一方的ライセンス改定の効力発生タイミング
一行まとめ: ユーザがライセンスの提示を受け、その後ダウンロードを行ったタイミングで、ライセンスに合意したとみなし、効力が発生する。ライセンスが一方的に改定された後、ダウンロードをしていない場合、そもそもそのライセンス契約は効力を発揮していない。
まず遠隔者との間の契約について。
民法 第一編 総則 第五章 法律行為 第二節 意思表示
(隔地者に対する意思表示)
第九十七条 隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。
民法 第三編 債権 第二章 契約 第一節 総則 第一款 契約の成立
(隔地者間の契約の成立時期)
第五百二十六条 隔地者間の契約は、承諾の通知を発した時に成立する。
2 申込者の意思表示又は取引上の慣習により承諾の通知を必要としない場合には、契約は、承諾の意思表示と認めるべき事実があった時に成立する。
というわけで旧ライセンス、新ライセンスがいつのタイミングで相手方に到着していたのかが重要。
NVIDIA GeForce Home > ドライバーダウンロード > NVIDIA GeForceソフトウェアお客様使用ライセンス
大切なお知らせ – よくお読みください: このNVIDIA GeForce ソフトウェアお客様使用ライセンス (「本ライセンス」) は、NVIDIA Corporation とその子会社 (「NVIDIA」) が所有し、ここからダウンロードできる GeForce ソフトウェア (コンピューター ソフトウェアと関連資料を含みます) (「本ソフトウェア」) の使用に適用される契約です。本ソフトウェアのダウンロード、インストール、複製またはその他の使用により、お客様は本ライセンスの条項による拘束を受けることに同意したものとみなされます。本ライセンスの条項に同意しない場合、本ソフトウェアをダウンロードしないでください。
と書いてあるので、ダウンロード前に提示されて、それに同意してダウンロードをしているのだとする。
この場合NVIDIAの意思表示はダウンロードしようとする人の画面に表示された時点で効力を生じ、ユーザがそれに応じてダウンロードを開始した時(承諾の意思表示と認めるべき事実があった時)に契約が成立する。
で、ユーザがこの旧ライセンスに合意して、ソフトウェアをダウンロードし、使用している状態で、ライセンサー側がライセンスを更新したら場合、何が起こるか?
まずライセンサー側の意思表示がユーザ側に到達した時から効力発生なので、到達しているのかどうかが問題となる。
到達していることを確実にする方法としてよく使われるのが内容証明郵便だね。
今回のケースで、ユーザには「ソフトウェアの最新のライセンスがどうなっているか日々確認する義務」なんてものはないので、単にWeb上に掲載したライセンス情報を変更しただけでは意思表示が到達したとは考えられない。
お知らせメールを送ってそれが到達してれば到達したと考えて良いだろう。
次に、この意思表示によって、成立済みの「旧ライセンスでの契約」は終了するのかどうか。ライセンス条項を見ると契約の修了に関しては以下のように書かれている。
3.終了
お客様が本契約書の諸条件のいずれかを遵守しない場合、本ライセンスは自動的に終了するものとします。その場合、お客様は本ソフトウェアとそのすべてのコンポーネントの複製物をすべて破棄しなければなりません。
防衛的停止。お客様が、NVIDIA に対する何らかの法的手続きを開始する、またはそれに参加する場合、NVIDIA は、かかる法的手続きの係属中に、その独自の裁量により、本ライセンスのもとで付与されるすべての使用許諾およびその他すべての権利を停止し、または終了することができるものとします。
念のため状況を整理する:
ソフトウェアの使用を認める旧ライセンス契約が成立済み
ユーザはその契約に従ってソフトウェアを特定状況(データセンター内)で使用している
ライセンサーが新ライセンスを意思表示
新ライセンスでは特定状況での使用が禁止されている
あれ、ということは新ライセンスで特定状況での使用を禁止したとしても、すでに契約済みの旧ライセンスの「諸条件を遵守」はしているのだから旧契約は終了しないし、引き続き旧ライセンスの契約に基づいてダウンロードしたソフトウェアは使用を続けられるのではないか?
ライセンスが切れた上でそれでも使い続けた場合にどうなるのかについて検討しようと思ってページを作ったのだが意外と旧ライセンスが切れていなかった。うーむ。とりあえず話の続き。
仮に何らかの理由でライセンスが切れているとする。
著作権者の権利として複製権は専有されている。
著作権法
(複製権)
第二十一条 著作者は、その著作物を複製する権利を専有する。
だけど「使用権」などと言うものはない。著作物の使用に関する権利は専有されていないので、著作物を入手した人がそれを使用することに対して著作権者が「やめろ」と言う権利はない。
だからダウンロード(=複製)の前に「ダウンロードするな」と言うのは有効だが、ダウンロードした後に「使うな」と言うのは有効ではない。その主張の根拠となる法がない。
さらに、ユーザは「プログラムの著作物の複製物の所有者」なので、それを使用するための複製などが許されている。
(プログラムの著作物の複製物の所有者による複製等)
第四十七条の三 プログラムの著作物の複製物の所有者は、自ら当該著作物を電子計算機において利用するために必要と認められる限度において、当該著作物の複製又は翻案(これにより創作した二次的著作物の複製を含む。)をすることができる。ただし、当該利用に係る複製物の使用につき、第百十三条第二項の規定が適用される場合は、この限りでない。
2 前項の複製物の所有者が当該複製物(同項の規定により作成された複製物を含む。)のいずれかについて滅失以外の事由により所有権を有しなくなつた後には、その者は、当該著作権者の別段の意思表示がない限り、その他の複製物を保存してはならない。
ちなみに第百十三条とは「侵害とみなされる行為」の規定である。例えば複製物を輸出するとかね。
ライセンスが切れた時に複製物を持ち続けることができるかどうか。ライセンスにはこう書かれている。
お客様が本契約書の諸条件のいずれかを遵守しない場合、本ライセンスは自動的に終了するものとします。その場合、お客様は本ソフトウェアとそのすべてのコンポーネントの複製物をすべて破棄しなければなりません。
契約に合意してダウンロード(=複製)している以上、この条件に該当する場合には複製物を破棄しなければならない。そうでない場合は債務の不履行であり、損害賠償請求の対象になる。
民法
(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条 債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
このケースでは、要件として「お客様が本契約書の諸条件のいずれかを遵守しない場合」って明記してあるので、NVIDIA側から契約解除をしてきた場合にはユーザが破棄しなきゃいけない理由はない。
NVIDIAはこの契約を解除することができるか?
第三款 契約の解除
(解除権の行使)
第五百四十条 契約又は法律の規定により当事者の一方が解除権を有するときは、その解除は、相手方に対する意思表示によってする。
契約に、NVIDIAが解除できるとは書いていないし、NVIDIA側に解除権を与えるような法律もないので、双方の合意がないと解除できない。