LTへのSuppliment
LTについて意見があり,その後Nota Inc.の人々と話したり あたりを読んだりして,実際に私の方もいろいろLTに不備不満があったのでここで書いておく。
言い訳
当日までイベントの存在を忘れていて,おもむろに作ったスライドなので説明不足。
正直私個人のscrapboxの「使い方」はあまりうまくいってないので,自分の研究の文脈に無理やり載っけてしまったんだけど,そもそも元の研究のほうがいろいろ揺れていた
タダでピザが食べたかったので登録したが,友人が枠にあぶれてしまったので,一般枠を譲って無理してでもLTをやろうとした。すべきではなかった。
本題
(引用)
人々が何かを行う際,そこで何が起こっているか理解できていないと何もできない
リアル→だいたい共通理解があるはず
Web→知らない人が来る→大変
企業でも互いに知らなかったりするよね
全ての知識をまとめるコラボレーションシステムは,この問題をどうにかしないとカオスになる
(引用終わり)
という問題提起をし,その中にscrapboxを載っけたのだが,これが「機能」の説明で「目的」に踏み入っていないというのは全く正しい。ここでは,リアルでは対面だからある程度状況の理解が共有できているからいろいろできるけど,Webではそうではないという古典的なことを言っている。このことはコラボレーションシステム,複数人が同時に使って何かをするシステム一般について言えると思われるが,確か「知識をまとめる」は後から付けたので蛇足かもしれない。いずれにせよ,どんなシステムを作ろうが,そこで何が行われているかわからんかったらうまくいかんよという一般論である。
で,scrapboxが「知識をまとめる(管理する)一連の機能を持つ」かどうかについて。これはおそらく持っていないということはないと思う。例えば「会話的なコミュニケーション」に重きをおいてscrapboxを利用した場合,それが純粋に「知識をまとめる」ことを排除できるかというと,そうではないと思う。例えばその場限りの会話のみにscrapboxを使って,終わったら即座に削除するということも可能だろうが,それすら「削除する」という「知識をまとめる機能の一種」に依拠している。いやいや違うだろ,データを削除するだけだろという反論もあろうが,私は見た人が理解できるようなデータだったら知識と呼んで良いという基準を採用している。それが有用かどうかは別の次元の話である。で,scrapboxで理解できないデータを貯め込むことができるかというと,できるとは思うが,システムはそう意図して設計されていない。人によって文章や他の何かを追加できるというのが基本的な「機能」である限り,理解可能なデータ,つまり知識を扱っているというのが私の見解である。
次に,scrapboxが「知識をまとめる一連の機能以外に,何も機能を持っていないか」というと持っていると思う。システムに備わっている機能をどう解釈するかは利用者に任されている。その点で「共同編集」が「会話的なコミュニケーション」を生み出し,それがいわゆる知識をまとめることと異なることは容易に想像できるし,またそのように使われるだろう。
ということで,scrapboxを「知識をまとめるコラボレーションシステム」の一種として表現したことは不注意である。「知識をまとめる機能をその一部として備えたコラボレーションシステム」あたりの方が良かったと思うし,それならわざわざ枕詞を付ける必要はない。ただ,他のシステムとしてStack Overflowを紹介し,それにつなげてscrapboxについて何か示唆を出したかったみたいな意図はあった。Stack Overflowは以下の通り創立者によって明確に「より良いプログラミングがゴールである」「良いプログラミングに関する知識の総和を集合的に増やす究極的な意図」を持ったサービスであると言われており,それは現在まで継承されている。
It is by programmers, for programmers, with the ultimate intent of collectively increasing the sum total of good programming knowledge in the world. No matter what programming language you use, or what operating system you call home. Better programming is our goal.( https://blog.codinghorror.com/introducing-stackoverflow-com/ ) 「知識を扱うシステム」は数多いが,「知識をまとめることを支援し,それを増やすこと自体を目的としたサービスなりコミュニティ」はそう多くはない。Wikipediaが代表例だが,他にはそんなに多くない。というかStack Overflowがプログラミングを支援するサービスの中で特異な目的を持っている。前掲のブログにも少し書かれているが,Stack Overflowの設立経緯は,ブロガーがブログ記事へのコメントでいろいろプログラミングに関する質問をされ,それにわざわざ答えるという状況にうんざりしたからである。それを解決するために,探しやすい情報源を自分たちで作り,それに世界中のプログラマーを巻き込むというサービスを作った。
この目的がStack Overflowの利用者に共有されているとは限らない。実際に,登録して1回しか質問をしない利用者が多く,彼らがそのような目的を持っているとは考えづらい。重要なのは,にもかかわらず,Stack Overflowで割りと探せて割と使える知識が集まってきて,「究極的な意図」に(どれだけうまくいっているかはともかく)貢献してしまうということである。で,うまくいっているかはともかく,個々人が小さな貢献だけをしているのに大きな規模の現象としてまとまっていることに関心を持ち,中で何が行われているんだろう?ということを研究している。その中には恐らく「知識をまとめる」以上のことがあるが,うまく言葉にできていない。
scrapboxに戻ると,私が最初にscrapboxを見たとき「とにかくまとまってなくてもガンガン書いていけば,意図せずともつながっていく」ということが興味深かった。私は頭を整理するのが苦手で,とにかくいろいろな方法を試しているが,scrapboxの考え方はなかなか良いと思った。そして,私がやるとどうもうまくいかないなというのも感じている。なので,scrapboxをどう良くできるかに,今研究していることが役に立つのではないかと思った。つまり,「目的によらずなにかやっていけば知識がアクセス可能にされていく(つまり,まとまっていく)」という点で,scrapboxとStack Overflowが成り立ちも仕組みも全然違うが,何か共通する点を持っているんじゃないかと思ったのだ。
知識が意図せずともまとまっていくからこそ,「知識をまとめる」ことはシステムに任せて,知識をまとめる以外のいろいろな目的に集中して使うことができる。その「いろいろ」は講演なりLTで出てきたと思う。知識をまとめることに頭を使わせると,逆にいろいろなことができなくなると思う。それは会話も同じで,会話が辛い人間にとっては会話自体に頭を使ってしまうので,本来の目的に集中できない。その点で,scrapboxは「知識をまとめるコラボレーションシステム」としても,うまくできていると思う。どんな目的で使うにせよ。だからこそ,恐らく利用者にそこまで意図を伝えなくても良いのではないかとも思う。どちらが良いのかはわからない。