同一性保持権の制限範囲の再検討
同一性保持権の制限範囲の再検討 PDF
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【現状の問題点】
現行著作権法20条の「同一性保持権」は、著作者の「意に反する」あらゆる改変を広く禁ずる規定として定められ、立法過程の経緯から非常に強力に著作者を保護する構造になっている。
従来の判例・通説は、同条2項4号(「やむを得ないと認められる改変」)を厳しく限定解釈してきた。そのため翻案など実際に一定の改変が必要とされる場合でも、条文上の要件だけでは対応しきれず、不明確な理屈づけで改変を容認せざるを得ない事例が散見された。
デジタル技術の進展により、個人が簡単に加工・改変を行う時代となり、著作者(改変を恐れる)と利用者(自由に加工・編集したい)の対立が先鋭化。著作物の円滑な利用や新たな創作発展を視野に入れた調整が必須となってきている。
【提案されている考え方・対応策】
1. 利益衡量説の導入
著作者と利用者の利益を総合的に比較衡量し、改変を認めるか否かを判断する手法を積極的に採用する。
具体的には、20条2項4号(「著作物の性質並びにその利用の目的及び態様に照らしやむを得ない」)を一般条項として柔軟に解釈し、単なる「名誉・声望の毀損」があるか否かだけでなく、改変の必要性・実用性・社会的慣行など複数の要素を考慮して結論を導く。
2. 改変の判断基準の明確化
利益衡量を行う際の考慮要素として、著作物自体の創作性の程度、改変行為が及ぼす影響の大きさ、改変が私的領域か公衆向けか、利用目的(教育・パロディ等)や慣行上の必要性などを整理・列挙し、予測可能性を高めるべきと指摘される。
3. 著作者優位の解釈を緩和
従来の「意に反する=著作者がNGと言えば即侵害」という極端に著作者優位な運用を見直し、著作者と利用者双方の利益調整を重視する方向へシフトすることで「文化の発展」という著作権法の目的をより柔軟に達成すべきと論じている。
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以上のように、従来の厳格な解釈を再検討し、著作者と利用者の利益をバランスよく調整する解釈運用を行うことが本稿の主な提案である。
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ベルヌ条約と同一性保持権についても書いている