めて可能になる。この区分は、マルクスの資本批判から現代の成長至上主義批判に至るまで広く引用され、未完の拡大を続けるシステムに対する根源的問いを提供し続けている。