わかった感と統合失調症
わかった感と統合失調症
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まず結論を一文でまとめると――統合失調症では「わかった!」という主観的な確信( feeling of knowing/理解の快感)が生じ方・扱い方ともに健常者と質的に異なり、①メタ認知機能の低下と②誤った確信への過度の自信が重なって妄想や誤信念を固定化しやすいことが、多数の神経心理・脳画像研究で支持されています。以下、その医学的根拠を整理します。
1. 「わかった感」はメタ認知の産物
認知心理学では、自分の記憶・判断の正確さを瞬時に評価する感覚を Feeling of Knowing (FOK) と呼びます。FOK は健常者なら正答に強く、誤答に弱く出る「適切な自信調整」を担います。(Frontiers)
統合失調症ではこのメタ認知全般が低下し、FOK や Judgment of Learning などの指標が一貫して不正確になることがメタ解析で示されています。(PMC)
2. 過度の「確信」と妄想形成
2-1. 過信バイアス
患者は誤答に過度の自信を示し、正答には逆に自信が乏しい「反転パターン」を示すことが実験課題で確認されています。(PMC, Taylor & Francis Online)
こうした過信は「ジャンプ・トゥ・コンクルージョン(早まった結論づけ)」傾向と結びつき、妄想の確信度を高める一因と考えられています。(VUMC News)
2-2. 錯覚・幻覚との関連
視覚錯視では健常者が「これは凸だ」と“わかって”しまう中空仮面錯視に患者はだまされにくく、トップダウンの期待が弱いことが示されています。(WIRED)
ホロウマスク錯視ともいうそうだ: ホロウマスク錯視 - Wikipedianishio.icon
同様に各種錯視・深度逆転錯視のレビューでも「予測と感覚の重みづけ」異常が報告されています。(Frontiers)
3. 神経基盤
fMRI 研究では自己認識課題中に前帯状皮質・前頭極の活動低下が、FOK/洞察障害と相関しました。(PMC, Academic OUPress)
DTI 解析でも前頭-側頭‐頭頂の白質連結低下が「自分が病気だとわかっていない(無病識)」と関連。(PMC)
こうした回路は感覚入力と予測を統合し「本当にわかったか?」を再評価するネットワークと重なります。
4. 日本語研究の示唆
国内の質的研究でも、患者の自伝的記憶語りに「自分ではよくわかっている」「どうしたら良いか戸惑った」が共存し、推測優位のリアリティ・モニタリングが指摘されています。(J-STAGE)
東大精神科の介入研究は**メタ認知トレーニング(MCT)**が「こり固まった“わかったつもり”をほぐす」ことで陽性症状を軽減可能と報告しています。(東京大学, clinical-neuropsychology.de)
5. 臨床的インプリケーション
1. 認知行動療法+MCT:誤った確信に気づき直させ、自分の「わかった感」を再検証する訓練が陽性症状の再発予防に推奨。(clinical-neuropsychology.de)
2. 治療動機づけ:無病識(anosognosia)は治療抵抗性の主要因であり、FOK を扱う面接技法や動機づけ強化が有効。(Verywell Health)
3. 研究課題:
FOK のニューロモジュレーション標的(ACC 背外側前頭葉)
デジタル MCT による自己トラッキングと過信検出
幻覚発生時のリアルタイム自信評価
6. まとめ
要点:統合失調症では「わかった!」という主観的確信が、①誤った判断への過信、②本来必要な自己検証の欠落という二重のゆがみを示す。
背景機構:前頭皮質‐視床回路の統合障害がメタ認知を阻害し、確証バイアスを強める。
介入:メタ認知トレーニングと認知行動療法により、「わかった感」を相対化し再検証するスキルを養うことで症状軽減が期待できる。
これらの知見は、単なる“理解不足”ではなく 「誤った確信の神経心理学」 として統合失調症を再定義する視点を提供します。
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